第 一 章 支えある日々

第一話 不安と安息の中で

        ~ 2001年8月26日、日曜日 ~

 部活から帰ってきてから、まだやり終えていない夏休みの宿題そっちのけにしてリヴィングでポテチをパリッ、ぽリッと音をたて、それを食べながら少年漫画と少女マンガを読んでいた。

 そのマンガのお話の佳境に突入していよいよって頃で突然電話が鳴り出したんだよねぇ。

『ティロロッ、ティロロッ、ティロロッ』

「ハッハァーーーイッ、電話さぁ~~~ん、今出るから待っててねぇ!」

 そんな呑気な事を口にしながら電話の対応をするため受話器を取った。

「ハァ~~~イ、涼崎でぇ~~~すっ」

「もしもし、藤原という者ですが」

「エッ、もしかして貴斗さん?どうしたんですかぁ、珍しいですねぇ」

 その電話の主は夏休みに入ってから知り合ったお姉ちゃんのお友達で、私がスイミングスクールに通っていた時スッごく仲良くしてもらった詩織さんの恋人さん。

 始めて見た時、貴斗さんってなんだか普通の人と違ってぜんぜん感じ良い人には見えなかった。

 たとえるならぁ~~~やばくてぇ、怖いお兄さん系かなぁ。

 でも、詩織さんの彼氏なんだからぁ多分、それは見た目だけなんだと・・・、思う。

「急用だ、君の両親を出してくれ」

「どうしたんですかぁ~?」

「いいから、早く」

 お姉ちゃん、春香お姉ちゃんが今どんな風な事態になっているのか知らないから呑気に電話の相手に対応していると、その人は突然、何かを急かす様にそう言ってきた。

 その声に驚いて直ぐにそれに応えるような言葉を出していた。

「ちょっとまってねぇっ!ママァ~~~、電話だよぉ~~~っ!」

 受話器の口を押さえないでお庭でお洗濯物を取り込んでいる葵ママを大声で叫んで呼んだ。

 ママに私の声が届くとのんびりとした足取りでここに来て、私から電話を受取っていた。

 それから、ママの隣で聞き耳を立てて、残りのポテチを食べながら、その電話の様子を眺めていた。

 ママが受話器を下ろして私の方を振り向いた時、スッごく蒼い顔を見せてくれた。そして、ママはとても振るえてもいた。

 それと殆ど同時刻に秋人パパが帰ってきて、他所に出掛ける用意をしなさいって言ってきたの。

 何でなのか判らないけど、パパの言葉にしたがってお出掛けの準備をした。それから、パパの車でママと一緒に三人でどこかに向かっていた。


            *   *   *


 今、どうしてなのか病院に連れて来られていた。

 車で移動中パパは何も教えてくれなかったんだけど、どうして、こんな所に来たのかなぁ?

 でも、その答えは直ぐに分かる事になった。

 パパに連れられて病院内を移動していた。

 行き止まりに差し掛かると私の目の前に知っている人の顔が映ってきた。

 その人の深刻そうな表情を見た瞬間、何かとても不安な気持ちになってしまった。

「貴斗さん・・・」

 その人のそんな顔を見てしまったから心配になって彼の名前を呼んでいた。

 彼はこちらを見てくれるけど返事はしてくれなかった・・・。

 その時の貴斗さんの表情はとても辛そうだった。

 こっちのココロも痛くなっちゃうくらいに。

 そんな彼にパパとママが自己紹介をしていた。

 パパの命令で少し離れた所で彼等の話が終わるのを待っていた。

 それが丁度、終わった頃にお姉ちゃんの彼氏がここへ走ってご登場です。

「俺の所為で、俺の所為で、はるかが、春香が・・・・」

 その人の言葉でどうしてここへ来たのか完全に理解した。

 お姉ちゃんに何かあったんだって。

 目の前の扉に春香お姉ちゃんがいるんだって。

 パパは貴斗さんと柏木さんの相手をしているし、ママはママでじっと黙って居ちゃって私だけ除け者さん。

 詰まんないから窓の枠に両腕を置いて窓の外、空のほうをぼんやりと眺めていた。

 さっきまで見えていた太陽さんが徐々に押し寄せる黒々雲さんに取り囲まれちゃって雨を降らせ始めちゃっていた。

 あぁあ、憂鬱・・・。

 外を眺めるのが面白くなくなって来たから、向いている方を反転させちゃった。

 その時、私は見ちゃった。柏木さんが声にならない声で、泣いている姿を、いっぱい、いっぱい涙を流している柏木さんの姿を。

 とっても、いっぱい、春香お姉ちゃんの事を心配してくれているんだって、知った。

 貴斗さんの方はというと、目を閉じた状態で沈黙していた。

 まあねぇ、春香お姉ちゃんの友達として日が浅いから柏木さんほど感傷に浸ってないんだなって勝手に想像しちゃっていた。

 そんな風に思っちゃうのはまだ、私が彼の事をよく知らないから・・・。

 でも、私って本当に呑気な性格しているから、そんな二人を見ていても、ことの重大さにちゃんと気付けていなかった。

 その呑気さも春香お姉ちゃんには負けるけどね。

 だけど、そうなんだけど、そんな気分でいられたのは今日で最後だった。

 春香お姉ちゃんが入院する事によって、お姉ちゃんが目覚めない事によって私の気持ちは荒んで行く一方だった。


        ~ 2001年8月28日、火曜日 ~


 春香お姉ちゃんが入院して二日経った今もお姉ちゃんは目を覚ましてくれなかった。

 とても気分が重かったけどお姉ちゃんの入院を大事なお友達に報せない訳には行かなかった。

 一人は詩織さんなんだけど確か毎年この時期って家にいなかったのを覚えているからもう一人の隼瀬香澄さんって方に連絡をする事にした。

 香澄さんも詩織さんと一緒でスイミングスクールの時にとってもお世話になっていた先輩で私の水泳選手としての目標の様な人。

 リヴィングで電話の脇に置いて有る要人用の手書きの電話帳を見て、香澄さんの電話番号を探した。

 それが見つかると直ぐに彼女の所へ電話をする。

 数回の呼び出しで相手が応答してくれた。

「ハイ、隼瀬です。どちら様でしょうか?」

「アぁッ、その声は香澄先輩っ!?」

 直ぐに出てくれた相手は彼女だったので驚きがのった声でそう言ってしまった。

「エッ、翠なの?どうしたのよ、そんなに慌てた声だして」

「ぁあっ、あのね、あの・・・ですね」

「本当にどうしたって言うのよ?少し落ち着きなさい」

 香澄さんに言われたとおり慌てているようだった。

 だから、軽く深呼吸してから、それに答えて春香お姉ちゃんのことを告げた。

「おっ、お姉ちゃんが、春香おねえちゃんが事故にあって入院しました。まあ、たいした怪我じゃないんですけどねぇ」

「まぁっ、マジ?春香が入院したってホント?ねっ!翠、春香はいったい、今何所にいるの?何所に入院しているの?」

 今度は私のいった言葉に彼女の方が慌てている様子だった。

 今度はこちらが冷静になってそれに答えていた。

「えっとそれは国立済世総合病院って所ですぅ。それと春香お姉ちゃんが入院したのは26日、一昨日の事ですぅ。面会は出来ますのでぇ~、お見舞いに行って上げてください。病室は618号室ですよぉ」

 それを言葉にして出すと香澄さんはなんだか凄く重い返事をしてから電話を切ってきた。

 私も先輩が来るならってそう思ったから春香お姉ちゃんのお見舞いに行く事にした。

 私の住んでいる場所から病院までバスで五分、自転車で一五分から二〇分くらい。

 暑い中、自転車で行くのが嫌だったからバスで行く事にしました。

 病院に到着してどのくらい経ったのかな?

