第24話

砂漠の準備は意外と大変だ。

街の中は昼でも少し肌寒くて、暖かい飲み物を欲するところだ。

しかし、外に出てみるとうだるような暑さと紫外線が突き刺さる。

とても酷な環境だ。

だから、水も大量に持たないといけないし、出来るだけ薄着でいく必要がある。


「うーー!!さむっ!」


「俺ら、今、季節感0だな!」


「知ってる!!」


「寒さが苦手な冒険者はこぞって砂漠地帯で暖をとるんだとよ。最近のナナシの目撃情報は、そういう連中からきてるはずだ」


「砂漠地帯って不人気じゃなかったっけ?」


「不人気だよ。隠れる場所もないからな。それに砂漠に足を取られちまって、早く走れない。最悪の場所だよ。けど、ナナシがいるのは街からそう離れてねーんだよ。しかも、隠れる場所が豊富なサボテンの森にいるって話だ」


「見つけてくれって言ってるみたいね…」


「あいつにそこまで深い考えはねーだろ。たまたまそこで時間を潰してた、程度だろ」


「ふーん」


冷たい水筒が肌に触れると背筋がぞくりとする。

けど、頼まれたことは最後までこなすべきだ、とリブは気合いで乗り越えることにした。



一方その頃…


もうあれから3日くらい経っただろうか。

過酷な暑さに耐え、冷酷な寒さにも打ち勝った。

最初の1日目は空腹との戦いだった。しかし、ある程度を越えればもう気にもならない。

今は眠気だ。

少しでも気が緩むと落ちそうだった。

たった一輪の幼い花を守るため、少年は3日間、睡眠も取らず、飲まず食わずでここまできた。


「ぷ?」


「ん…平気だよ。いるから」


それももう限界に近い。

声も掠れ、口の中がカラカラだった。生きていることも不思議なくらい。


「ぷー」


「僕…なんで君なんかを気にしてるんかね…」


放っておけばいいのに。

なぜか一人にできなかった。


「ぷ?」


「わかんないよね。僕も…」


ああ、そうだ。

と少年の頭の中で一つの考えが浮かぶ。


「あ、そっか…一緒にいればいいんだよね。そうだ。そうしよう」


「ぷ?」


「待ってて。僕がとっておきの場所に連れて行ってあげるから。そこで一緒に暮らそう。そしたら、なにも心配いらない。僕も、君も…」


一瞬、ほんの一瞬だけ。


「ちゃんと隠れてて」


少年は砂で小さな家を作ると、その影に隠れているように促した。

花は理解できずにウロウロするが、しばらくすると中に入って、ふぅっと落ち着いた。

その様子を見て安心した少年は、走る気力も少ないままヨタヨタと街に向かって歩き出した。



ー…


さあ、準備はできた。

これから砂漠地帯に向かうぞ、とコルとリブは覚悟を決めた。


「あ、あれってナナシじゃね?」


「え…本当だ…。あんなに忙しそうに走って、どこいくんだろ?」


すると、今回の目的である少年が彼らの横を素通りしたのだ。


「街に帰ってきてんじゃん。心配して損したー」


「ついていこうぜ。なんか切羽詰まった顔してた。話を聞くくらいはいいだろ」


「………わかった…」


「お、今日は随分と素直だな」


「頼まれたことがあるから。今度は途中で放棄はできない」


「偉いじゃん」


コルには少しばかり驚かれたのが癪だった。まるで自分がいつもわがままばかり言っているように感じた。

いや、実際、そうなのだろうか?

コルが優しすぎるから感覚が狂う。


コルとリブが少年のあとをついていくと、少年はとある花屋の前で止まった。

話しかける雰囲気ではなさそうだ。

二人は花屋から少し離れた店の影に隠れて、少年の様子を伺った。


「なんで花屋?」


「ああ。花屋、だな。もしや…あいつ、とうとう花と話すことが出来るようになったのかな。だから、花屋で座談会しようってことか!」


「バカ言ってんじゃないわよ。ちゃんと見て…違うみたいよ」


花屋のおばさんに何か訳を話しているらしく、おばさんはそれだったら、と店内に戻っていく。

辺りがうるさいからか、話の内容までは聞こえない。

しばらくして店員は、店の中から手のひらサイズの小さな鉢を持ってくる。少年はその鉢を見て満足そうに頷いて、彼女に銅貨10枚渡していた。


「あれは…鉢か?よくある苗を植える用の…」


それを受け取ると、少年は踵を返し、来た道に戻っていった。


「でも、肝心の中身が空よ。苗も買わずに行っちゃった。あれで何するつもりなんだろ…。とにかく、ついていかないと!」


「まだいくのか?」


「当たり前じゃん!」


あんなに苦手と豪語していたくせに興味はあるんだ…と納得できない感情を抱きながら、コルはリブのあとをついていった。

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