♯10 紅い光

 

 空は黒く染まり、一切の虹彩をも写さない。

あたりに転がる鉄塊も、空を反射するかのように暗く沈んでいる。断たれた電線が時折火花を散らす。そしてその中心で、コアは不敵に笑っていた。


「フフフフ……思ったより骨のある者達だ。しかし、この私がそう簡単に逃してやると思うな。」


そう言うとおもむろに膝をつき、床に槍を突き刺した。


「1人ぐらいは、仕留めれるかな?」


「……なんだ?」


武田が口を開いた瞬間、周囲を真紅の光が照らした。光はコアを中心として八方の血柱全体を覆っていく。


「…たっ多分、一つに集まった方がいいっす!みんな!こっち!!」


錦の合図で、4人が一際大きな鉄塊の近くに集まった時。


「 落 ち ろ 」


低い声が響き血柱が形を崩し始めた。紅い光が切れ込みになるようにして鉄塊が崩れていく。足場が崩れ、一心は紅黒い闇に投げ出された。周りを見回すが、飛び散る瓦礫と轟く轟音で何が起こっているか分からない。落ちる感覚だけが体を支配する。


(やばい、このままだと死ぬ!)


そう思った時。紅と黒で塗りつぶされていた視界に、青白い光が飛び込んだ。


「捕まれッ!!!」


野太い男の声が耳に突き刺さる。声のする方向に手を伸ばすと、強い力で引っ張られた。

「うわああ!!」


体が飛ぶように上に振られ、思わず悲鳴を上げる。そして。


「…って、お前ら!!」


眼下には紅黒い闇、そしてそこに浮かぶのは白く反射する氷塊だった。


「おっ。ついにお前って言いやがったな。」


「一心君だけ死んだら意味ないっすよ〜。」


「……まぁ、とりあえず無事だな。」


氷塊の上には3人が乗っており、武田が腕を掴んでいる。武田はそのまま一心を氷塊に乗せた。


「……少し、我慢しろ。」


サファイアがそう言うと氷塊は瓦解と生成を繰り返し、崩れる瓦礫の雨を抜けていく。4人にも少し瓦礫は当たるが、大きい瓦礫を避けて進んでいった。


 しばらくして、八方の血柱は完全に崩壊した。4人は1人も欠けることなく、地面に立っている。周囲は未だに土埃が舞っており、あたりには黒い金属の部品が積み上がっている、そして、その奥から人影が近づいてくるのが見えていた。


「……まさか、全員無事とは思わなかったな。これでは血柱の解体工事を済ませただけだ。」


発言とは裏腹に口角をあげて話すコア。血柱が崩れたとは言え、ここは広いわけではない。接近戦への対応幅は広く保てないのだ。


「……一心、合図をしたら奴に突っ込め。」


「え?」


サファイアが一心へ耳打ちした。しかしその内容は正気とは思えない。なにしろ一心はまともに戦える術を持っていないからだ。


「…安心しろ。死にはさせない。」


「えぇ……。」


相変わらず発言が危ういサファイア。全く安心できず、一心のつり目が思わず垂れ下がる。一心が話そうとしたが、サファイアはもうそこにいない。


「……なるほど。今度は先手を取ろうというのか。」


サファイア・錦・武田が三方向に分かれてコアに接近する。槍を構えコアは迎え撃つ姿勢を取った。


「オラァッ!」


雄叫びとともに武田が飛びかかる、と思いきやその攻撃は足元の鉄塊に直撃。破片は不自然にコア目掛けて飛んでいく。コアは複数の槍を生成し迎え撃つが、土を含んでいたのか予想より激しく土埃が巻き上がった。


「錦!」


サファイアの合図で錦が風の魔法、コアを吹き飛ばしたあの暴風を巻き起こした。それに合わせてサファイアが氷の魔法を放つ。凍てつく猛吹雪となった暴風がコアに直撃する。


「クッ…しかし、この程度では私の首に届かないぞッ!!」


凍りついた左半身が紅く光り、氷が砕かれた。すぐ後方に跳び警戒体制をとる。


「うおおおおおお″ッ!!」


(今度はなんだ?!)


コア向き直った先、視界に入ったのは丸腰で突進する一心だった。やたら叫び声を上げているが、コアにしてみれば断末魔同然。


「フン、舐めるなッ!!」


コアは拳を握りしめ思い切り振りかぶる。そしてその拳は


「うごぉっ?!」


一心のみぞおちに命中。そのままチリのように吹っ飛んでいく一心。しかしその表情は苦痛とともに、不敵な笑みを含んでいた。


「おぇ……引っかかったな…。」


空中で捨て台詞を吐き、一心はそのまま地面に転げる。


「……?なんだ?」


不審がるコア。だがもう遅かった。コアの足元には、あの青と緑の光が渦巻き始めていた。



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