 今日、来てくれるとは思ってもない人が来てくれたので内心、驚いていた。その人は詩織さんだった。

 詩織さんは香澄さんと一緒に来てくれたみたい。

 眠ったまま春香お姉ちゃんを放置して二人の先輩達とお喋りをしていた。

 でも、何時も思うんだけど二人って本当に仲が良い。

 幼馴染みってこんなにも打ち解け会えるものかなって、二人の先輩を見て凄いなって思っちゃった。

 だから、私もそんな先輩たちが好きで仲良くさせて貰っている。

 お喋りが終わりに近づいた頃に急に詩織さんが少し不安の表情で何かを尋ねてきた。

「ネェ、翠ちゃん、お聞きしたい事が在るのですけど、宜しいかしら?」

「どうしたんですかぁ?詩織せんぱぁ~い」

「私、貴斗君から連絡をお受けしたのですけど、何故、彼が春香ちゃんの事をお知りになっていたかご存じないかしら?」

 てっきり香澄さんが連れてきてくれたのだと思っていた。

 だから、詩織さんから質問を聞かれた時は驚いてしまった。

〈貴斗さんが・・・、連絡してくれたんだ・・・。でも、なんて説明すれば良いのか・・・、判らない・・・。何って教えてあげていいのか分からない・・・。だって、あの時の貴斗さんの表情、辛そうだったもん。それに貴斗さんがここへ来ていた理由も知らないしねぇ〉

 心の中で詩織先輩に何って言って上げればいいのか考えたけど答えは出なかった。

 だから、申し訳なかったけど嘘をついちゃいました。

「詩織先輩・・・、ゴメンなさい」

「いいのですよ、お気になさらなくとも。理由があるのでしょう?でしたら、無理に聴くつもりはありませんので」

「なぁ~~~に、悟った風に言っているの、しおりンは」

「茶化さないでください、香澄」

「ハイッ、ハイッ」

 詩織さんの物事の大人な捉え方を凄く尊敬出来てしまう。

 それに香澄さんはそんな詩織さんを軽くあしらえてしまう事に驚愕。

 いっぱい男の子も女の子も友達、居るけどこの二人の先輩達とお姉ちゃんがいれば他の人達なんかどうでも良くなっちゃう。

 それくらい私は二人が好きだった。

「クスッ」

 そんな先輩達のやり取りを見たから可笑しくなっちゃって笑っちゃった。

 二人が帰る時〝女手が必要な時は何時でも言ってくださいね〟って言ってくれた。

 とても嬉しかった。

 普通のお友達程度じゃそこまでしてくれないもんね。

 私の尊敬する先輩達は本当にお姉ちゃんのことを大切にしてくれる方達だった。


            ~ 2001年9月9日、日曜日 ~


 お姉ちゃんが病院に入院してもう二週間近く経ってしまう。でも、春香お姉ちゃんは今まで一度も目を覚ましてくれない。そんなお姉ちゃんの所に毎日お見舞いに来て、そんなお姉ちゃんのことを見ていたら・・・、悲しくて・・・、悲しくて、・・・、泣きたいくらい悲しくていつもの様に元気でいられなくなっちゃう。

 学校でなんか元気のない私なんて私らしくないって友達にも笑われちゃった。でも、こんな状態のお姉ちゃんを見ていたら元気でいられるはずないよ。そして、私以外に元気がない人がもう一人いた。それは柏木宏之さん。春香お姉ちゃんの恋人で彼とは今年の夏、始めてお会いした。

 柏木さんとは顔を合わす以前からお姉ちゃんに耳におタコさんが出来ちゃうほど聞かされちゃって知っていた。とても陽気そうで優しい瞳を持った人だった。柏木さんも春香お姉ちゃんがこんな風になってしまってとても落ち込んでいる。

 毎日ここにお見舞いに来てくれるけど、そんな柏木さんの悲しそうな顔を見ていると私まで悲しくなっちゃうそんな表情をいつも見せていた。それから、今日は柏木さんが帰ったあとに別の男の人、お姉ちゃんの入院の日以来会ってから始めてその人はここにお見舞いに来た。

 その来客にさっきまでしていた表情を隠し明るく声を掛けていた。

「あっ、貴斗さんコンニチはぁっ!」

「翠ちゃんか、こんにちは」

 その人は私に挨拶をしてくると病室の中ほどで立ち止まりお姉ちゃんの様子を見ていた。

 表情を変えない人だから今、何をその人が思っているのか捉えることが出来ない。

「翠ちゃん、春香さん、彼女の容態は?」

 貴斗さんは淡々とした口調でそう尋ねてきた。私は春香お姉ちゃんの方を覗く。そして、言葉にしようと思ったけど途中で止まってしまった。

「お姉ちゃんの容態・・・・・・、貴斗さん、ちょっと表に出ても良いですかぁ?」

 こんな状態のお姉ちゃんを見ながら真面な説明なんって出来ると思わなかった。だから、病室の外でお話しをしようと、その人をそちらに促した。貴斗さんは直ぐに私の意思をくんでくれて病室の外へと足を運んでくれた。なんだかとても機敏な人なのかな、って思う。

「貴斗さん、驚かないで聞いてくださいね」

 お姉ちゃんの現在の状況を貴斗さんに伝えると一瞬だけとても辛く悲しそうな表情を見せてくれた。でも、本当に刹那な時間だったから普通の人が見たら判らなかったかも知れない。それからはまた、ポーカー・フェイスに近い顔で私に話しかけてくる。

「宏之は・・・、宏之はここへ見舞いに来ているのか?」

「毎日、夕方頃来ていますよ、柏木さんの表情は何処と無く暗いけど」

「ソッか、それじゃ俺、今日は帰らせてもらう。また見舞いに来るから」

 その人は何の為に柏木さんの事を聞いたのか分からなかった。だって顔色一つ変えずに答えを返してきたんだもん。でも、私は何となく柏木さんの事を心配しているんだなと思った。そして、その人はそれだけ言葉にするとここから去ろうとした。

「貴斗さん、どうして、そんな悲しそうにするんですか?」

 その人の後姿がとても悲しんでいる様に見えたから声を出して呼び止めたけど、彼は私を無視して去って行ってしまった

 私はまだ貴斗さんの悲しみの深さを知らない、貴斗さんがどんなに辛い日々を送っているのか私は知らない。だって、まだお知り合いになってそんなに経っていないんだもん。それに口数が少ない人だから・・・。

