♯8 血智の柱


 「おーい、ここは、なんですか?」


「あっごめん聞こえてなかったっす。」


「あのさぁ……。」


二回聞いてどっちも聞いてもらえないとか、なんて哀れな少年か。


「ここはなんなんだ?」


なんとなく機嫌悪めに言う一心。


「……八方の血柱……うっぷ…8つある封印の柱……本当お前たちは運が悪…んぐっ…。」


何かに感染したような風にサファイアが言う。食後に自ら酔いにいく愚行、もしかしたら頭が悪いのかもしれない。武田がサファイアの背中をさすっている。こうして見ると親子には見えない。どちらかといえば部下に苦労する上司。そんなことを思っていると錦が近づいてきた。


「……えっとまず、この世界にある八本の柱を壊さないといけないんすよ。そして、ここがその

一つっすね。」


「……なるほど。」


錦が説明するとなんとなく安心した。しかしそうだとしたら、この廃墟のような見た目はなんなのだろう?


「ここは一昨日俺たちが壊したところっす。詳細は進みながら説明するっすね。」


どうやら3人が廃墟にしたようだ。武田と目を合わせ、錦は歩き出した。後ろで武田がサファイアを介護しながら歩いてくる。


(……錦ってなんかの説明する仕事してたんかなぁ?)


錦があまりにも慣れた様子で説明するので、一心はそんなことを思った。3人は黒い鉄骨の奥に進んでいく。



 壊した、といってもバラバラに崩壊させるわけではなく、機能を停止させるらしい。人気がなくうす暗くも、形を崩していない様子を見てそう思った。


「俺たちが召喚されたのは魔城都市ウノ・ラテレ、そのはずれの旧市街っす。」


あたりには生物の形をした鉄塊が転がっている。恐らくだが元は動いており、武田達と戦ったのだろう。分かれ道を左に進み、階段をの登り始める。


「魔城都市ウノ・ラテレ、この都市は外と内を行き来できないように結界が張ってあるっす。そしてそのよりしろがここ、八方の血柱っすね。」


元はついていたのだろう、天井を見ると照明の残骸があった。あまり気にしていなかったが元の世界とこの世界で、物の形状にあまり差はないようだ。長い階段に足が疲れてきたが、他の3人は疲れる様子がない。


「……私がさっき運が悪いと言ったのはそのことだ。ウノ・ラテレの内側に、元の世界に戻る方法はない。戻るには環季石という石、上位の転送魔法が必要になる。ここに環季石はないし、血柱によって転送魔法の力は弱められている。」


いつの間にか回復したサファイアが言った。顔色もマシになっており、後ろの武田が一仕事終えたような表情をしている。階段も登り終わり、少し広い場所に着いた。今度は武田が口を開く。


「私達がこれまでに停止させた血柱は6つ。後二つでこの都市から脱出できる。」

そう言うと武田は少し進み、中央の巨大な鉄塊で止まった。


「一心、君も一緒に戦ってくれるな?」


武田だけでなく、3人がこちらを向く。


「……分かった、です。」


突然空気が重くなったので戸惑い気味に一心が言う。3人はこちらを向いて微笑んだ。サファイアが先輩面して微笑んでいるのが気に食わないが、一心も何となくはにかんだ。


(……まぁ、こうなっちゃったんだから仕方ねーな。大丈夫。別に詰んでない。)


一心はこの世界に来て始めて、心の底から落ち着いた気がした。


「……説明も済んだし、帰るっすか?」


「ああ、そうだな。」


「賛成〜」


錦の言葉で、4人とも鉄骨から目を外す。サファイアの近くに3人が集まる。また、青と緑の渦が巻き起こる。……しかし、4人が帰る瞬間、頭上から高笑いが呼び止めた。


「……フフフ…フハハハハハハハ!!!犯人は現場に戻る!!やはりこの言葉は間違っていないなッ!!」


鋭い眼光が4人を射る。暗闇に浮かぶのは一つの人影だった。

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