♯22 ふかふかベッドの病室


 ……よ…ます……


…その……れは………


そ……ござ……す…


(…なんか聞こえるな…)


「……?」


「……い」


(誰の声だ?やけに弱々しいな…)


「……??」


「…おい…起きたのか…?」


「…ん…」 


(…ここ、どこだ?)



「……ふわぁ…あ、おはよう。サファイア。」


目をうっすら開け起き上がると、ベッドの近くにサファイアが椅子を置いて座っている。どうやらこのベッドは木ではない、ふっかふかだ。


「あ…おは、よう……」


歯切れ悪くサファイアが言う。


(…なんだ?あれ、俺戦ってなかった?)


「…起きた…よかった…」


(なんだコイツ……て、ちょ!?)


ぼんやりしていると思ったらなんと、サファイアの目から涙が一滴落ちていった。表情もいつもの無表情ではなく、地に足がついていないようなフワフワした表情だ。


「お、おいどうした!?」


「……うるさい、こっち見るな。私は泣いてない。」


「いや、え?ちょっと説明が欲しいんだが。」


目を伏して拗ねるような顔をする。今日はやけに表情豊かだ。


「…ちょっと待ってろ。」


「え、何を」


言い切る前にドアがバタンと音を鳴らす。


(……え?)


カズシは動揺してなぜか掛け布団をきれいに畳む。オロオロしていると30秒もない間にドアがノックされた。


「…!」


「先生、彼に説明を。」


「ホントに起きたのかい。…おはよう。ずいぶん長く寝ていたけど、いい夢は見れたかい?」


入ってきたのはサファイアと、先生と呼ばれた中年の男。整えられた服をピッシリ来ており何となく頭が良さそうな印象だ。


「自分の名前は分かるかい?」


「え…はい、カズシです。」


「…まぁ見たところ問題はなさそうだね。僕の名前はドル。この病院の医院長をやっている。」 


「…病院、ですか。」


何となく察しがついたカズシ。


「…では、簡単に説明するよ。君がここに運ばれてきた時。重度の失血、重度の失魔症で死にかけ状態だった。そこのお嬢さんは失血状態だったね。」


「…え」


「輸血に成功した後、魔力回復は待つしかなかった。血と違って人からあげることはできないからね。回復しない可能性もあったけど、一ヶ月眠ってどうにか目を覚ました。ここまでが今の状況だよ。」


ドルは落ち着いた口調で話す。少し離れたところにいるサファイアは、いつもの無表情だ。


「…失魔症?って何ですか?」


「極度の魔力不足によって脳の働きが弱まる状態のこと。最悪の場合死に至ることもある。」


「わぁーお…」


どうやら自分は死にかけて一ヶ月眠っていたらしい。どう言う訳か、それが分かると何となく落ち着いた。


「…カズシ君。」


「な、何ですか?」


ドルの表情が急に真面目になったので、少し戸惑う。


「マッドゼーティスを退治してくれて、ありがとう。そしてすまない。君たちに怪我を合わせてしまったこと、本当に申し訳ない。」


ドルはそう言うと深く頭を下げた。


「マッド…え?いや、すいません顔上げてください。」


動揺するカズシ。奥のサファイアは相変わらず無表情だ。


「…もしかして、あの化け物のことですか?」


ドルは静かに頷く。


「…この村はヤツのせいで、何人もの人が犠牲になった。でも、ヤツを倒せるほど強い人はこの村にはいなかったんだ。」


暗い表情でドルは俯く。


「本当にありがとう。君のおかげでこの村は救われたんだよ。」


「…お、わあ…ええと…」


ドルの目を見れば分かる、これは本当だ。それでも急展開に頭が追いつかない。


「…今はまだ混乱しているだろう?私は席を外すから、そこのお嬢さんとお話しするといい。」


「改めて、本当にありがとう。」


ドルはそう言うと少し頭を下げ、部屋を後にした。


「あ…サファイア、今のマジか?」


「まぁ、マジだな。」


まだ、理解が追いつかない。


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