 来る日も、来る日も、学校が終わればお姉ちゃんの所へ来ていた。だけど、一向に春香お姉ちゃんは目を覚ましてくれない。その所為で最近学校では塞ぎがちになり始めちゃった。

 受験勉強で大変時期なのにこんなんじゃ勉強にも手がつかない。今から体育推薦の枠に入っても間に合わない。ハァ~~~、どうすればいいんだろう。

〈はぁ~、友達に受験で高校に入ってやる〉

なんて言わなければ良かった。後悔先に立たないって奴ですねぇ~~~。お姉ちゃんと受験の二つの事で精神的に参ってしまう毎日、本当に倒れちゃうかもしれない。


            ~ 2001年10月14日、日曜日 ~


 尊敬する先輩が私の今のこんな状態を救ってくれる様になる。それはいつもの様に私が学校の帰りにお姉ちゃんの所へ寄った時じゃなくて、お休みの日のお昼になってから病院へ行った頃だった。私がそこへ着くより前にその先輩が春香お姉ちゃんのお見舞いに来てくれていた。

「アッ、詩織先輩!来てくれたんですね、お姉ちゃんのお見舞いに」

「翠ちゃん、こんにちは。お邪魔しております」

「コンニチハ、先輩」

 詩織さんは丁寧な挨拶を返してくれた。

 たまに先輩見たく淑やかに振舞って見様かナ、ッて思ったけど、私みたいなキャピッ子な女の子には無理みたい。でも、いつかはあんな風になって見たいな、って思っちゃったりなんかしている。

 詩織さんと最近の事を話してからつい受験の事を先輩に漏らしてしまった。ずっとまえ先輩には推薦で高校に行くって言っていたから私の説明にすごく驚いていた。

「詩織先輩も今年受験で大変なの、分かってますが・・・。そのっ、勉強、教えてもらえないでしょうかぁ?」

「そうですねぇ~~~。・・・・・・・・おわかりいたしました。時間が空いている時で宜しかったら見て差し上げられます。文系の方ならどうにかなりますが、理数系は難しいかもしれません」

 私のお願いに先輩は一間置いてからそう言ってくれた。そして、さらに驚くべき事実を私に教えてくれた。

「貴斗君がご協力してくれれば良いのですけれど」

「あの人がですか?」

 思っても見なかった人の事を口にするものだから驚きを通り越して、逆に冷静になってそう聞いてしまっていた。

「貴斗君、理数系、教えるのとても上手なのですよ、ウフッ」

 先輩は嬉しそうな顔でそう言ってくれるけど、全然そうな風に貴斗さんを思えなかった。先輩とそんな会話をしていたらその人が何の前触れもなく春香お姉ちゃんのお見舞いに来てくれた。

 入室してくる時のその声は丁寧だけど淡々としていた。何であんな風に言葉にするのかいつも不思議に思えてしょうがない。

「失礼。藤原です。お見舞いに参りました」

「あはっ!貴斗さん。いらっしゃいませぇ」

「貴斗君、フフッ」

 恋人さんの訪問に詩織さんが嬉しそうに微笑んでいた。

「・・・詩織、来ていたのか・・・。それより何故、俺を見て笑う?」

「噂をすれば影という言葉が実証されたからです」

「変なことじゃないだろうな?」

 その人は顔色一つ変えずに詩織さんの対応をしていた。まるでロボットみたい。

「そんな事ないです。貴斗さんに勉強、教えて貰う事が出来たら良いなって」

 私と詩織さんはさっきまでお話していた事を貴斗さんにお聞かせした。

「・・・、しかしなぁ~~~」

「駄目なんですかぁ?貴斗さぁ~ん」

 顔色一つ変えてくれないそんな人に無駄だと思ったけど科を作って懇願する表情を見せてみた。

「もし、春香ちゃんが当分、目を覚まさないようでしたら私達が翠ちゃんの精神的な支えになりましょうって・・・・・・、違いましたかしら?」

「しっ、詩織、そう言う事は翠ちゃん本人の前で言うな」

「貴斗さん、それホントですか?」

 詩織さんが言ってくれた言葉と無表情な貴斗さんが冷静な言葉とは裏腹に違った顔を見せてくれて、私の事をそんな風に思ってくれていた事が嬉しくなってついそう聞いてしまった。

「あの時、私に言ってくれました言葉は嘘でしたの?」

「わかった。ただし、俺に迷惑、掛けても構わないが。詩織に負担掛けさせないのが条件だ」

「有難う御座いますぅ」

 能面さんな貴斗さんって見た目とは違って案外優しい人なのかもしれないねぇ。


       ~ 2001年10月31日、水曜日 ~


 学校から帰ってきて直ぐに春香お姉ちゃんの所へ行っていた。

 今は調川愁先生って言うお姉ちゃんの専属のお医者さんに言われた事をやろうとしていた。

 それはこのままお姉ちゃんが眠り続けた状態だと床ずれって言うのと身体萎縮硬直って云うのになってしまうらしいの。

 だから、出来るだけ毎日、春香お姉ちゃんの体を掃除して上げた後に間接ストレッチと各部のマッサージをしてあげる事になっていた。

「おねぇちゃぁん、お体、綺麗キレイしましょうネェ」

 独り虚しくやるのも難だから何にも答えてくれないお姉ちゃんだけど、そんな風に言葉を掛けながらその体を拭き始めていた。

 春香おねえちゃんをスッポンポンにして丁寧にお湯でぬらした熱めのタオルで顔から順に・・・、

「むうぅぅぅ~~~~、何で流動食のお姉ちゃんが私より胸お~きいのぉ。ダイエット気にする子はみんな大事な所から萎んじゃうよぉ~~~って嘆いてたのにどうして春香お姉ちゃんの変わらないのぉ・・・・って言うか少し大きくなっている?」

 隆起したその部分に達すると、それを見ながら文句と愚痴をこぼしていた。

「叩いてやれっ、ぺしっ、ぺしっ」

 何にも答えてくれない春香お姉ちゃんに何となく悪戯したい気分になって手に持っているタオルで叩いて見た。

〈ハァ~~~、反応が返って来ないから何だか虚しいィ〉

 心の中で呟きながらその行動を止めた。

 そして、後は真面目にお姉ちゃんのこの体を拭いてから調川先生に貰ったストレッチング・マニュアルを読みその手順に従い関節を動かした。

 それが終わって暫くしてから、眠っている春香お姉ちゃんに近状報告をする。

「春香おねぇちゃん、私ね、推薦じゃなくて受験する事にしんだぁ~~~。初めはネェ、スポーツで有名な桐華学院か常双学園にしようと思ったんだけどネェ。私もお姉ちゃんと一緒のガッコーに行きたくなっちゃった。だからねぇ、私も聖陵受けるんだぁ~~~」

