第2話 ダストゾーンの少年


 都市型学園ガブリエル。

 それは巨大な都市の形をした学び舎であり、異能力者の巣窟であった。

 異能力が発見されて十年。この世界には変革がもたらされようとしていた。

 その都市に並ぶのはビル群ではなく、学生寮や校舎、学部棟ばかりである。

 その一角に、廃棄物処理場ダストゾーンが存在する。

 都市型学園ガブリエルではその一切を学園内でまかなっている。発電、農産、研究、その他もろもろである。無論、廃棄物の処理もそれにあたる。

 そこに出入りする少年が一人。ヘッドホンを付けて、ネクタイを緩めただらしない学生服姿の少年。小脇にノートパソコンを抱えている。


「はてさて掘り出し物はあるかなーっと……おや?」


 少年は廃棄物処理場に相応しくないものを見つける。それは人の足だった。


「おいおい、まさかバラバラ死体――」


 そこに居たのは大の字で寝転がる、ヘッドホンの少年と同い年くらいの少年だった。少しホッとしたように胸を撫でおろして、ヘッドホンの少年は、大の字の少年をつつく。


「ほら、起きろ」

「うっ……アカリ……」

「明かり? ほら、スマホのライトだ。起きろ」


 スマホのライトで大の字を照らすヘッドホン。眩しそうに眼を開ける少年。


「ここは……?」

「ダストゾーンだ……なんでこんなところで寝てやがる?」

「ダストゾーン……? 俺は確か……うっ」

「どうした、どこか痛むのか?」

「何も……思い出せない……」

「はぁ? 記憶喪失だとでも言うつもりか? 精神系能力者にやられたか?」

「能力者……?」

「おいおい、そっから説明がいるのかよ」


 ヘッドホンの少年は後頭部を面倒くさそうに掻く。

 起き上がった少年は、ヘッドホンを眺め。


「此処はどこなんだ。俺は誰なんだ」

「記憶喪失テンプレ台詞だな、おい」

「頼む教えてくれ」

「……仕方ねぇな、だけど対価は要求するぜ?」

「ああ、俺に出来る事なら」

「じゃあ説明してやる。此処は都市型学園ガブリエル、異能力者を隔離し管理する学び舎、いわゆるディストピアさ」

「ディストピア……? それより異能力者って」


 コホン、とヘッドホンの少年が息をついた。


「異能力者ってのはようは超能力者だが、その能力は多岐にわたる。だから、異能力者って呼び名で纏められてる」

「実在するのか?」

「そこは記憶があるのか? 発見されたのは十年前。つい最近さ。十年でこの都市型学園を造り上げたっていうのも驚きだけどな」

「そんなに広いのか此処?」

「ああ、東京の三分の一を占める大都市だ」

「三分の一!?」

「東京は記憶に残っているみたいだな?」


 ヘッドホンの少年のが完全に起き上がった少年の顔を覗き込む。覗き込まれた方は少し、たじろいだ。


「そういや自己紹介がまだだったな、俺の名前はシームレス。ハッカーをやらせてもらってる」

「シームレス? 本名かそれ」

「偽名に決まってるだろ。ハンドルネームって言った方が正しいかな。お前、自分の名前は思い出せるか?」


 シームレスに問われ、少年はしばし考えた後。


「……りいち、りいちだった気がする」

「リーチねぇ。いいんじゃねぇの? 今日からお前はリーチだ」

「……それでその異能力者の集まる学び舎で、俺は何を……」

「そんな事、今、お前を見つけた俺が知る訳ないだろ? それより説明は終わりだ。俺に代価を払ってもらうぜ」

「代価ってなにをすれば……」


 シームレスはリーチの肩に手を乗せ、耳元で囁いた。


「これから俺は、あの機動エレベーターの動力源を盗みに行く。お前にはその実行犯をやってもらいたい」

「はぁ!? 機動エレベーター!?」


 ゴミの山、その向こうにそびえ立つ、巨大な一本の柱、それは空を突き抜け、宇宙へと伸びているようだった。それはまさしく機動エレベーターと言って差し支えないものだろう。


「あんなものまで、存在するのか!?」

「機動エレベーター自体は異能力者発見前から建造されていたものだ。完成したのはごく最近だがね」

「あれの動力源を奪う!? そんなの無理に決まってる!」

「それが出来るんだなぁ。この天才ハッカー、シームレス様にとってはな。後は、直接、動力源を回収する手足が必要だった。それがお前ってわけ、身体つきも悪くない。お前、案外、記憶喪失前は体育会系だったんじゃないか?」

「そんな事言われても……」

「おいおい恩を踏みにじる気か? それにお前、行くとこ無いだろ。手伝ってくれたらウチに招待してやるよ」


 悩ましげに考えるリーチ。シームレスはニヤニヤしながら回答を待つ。リーチは決断したような顔付きで。


「その作戦、勝算はどれくらいある?」

「百パーセント」


 自身満々に語るシームレス。リーチは深く頷くと、手を差し出した。


「よろしく頼む、シームレス」

「応よ、リーチ、必ず動力源を奪って、この腐った町を変えてやろうぜ!」


 二人は堅い握手をした。

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