第14話

「でやぁ!!」


「うりゃ!!」


相も変わらず二人は威勢よくアンシェントワームを狩っていた。

少年は遠くから戦う二人を見守るだけ。助けることも、動くこともなかった。

代わりに荷物持ち、と言われて、毒消し草やアンシェントワームの牙を袋いっぱいに詰められた。

毒消し草の紫の花が鞄からひょっこり顔を出す。


「あ…」


少年は鞄から飛び出てしまった毒消し草を拾おうとする。

と、地面に落ちた毒消し草が突然目の前に現れた漆黒の穴に吸い込まれてしまう。


「ア、ア、アァ、アソボ?」


「ひっ…!!」


その穴からにゅきっと出てきた顔に少年は怯える。

人間の皮を被る特殊な魔物。

確か『スード・ヒューマン』と呼ばれている。

人間を主食とし、人間を食らうことで体を大きくする。

臆病者で腹が減っていない限り、滅多に地上に出てくる事はない引きこもりの魔物だ。

スード・ヒューマンは少年の腕を掴もうと手を伸ばしてくる。


「ナナシ!!」


「さ、サーペント…!」


少年の叫びに気づいたリブは一気に駆け出す…が、それよりも早く蛇が少年を襲おうとするスード・ヒューマンの腕を噛みちぎった。


「言っとくけど、間に合ったからね」


「………」


「10分前にサーペント抜きで冒険してみようって言ったばっかじゃん」


「………同意はしてない………。だって、あんな気味の悪いのと一緒にいたくない…嫌じゃん」


リブは瞳を合わせようとしない少年に深いため息をつく。


「言い訳しない!子供じゃないんだから。あんたはいいわよね。辛いことも、大変なことも、痛いことも、全部その蛇に任せられるから」


「………」


「凡庸な私らにはできない事だよね。…褒めてるよ、もちろん。関心はしてないけど…。私らは脇目も振らずに攻めるしかできないし。辛いことも、大変なことも、痛いことも、全部自分たちで受け止めてる」


「………だから?」


「だから、強くなれる」


前向きなリブの言葉に嫌気が差す。


「…そ…」


それは乗り越えられた人間のセリフだ、と少年は思う。


「ナナシはお前みたいな熱血系じゃねーだろ?お前の理想を押しつけんなって。説教じみた言葉はいいけど、ゆっくりでいいだろ。昨日今日きた人間を急かしても、誰も得しない。だろ?」


「……けど…」


「お前の親父さんだって、お前のことを説得するのに何日かかったよ?その時、お前のことを少しでも批判したか?してないだろ。説得も批判も、受け入れられるのは落ち着いた時だ。今なにを言ったって、反発精神しか起きねーよ」


「………」


少年にはコルたちがなんの話をして、リブがなにを納得したのかは分からなかった。

ただ沈黙を貫いていたコルが間に入ってきたことで、リブが大人しくなった。それだけはわかった。


「そんなことより、お前ら…ちゃんと観察してるか?地面を見てみろ」


「地面?」


「ボコボコしてるだろ?」


「してる…けど、それがどうしたの?さっきのスードヒューマンが歩いたとかでしょ?」


「スードヒューマンは一度穴を作ったら、そこから移動する事はねーよ。たまたま穴の近くを通り過ぎた人間を襲うのがやつらの生息方法だ。これは、トレントの移動跡、だよ」


「なんであんたがそんな事知ってんのよ。消極的だったくせに」


「そーだよ。俺は依頼なんて受けずに実は強かったー系になりたい冒険者さ」


「ガキじゃん」


「夢持つくらい許してくれよ」


「で?自称・強かった系冒険者さんはなんでこれがトレントの移動跡って分かるの?」


「冒険者兼農家の息子である俺は植物系は詳しいんだよ」


「初耳」


「茶化すなって。俺の知ってる限りの情報だと、あいつらは地面を根っこを引き抜いて歩くんだよ。地面のボコボコが複数、等間隔に並んでるだろ?それがその証拠。この跡を追っていけば、トレントにたどり着けるはずだ」


コルの言うトレントの足跡は森の中へと続いていた。


「でも…道ないじゃん」


人が踏み入れていない。低い木々が多い茂っている。

一方、コルたちが歩く道は冒険者たちの手によってある程度整備され、視界は開けていた。


「………ま、まあ、別にこのトレントじゃなくても、遠回りするのもありだな」


「………いい…」


「怪我すんぞ」


「別に…僕じゃないから」


どこからともなくにゅるりと蛇の巨体が姿を現す。


「………」


少年が指示をしなくても、意思を感じ取り自ら行動に移す蛇。バキバキと音を立てながら、低い木々をなぎ倒す。


「ここから行くから」


遠回りするほど暇を持て余しているわけではない。少年は主人のために道を開けてくれる蛇の後ろをついていく。


「おい、待てよー」


「………」


ついてこいと言ったわけでもないのに、置いてきた二人は勝手に少年を追ってくる。別にいようといまいがどっちでもいい。

少年は背後でガサガサと音を立てる二人を横目で確認した。

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