〈春香お姉ちゃんが聖陵高校は良いとこだって自慢していたから私もそこに行く事にしたの〉

「勉強大変だけど心配しないでネェ、なんたっていますごぉ~~~ク頼りになるセンセーが二人もいるんだもん。一人は貴斗さん。彼ってなんとなく勉強とか嫌いそうで全然駄目っぽく見えちゃってたけど。そぉ・れぇ・はぁ~私の勘違い見たいネェ、だって私の嫌いな数学とか理科を簡単に分かりやすく教えてくれるんだもん」

 まだ、貴斗さんには四回しか会って勉強を教えてもらってないけどその凄さは初日で知ることになっちゃった。

 見た目とは全然違って、とても優しい表情で私に教えてくれた。あの時は本当に驚いちゃった。

「もう一人は詩織センパァ~~~イ。詩織先輩は私の知っている詩織先輩でよかったぁ。何でもこなせちゃうからホント凄いよねぇ。詩織先輩の前では私の自慢のお姉ちゃんも流石に形無し、って感じぃ~・・・・・・」

 そんな事をお姉ちゃんに言いながら、お姉ちゃんの額を軽く人差し指で叩いちゃっていた。

 本当に詩織さんはなんでも出来ちゃって羨ましい。

 でも、私でもやっぱり・・・。

「ゥウック、ヒクッ、ウワァアア~~~~~~ン。おネェちゃん、春香おねえちゃん、早く起きてよ、翠、淋しいよおねえちゃぁ~~~~ん。どうしてお姉ちゃんがこんな目に遭わなくちゃいけないのぉ~~~~!」

 貴斗さんも詩織さんも、とても優しく私に接してくれる。

 でも、それは春香お姉ちゃんがこんな状態だからこんな可哀想な状態だから二人は私に優しくしてくれる。

 そんな目の前の春香お姉ちゃんを見ていたらとても辛く悲しい気分になってお姉ちゃんが返事をしてくれない、笑ってくれない、優しく微笑んでくれない。

 それが酷く淋しくて声を出し、涙を流して泣いてしまった。

 何時だって私が涙を見せるのは春香お姉ちゃんの前だけパパにもママにもそれを見せた事がなかった。


        ~ 2001年11月7日、水曜日 ~


 今、必死になって聖陵高校の過去テスト問題集にかじりついているけど・・・ふえぇ~~~、考えれば考えるほどわかんないよぉ。

 困った顔を私が作っていると貴斗さんが優しい口調で話しかけてくれていた。

「翠ちゃん、悩み過ぎると解る物も余計に解らなくなる。そんな時は、意固地にならないで聞いた方がいい」

「有難う、貴斗さん。それじゃぁ~、ここの部分ですけどぉ~、どう解けばいいのか教えてくださぁ~~~いっ!」

 貴斗さんがそう言ってくれたから、それに甘える様にして判らない所を鉛筆で指し示したの。

 ここ最近ずっと彼と詩織さんが私の勉強を見てくれていた。

 貴斗さんが懇切丁寧に手順良く教えてくれちゃっているから今まで分からなかった所もなんだか嘘の様に理解出来ちゃった。

 そんな調子で長い間、貴斗さんを独り占めにしていたのにそれを台無しにしてくれる人が一人。

「どうした、詩織、解らない所でもあるのか?」

「この高次元方程式ですけど、幾らやっても答えが合わないのです」

〈先輩、いつも貴斗さんと一緒にいるんだから私が教えてもらっている時は邪魔しないで欲しいなぁ〉

 そんな事を思いながらつい詩織さんをホンのちょっぴり膨れて睨んでしまった。

 だけど、やっぱり詩織さんに貴斗さんを取られてしまった。

 貴斗さんが詩織さんにどんな風に手解きするのかなぁって気になったけど、私が見たってわかりっこないことだと思ったからさっき彼が教えてくれた通り他の問題に集中することにした。

 勉強を始めてどのくらい経ってからかな?

 葵ママが今回も私の先生二人を夕食に招待していた。

 パパは仕事で忙しいし、お姉ちゃんはあんなだから詩織さんと貴斗さんがいると食事中も全然、寂しい気分にはならなかった。

 ママも喜んでいるみたい。

 これでパパがいたらその二人の先生にお酒なんか勧めちゃったりなんかして大騒ぎね。

 夕食を食べている間、もっぱら詩織さんに話をかけていた。

 だって貴斗さんの方は話しかけても何にも答えてくれないんだもん。

 詩織さんにどんな事を聞いたのかは内緒。

 唯、私がそれを聞いた時、貴斗さんは驚いて飲んでいたスープを喉に詰まらせ思いっ切り咳き込んでいたし、詩織さんは器用に苦笑ながら赤面していた。ママはなんだか微笑んでいたような気がする。

 二人が私の家庭教師?になってくれてから毎日こんな感じ。

 お姉ちゃんがあんな状態で若し、詩織さんも貴斗さんもいなかったら・・・、私どうなっちゃっていたんだろう。

 でも、今はそんな心配もする事ないかな。


       ~ 2001年11月25日、日曜日 ~

 朝早くお姉ちゃんのお見舞いに言った後、病室で会った貴斗さんとだけが今日、私の勉強を見てくれていた。

 詩織さんはどうしたのかって?

 先輩は午前中用事があるらしくて午後から来る事になっているの。

 逆に貴斗さんは午後からバイトがあるから午前中だけって事になっている。

 貴斗さんが手ほどきしてくれた手順で数学の中二の問題に専念しているところだった。

 そして、彼はと言うと・・・?

 何か必死になって参考書を見ながら問題を解いているようだった。

 詩織さんが見ている前ではグータラしているのに・・・、若しかして先輩の前では態とそうしているのかも?

 詩織さんが知らない貴斗さんを見られてなんだかとても嬉しい気分になった。

 問題を進めている内に判らない所で頭を悩ませていると。

 貴斗さんは直ぐに私の声を掛けてきてくれた。

「翠ちゃん、わからない所でもあったのか?遠慮せず俺に聞け」

「アハッ、有難う御座いますぅ~、ここなんですけどぉ~~~っ」

 そう言ってくれたから、貴斗さんに甘えさせてもらうことにした。

 その人はいつもの様に私に分かりやすくその解き方を図解入りで教えてくれる。

 それでも私が理解出来ないでいると、また別の方法で初めから教えてくれていた。

「貴斗さんって、見かけによらずほんとぉーーーにっ凄いですねぇ~~~」

「俺には自分のこと良く分からん」

 ちょっと小馬鹿にするような感じで言ったのに貴斗さんは平然としていて全然、私のそれが通じなかった。

 その人がそんな対応するから私、なんだか貴斗さんの驚く顔を見たくて、からかって見ることにしたの。

 それを勉強の休憩に入ってから実行した。

「ねぇ、タカトさぁ~~~ンッ、翠、貴斗さんにお願いがあるんだけど聞いてくれますかぁ?」

「うぅん、何だ?俺に出来ることか?」

 その人は私が出して上げたウーロン茶を静かに飲みながらそう返してきた。

「キスってぇ~、どんな味がするんですかぁ?どんなものなのか知りたいのでぇ、私に実践してくださぁ~~~いっ」

「ウングゥッ、ゲホッ、ゲホッ、ゲホッ、ばっ、馬鹿、急に何を言いだすんだっ!」

 その人は案の定、驚いて呑んでいたそれを喉に詰まらせ咳き込みながらそう言って返して来た。

〈うん、うん、なんか予想通りで面白い・・・、もう少しからかっちゃえ〉

「だぁ~めぇなんですかぁ~~~ぁ?」

 目を潤ませ、懇願するように貴斗さんに近づく、それを見たその人は後ずさりしながら言葉を返してくれる。

「ばっ、馬鹿、よせ!翠ちゃん冗談はよせ。まだ詩織にだってそんなことした事ないんだっ!」

「ヴェッ!!」

 その人を驚かそうとしていた私の方が貴斗さんの言葉を聞いて吃驚しちゃった。

 もう、そんなことはとっくに済ましちゃって、もっと深い中になっているのかと、思っていたのに。これは予想外ですねぇ。

「それに俺はお前みたいな子供とそんな事するつもりはない」

「ムカッ###私、それとても気にしているのにぃーーーーーーっ!」

 怒った私は近くにあった教科書を彼に投げつけたけど簡単にかわされてしまった。

 だから、余計に腹が立っちゃって辺りにあるもの何でも、かんでも、貴斗さんに投げつけてやった。

 しかし、見事にそれら全部かわされちゃいました。

「翠ちゃん、俺が悪かった。だから、もう物を投げつけるのを止めてくれ」

 その人が必死になって私にそう謝ってくる。

 その表情はいつも見ている無表情のもじゃなかった。

 投げられる手持ちの物もなくなっちゃったし、珍しい物見られたから勘弁してあげる事にしたの。

「今回は許しちゃうけど、今度私のこと子供ッ何ていったら・・・、クックック」

 そう言葉に出してから最後、悪戯な笑みを貴斗さんに見せて上げたの。

 それを見たその人は顔を引きつらせ、額に脂汗を掻いているようだった。

 午後は貴斗さんと入れ替わるように詩織さんがここへ来てくれた。

 その時、彼が口にしていたことが本当なのか先輩に確かめて見ちゃったけど・・・、詩織さんは何も答えてはくれなかった。

 でも、先輩の表情はどことなく寂しげだった。

 だから、それは事実だと勝手に結論付けちゃった。

 だけどぉ、そんな詩織さんを見たら可哀想に思えてきちゃったのも事実。

 詩織さんとは地理の問題集を広げながらそれを順番に出し合い、お互い答えて行くって形で進めたの・・・・・・。

 先輩、パーフェクトに答えてくるから驚きと同時に私の意気は消沈。

「詩織先輩、少しは手加減して欲しいですぅ」

「それは出来ません、お互い真剣勝負。手を抜くわけにはいきません・・・。そんな目をしても駄目です・・・・・・ハァ~、わかりました。若し、次の問題10問全部正解しましたら私が出来ること一回だけ聞いて差し上げます」

「やったぁ~~~~ッ、よぉーーーッし、頑張っちゃうもんねぇ~~~っ!」

 私が懇願のまなざしを詩織さんに向けていると先輩はそう言ってきてくれた。

 現金な私は先輩のその言葉で私の意気に再び火が点き、後は先輩におだてられながら今日の課題を終えたのでした。


         ~ 2002年、元旦 ~


 今日は元旦。

 この日、初めて謎のベールに包まれている、どこか非常に妖しげな貴斗さんのことを少しだけ知る事が出来ちゃった。

 ママに着付けてもらったお正月用の着物で詩織さんの待っている神社の長い階段を登りながら鳥居に向かっていた。

 頂上付近まで達すると直ぐに詩織さんが視界に入ってきた。

「せぇんぱぁ~~~いっ、明けましてオメデトウ、御座いますぅ」

「翠ちゃん、明けましておめでとう御座います。今年もよろしくお願いいたしますね」

「ハイッ、宜しくされちゃいます。ぇえ~~~ッと、そちらの人は?」

 完全に階段を上りきると詩織さんの後ろに隠れるように先輩より綺麗な方が立っていた。

「藤原翔子と申します・・・。明けましておめでとう御座います」

「おめでとうございますぅ、涼崎翠です」

 詩織さんに隣に立っている人は誰って尋ねたら、その女性の方から綺麗な声と丁寧な言葉遣いで私に自己紹介してくれた。

 だから、返すようにそれに元気に答えた。

 なんだか、翔子さんって人はとても礼節をわきまえている様な感じの人に思えちゃった。

 先輩とどう言うご関係なのか尋ねたら吃驚しちゃうことの連続だった。

「うっそぉーっ!貴斗さんにこんな、綺麗なお姉さんがいたなんて信じられない」

「フフッ、貴斗ちゃん、あのような状態ですけど仲良くしてあげて下さいね」

「ハぁッあの様な状態ですか?」

「アラ、アラ、私、もしかして余計な事を言ってしまったのかしら?」

「翠ちゃんにお隠している訳ではなかったのですけど・・・、実は貴斗君、今・・・、・・・、・・・、記憶喪失で」

 なんとこんな美人なお姉様があの貴斗さんと血が繋がっていて、詩織さんとは幼馴染み。

 なんだか世の中ハチャメチャな感じ。

 詩織さんや翔子お姉様の様な綺麗な人が昔から一緒にいるのに貴斗さんはその二人に手を出していないなんて・・・、その記憶喪失のせいなのかなぁ?

 普通の男だったらもう二人の有無言わさず無理やり食い付いちゃいそうなほどな人たちなのに・・・。

 ああでもよく考えると高嶺の花っぽいから、逆に男の人たちが謙遜しちゃうのかな?

「それじゃ、若しかしてあんな性格や、喋り方をするのはその所為なんですか?」

「それが原因かどうかは掴めませんが前はとても素直で活発でしたのよ・・・」

「アッ、若しかして私、悪いこと聞いちゃいました?」

 まずい事に触れちゃったみたい。

 翔子さんの整った綺麗な顔立ちが急に崩れてしまった。

 私は申し訳なくなって口調はお子様だけどその人にそう声をかけていた。

 私のその言葉ではどうにも出来なかったけど流石、詩織さん。

 そんな翔子さんの表情を笑顔へと変えていた。

 翔子さんと詩織さん、それと私、三人で談笑しながらここへ来るはずの貴斗さんを待っていた。

 しかし、一向にその人は姿を現さない。我慢出来なくてボヤキを口にしていた。

「貴斗さん、遅いですネェ。約束事とか時間に厳しいように見えるんですけどぉ」

 正直に私はそう思って翔子さんと詩織さんに言っていた。

 どうして、そう思うのかって?だって勉強とかで貴斗さんと一緒にいる時間が多くなって今のその人の性格が漠然とだけど見えてきたんだもん。

「遅いですネェ~、貴斗ちゃん」

「はい・・・、そのようですね」

 私達が不満そうにその人のことを待っていると軽快な下駄の音を立てながらいつもの仏頂面でここにご登場しました。

「遅れて、スマン」

 貴斗さんは現れ、私達に謝ってきたと思ったら表情がいきなり変わり不機嫌そうな顔になっていた。

 どうして、そうなったのかしらないけど、それを見た詩織さんが棘のある様な口調で貴斗さんに言葉を掛けていた。

 詩織さんはどうしてか翔子さんの名前を口にしていた。

 私には何も理解できずにいつの間にか貴斗さんは翔子さんに頭を下げて謝っていた。

 それが終わると貴斗さんは私達の方全体を見て新年の挨拶をしてきた。

「それと、賀正」

「貴斗さん、それって新年の挨拶じゃないですよぉ。それと明けましておめでとうゴザイマス、今年もよろしくネッ!」

 貴斗さんに突っ込みを入れてから挨拶をその人に返したの。

 良く貴斗さんって今みたいな可笑しな日本語を使うけどそれって態と言っているのか?

 それともその言い方が地なのか?

 はたまた記憶喪失の所為なのか?その対応に悩んじゃう。

 記憶喪失の前の貴斗さんってどんな人だったんだろう。

 そんな風にその人のことを考えていたら予想打にしない言葉を掛けてくれてきていた。

「そのっ、ナンダ、三人とも・・・着物、似合ってる、って言うか・・・綺麗です」

「貴斗さんからそんな言葉が聞けるなんて今年は良いこと有りそう」

 この着物を褒めてくれる言葉がとても嬉しくてついそんな事を口走っちゃった。

「ウフフフッ、お褒めいただき有難う御座います」

「貴斗君がそう言ってくれると着て来た甲斐がありますわ」

 先輩はそう言葉にして貴斗さんに科を作っていた。普通の男だったらイチコロって感じ、貴斗さんの場合は・・・、ヤッパリ、照れちゃっている。だけど、無理にそれを隠すようにソッポを向いてしまっていた。

〈あぁあぁ、嫌ンなっちゃう、なによ!私の時とは偉い対応の差〉

「遅れて悪かった。サッさとお参りに行こう」

 そんな貴斗さんを私は睨んでやった。

 するとその人は逃げるように私達の前から神社の中へと逃げていく。お決まりのパターンねぇ。

 賽銭所に到着すると翔子さんと一緒に最前列の方に向かった。

 本当は詩織さんと貴斗さんがいちゃついている所を邪魔して上げたかったけど年の初めからそれをしちゃうのは流石の私も気が引けちゃった。

〈早く、春香お姉ちゃんが元気になりますように〉

〈もっと身長を伸ばしてくださいっ!〉

〈それと・・・、ともっと仲よくなれますように〉

 賽銭箱に五円玉を三枚投げて三つのお願いを心の中で強くお祈りしちゃった。

 それが終わると皆でおみくじを引きにそれがある場所へと向かった。

『シャカシャカシャカ、シュッ!』

 おみくじ棒が入っている六角箱を強く振って勢い良く箱の中から出てきたその棒を目の前にいる巫女さんに渡した。

「ハァイッ、こちらになります」

「やったぁ~~~っ、やりましたよぉ。詩織先輩、見てください、大吉君が出ましたぁーーーッ!」

 それを見た瞬間、飛んで跳ねて喜びを詩織さんに表現した。

「よかったですわね、今年は色々と大変なことが多いでしょうから」

 確かの詩織さんの言う通りお姉ちゃんのことも受験のことも大変な事でいっぱいだから本当に大吉を手にした時は嬉しかった。

 ヤッパリ年の初めに貴斗さんが珍しい事を言ってくれたお陰なのかな?

 それから、歩きつかれた私達は休憩処でお梅昆布茶とお梅饅頭を食べて寛いでいた。

 そしたらいつの間にか貴斗さんだけがいなくなっていた。

 心配になって辺りを見回すとその人は何かを持って帰ってきた。

「翠ちゃん、これ」

「詩織にも、ハイッ」

「翔子先生何時も迷惑、掛けて悪い、これ受け取ってください」

 いつもの表情だったけど貴斗さんはもっていたそれを私達に言葉を掛けながら渡してくれた。

 私に呉れたそれは合格祈願のお守りだった。

 見た目の性格と行動の性格のアンバランスなその人。

 そんな貴斗さんの好意が今の私にはとっても嬉しかったりする。

 貴斗さんがこういう一風変わった面白い性格だからお姉ちゃんがあんな状態でもその人が傍にいてくれるだけで私は元気でいられるのかもしれないね。

 だから、心から感謝を込めて、今私の出来る最大限の笑顔で貴斗さんにお礼を言ったの。

「貴斗さん、有難うございますぅ」

「私、受験頑張りますわね」

「大切に致しますね」

 貴斗さんに翔子さんも詩織さんも感謝の気持ちと一緒に微笑んでいた・・・。

 二人の微笑には私の笑顔なんて敵わないけど・・・、今、照れている貴斗さんは私のそれで、そうしてくれると思いたかった。

「貴斗君は自分の分、お買いになったのですか?」

「信心深くないから」

「違いますよ、気持ちが大事なんですぅー、それにさっき、お参りもおみくじもしていたじゃないですかぁ」

 せっかく言い気分に浸っていたのに貴斗さんって本当に分からない人。だから、率直な自分の気持ちをその人に伝えて上げちゃた。

 そのあとは露店をミンナで歩き回った。

 翔子さんがご馳走してくれるって言ってくれた。

 それに〝遠慮しないで〟っても言われたからお言葉に甘えてお腹いっぱい食べさせてもらっちゃった。

 詩織さんと一緒に色々手に取って食べているとそんな私達を貴斗さんはなぜか苦笑していた。




            *   *   *




 神社の御参りから家に戻って着替えてから私は春香お姉ちゃんの所に新年の挨拶をしに病院へと足を運んでいた。

「春香お姉ちゃん、新年、明けましておめでとう御座いまぁすぅ。さっさとお姉ちゃんも目を覚まして頂戴ねぇ~~~、そんじゃないとお姉ちゃんのお友達に悪戯しちゃうよぉ」

 春香お姉ちゃんと私の他に誰も居ないこの空間にそんな事を口にしていた。

 私の前にママが来てお姉ちゃんの体の掃除やストレッチ、やっていると思ったけど念のためそれを仕様としていた。

 洗面器にお湯を汲むために部屋を出ようとした時に扉付近に何かが落ちていた。それを拾い上げ確認して見る。

・・・?それは男物の小銭入れがない黒く長い財布だった。

 不審に思って中身を確認してみると・・・。

 なんと福沢諭吉さんが六人も入っていた。

 私はちょっぴり悪い感情に囚われちゃったけど直ぐそれを振り払い中に挟まっているカードを確認した。

 そのカードの中には聖陵高校の学生証もあった。

【藤原貴斗】

 それを見て直ぐに貴斗さんの物だと判った。

 ついでに学生証の写真を確認したら・・・、それに写っている表情はなんか淋しげな雰囲気のものだった。

 何か心の傷を負っている様な感じをさせる写真。

 それを見ていると私も似たような気分に誘われてしまいそうになった

 だから、完全に引き込まれる前にその写真を元に戻しちゃいました。

 それを財布の中に戻した時に直ぐに思いついちゃった事があった。

 それは今日、貴斗さんが遅刻した理由。

 それは私達に会う前にここへ来ていたんだと思うの。

 ここから神社までバスで四十分近くかかる・・・。

 遅れてきた時間を考えると、その考えは的外れじゃない。

〈ハハッ、なんか今の私ってとぉ~~~っても冴えてるぅ~~~、後で貴斗さん連絡して、かえそぉ~~~ッと〉

 貴斗さんの携帯電話の番号を暗記しているわけじゃないから直ぐに連絡を取る事が出来なかった。

 財布とか落としても気にしなさそうだからその事は後回しにしてサックッと春香お姉ちゃんの事に取りかからないと。




            *   *   *




 お湯を汲みに行って帰ってきた時、今日一度お会いしている詩織さんがここへ、春香お姉ちゃんのお見舞いに来てくれた。

「春香ちゃん、お見舞いに来てさしあげましたよ」

「アッ、詩織センパァ~~~~イ。こんにちはでぇすぅ~~~」

「翠ちゃん、こんにちはいつも元気がよろしいようで。フフッ」

「今日も元気いっぱいですぅ!ってさっきお会いしたばかりじゃないですかぁ~」

「フフッ、そうでしたね。でもお元気が良いのはよろしい事ですが余り無理をなさらないでください。翠ちゃんが倒れてしまいましたら春香ちゃん、悲しみますから。それと、私もそうですが無論、貴斗君もですよ」

「エッ、貴斗さんガデスカ?」

「そうですよ、貴斗君顔にはお出しになりませんけど昔からとても心配性なのです」

「ふぅ~~~ん、そうなんだぁ」

〈ハハッ、やっぱり貴斗さんって良く分からない人。でもそんなだから余計にあの人の事を知りたくなっちゃう〉

「アッ、それより今からお姉ちゃんの体、拭き拭きするんですけど」

「それでは私もお手伝いさせていただきますね」

「はぁ~~~っいですぅ」

 詩織さんにそう返事をすると春香お姉ちゃんが来ているパジャマを剥ぎ取りお掃除を開始した。

 先輩は大切お人形を扱うように丁寧にお姉ちゃんの体を拭いていた。そのときの詩織さんはなぜかとても切なそうな瞳をしていた。

 詩織さんの真意を私の拭き掃除が終わった事を告げる言葉を述べたときに知る。

「ハイッ、コレで全部しゅーりょーでぇ~す。お疲れ様でした先輩っ!」

「フゥ~~~」

「どうしたんですか溜息なんかついちゃってぇ?」

「春香ちゃんの身体綺麗だなぁ~~~ってお思いしただけです」

「!??????????????」

〈えぇ、エッ、何を言っているんですか?〉

「・・・、女の性なのでしょうね・・・、他の人と自分の身体を見比べてしまうのは・・・・・」

「詩織先輩・・・・、贅沢ですぅ」

「翠ちゃん?今、何か申されました?」

「・・・、何でもないですよ、ムッ」

 詩織さんのプロポーションになんかに絶対敵わないって判っているけどなんかやり場の無い怒りが表面に現れちゃうよぉ。

「アッ、私、詩織先輩が持ってきてくれたお花、活けてきますぅ」

 だから、そんな私を先輩やお姉ちゃんの前に晒したくなかったからそう言ってここを出て行っちゃった。

 詩織さんが持ってきてくれた花と花瓶の花を取替え、気持ちを十分に落ち着けてから再び二人の所に戻った。

「おねぇちゃぁ~ん、詩織センパァ~イィ、ただいまですぅ」

「フフッ、お帰りなさいませ。そろそろ、お家に帰えりまして勉強でもしませんか翠ちゃん」

「はぁ~~~いですぅ」

「春香ちゃん、それではまたお見舞い参りますね、それでは」

「おねえちゃん、まったあっしたぁ」

 私と詩織さんはそう声に出してから春香お姉ちゃんがいるこの場を後にしました。




            *   *   *




 詩織さんがここへ来てくれるとは思わなかったからさっき拾った貴斗さんの財布のことを歩きながら話そうか、どうしようか悩んでいた。

 で結局、私はそのことを詩織さんに話しちゃいました。

 だって、黙っているなんて、私の性格じゃないから、っていうより、うっかり、悩んでいることが詩織先輩にばれちゃったみたいのが本当の所です。

「どうしたのかしら翠ちゃん?」

 ってな訳で正直に言っちゃうことにしました・・・。

「これなんですけどぉ~~~」

「これは男物のお財布ですね・・・?エッ、これって確か貴斗君のお札用のお財布・・・、どうして翠ちゃんがこれを?」

「お姉ちゃんの病室で今日それを見つけましたぁ」

「・・・・・・・」

「詩織先輩、何を考えているんでうすかぁ~~~」

「はぁ~~~、貴斗君の今日の遅刻の理由、わかりました。新年早々、私より先に春香ちゃんの所に会いに来る何って・・・、ちょっと許せませんわね」

「ナハハハッ」

 詩織さんも貴斗さんの遅刻の理由がここへ来た事だと判ったみたいです。

 先輩の口調は穏やかだけど・・・、先輩の顔は嫉妬の怒りに満ちていた。

〈貴斗さん・・・、ご愁傷様です〉

 その後の詩織さんと貴斗さんのバトルを想定して敗北者に慰霊の言葉を心の中で捧げてあげちゃいました。


        ~ 2002年3月18日、月曜日 ~


 何とか入試テストを乗り切って今日この日を向かえちゃっていた。

 今、聖陵大学付属学園高等部校門を駆け抜け、詩織さんと貴斗さんの待っている合格発表掲示板が設置してある所に向かっていました。

 正確な待ち合わせ場所を指定してもらっていたので直ぐにお二人を見つける事が出来た。

「詩織先輩、貴斗さん、おはようございまぁ~~~す!」

「翠ちゃん、おはよう御座います」

「おはよう」

 私の元気な挨拶に詩織さんは丁寧に、そして貴斗さんはいつもの調子で淡々と返してきてくれた。

「翠ちゃん、早速、見に行きましょうか」

「あァ~~~、なんだか凄くドキドキするぅ~~~」

「心配する必要ない、大丈夫だろ。あれだけ頑張ったんだから」

 春香お姉ちゃんとは別な雰囲気の二人の優しいお姉さんとお兄さんに連れられて掲示板前へと向かって行きました。

「あぁ~~~ん、人がいっぱいで見えませ~~ん」

「結構、多く見に来ていますわね。これでは私にも覗くのは無理みたいです」

「当然だろ、総合学科でここマンモス校みたいだからな」

「科別に掲示してくれれば良いのに」

「私がここで受験結果を待ったあのころを思い出しましても、改善されている様子はありませんし、私もそう思います、少し待つことにいたしましょう?」

 目の前には掲示板何って見えなかった。

 目に映るのはどこかの学校の制服姿や私服の受験生、人の山だけだった。

 こういう時って身長の低いのって不利。

 そんな私の言葉に詩織さんも貴斗さん、二人ともちゃんと返事を返してくれていた。

「早く見たいですぅ~!」

「俺が代わりに見てやろうか?」

「自分で見なくちゃ意味ないですよ」

 貴斗さんは私に優しくそう言ってきてくれたけどヤッパリ自分で確かめないと意味がないって思ったから元気な声でそう答えしてあげちゃいました。

 暫く経てば人込みは減るだろうなっておもって我慢していたけど私のそんな考えはスッごく甘かった。

 時間が経てども経てども一向に人気がなくなる事はなかった。

 次第に不安になってきちゃう。

 自分の受験番号が書いてあるカードと目の前の人集りを交互に見ながらそんな気分になっちゃっていた。

 私って自分に自信が無い事についての結果を待つの、スッごく不安を感じる性格なんだ。

 今は特にその不安が大きかった。

 だって結果は直ぐ目の前にあるのに全然確認できないんだもん。

 多分、今、私は不安げな表情をしていたんだと思うんだ。

 そんな私の姿を見た貴斗さんに・・・、胴に手を回され、高らかと掲示板の見える位置まで持ち上げられちゃった。

「キャッ、エッチィ~~っ、何するんですか貴斗さん。ハッ、恥ずかしいから放してください、下ろしてください!」

 急にそんなことをするもんだからついそんな言葉が出ちゃったッて言うか本当に恥ずかしかった。

 それと同時に私は悲しくも、怒らしくも思えちゃっていた。

 だってなんだか貴斗さん私の事を女の子って意識して無さそうなんだもん。

「そう思うんだったらさっさと自分の番号、探せ」

 そんな恥ずかしがっている私の気も知らないで貴斗さんは冷静な口調でそう言ってきたから私も少しだけ冷静になれた。

 その後は即行で自分の受験番号を探した。周りの目も気になっちゃうしね。

〈私の受験番号3299はっと・・〉

「アッ、有りました、有りましたよ、貴斗さん、詩織先輩、やりました!」

 さっきまでとっても恥ずかしい気持ちだったけど自分のそれが見つかって嬉しさの方が勝って元気良く二人の先輩にそう聞かせていた。

 貴斗さんも今日からは私の先輩。

 だってその人が通っていた高校に通えるんだもん。

 その言葉を確認した貴斗さんは私を地上へと降ろしてくれた。

 直ぐにその人の方に振り返り先輩に感謝の気持ちを言葉と行動で知らせたの。

「先輩、アリガト、有難う、有難うございますぅ!」

「いたたたたっ、痛いから放してくれ」

 感謝の言葉を言いながら貴斗さんに思いっきり抱きつくとその人はそんな言葉を言いながらとても恥ずかしがっていた。

 さっきとは立場が逆になっちゃっていた。

 それから、少しの間、その人に抱きついたあと同じことを詩織さんにもしちゃった。

「翠ちゃん、よかったわネェ、おめでとう御座います」

 詩織さんはそんな風な祝辞の言葉を言ってくれました。更に、私の頭を優しく撫でてくれる。

 家族以外で私の頭を撫でてくれたのって彼女だけなんだ。だから、そんな風に私をしたってくれる詩織さんが好き。

「オメデトウ」

 詩織さんの胸に顔を埋めていると貴斗さんが淡々とした口調でそう言葉をくれていた。

 でも、私は先輩の言葉だけじゃ満足出来なかった。

 だから、そんなその人にお強請りする様に言ってみちゃっう。

「貴斗センパぁ~~イ、何かお祝いください!」

「ハッ?何を言っているんだ、言葉だけで十分だろ!」

「エェーーーっ、だって八神さんが、貴斗さんにオネダリすれば何でも買ってくれるって言っていましたよ」

 その言葉にその人は呆れるような仕草で答えをかえされちゃいました。

 だから、更なる交渉術を使って見る事にした。

八神さんは実際〝貴斗のヤツは見かけによらず金持っている・・・、そして俺の勘が訴えるヤツは貢クンの素質ありってね〟ってその人が春香お姉ちゃんのお見舞いに来たときそう言っていたのを覚えている。

「俺が誰かの為に買ってやるのは詩織だけだ!」

「やっ、止めてよぉ、貴斗君、そんな事を言うの!恥ずかしい」

「ハイっ、ハイっ、ご馳走さまぁ~っ!」

 貴斗さんが私の懇願に真顔でそう言ってきた。

 それを聞いていた詩織さんは嬉しそうに受け答えしてから顔を紅くしていた。

 私がふった話題だけど聞いていて呆れてきちゃった。

 だから、お決まりパターンの中傷を二人の先輩に返して差し上げちゃいました。

 暫く呆れた表情をしていると貴斗さんは何やら考えている様な表情をしていた。

 そしてそれが終わると私に言葉をかけてくる。

「ふぅ~~~、しょうがない、今まで頑張って勉強してきたし、受験にも合格した、いいぜ!祝いのもん買ってやる」

「ホントですかぁっ!?」

 冗談半分の積りで言ったのに彼がそう言ってくれたから嬉しさと驚きを一緒に言葉に出していた。

「俺のメモリーに、二言と言う言葉は登録されていない、安心しな」

〈ハハッ、貴斗さんって何でこんなに可笑しなセリフをキザッたらしく真顔で言えるんだろう。でも貴斗さんが言うと全然キザに聞こえてこないのも不思議〉

「ヤッタァ~~~。じゃ、早速、買い物に行きましょう!」

 急かす様に貴斗さんにそう言って先に歩き出した。先輩二人は何かヒソヒソと話してから、直ぐに追いついて来た。




            *   *   *




 二人の先輩を連れてK’sって言う大きな電気屋さんに足を運んでいた。

 最新型の再生専用MDプレイヤーを手に取って眺めていた。

「どうしたんだ?翠ちゃんそれが欲しいのか?」

 貴斗さんの目には私が物欲しそうに映っていたのかそんな言葉をかけてくれていた。

「確かにこれ、欲しいですけどさすがにこういった物はぁ・・・」

「翠ちゃんに前『本当の兄のように思ってくれ』って俺、言ったはずだ?だから、気にする事は無い。遠慮するな」

「本当に良いんですかぁ?」

「俺は同じ事を二度は言わない」

「ウフフフゥッ、貴斗君ったらカッコウ、つけちゃって」

「笑うな、詩織!」

「ハイ、ハイ、もうしわけございません、フフフッ」

 詩織さんのそんな受け答えに貴斗さんは言葉を失ってしまっていた。

 そんな二人の先輩のやり取りを見て心の中で私は苦笑していたけど、どうも顔に出ちゃったみたい。

「翠ちゃん、何がそんなに可笑しいんだ!」

「ウッシッシィ、何でも無いですよぉ~~~、それよりこれ買ってくれるんですよネェ~~~貴斗せんぱいっ」

 そんな風に陽気のその人に答えを返してあげちゃった。

「ああ、そうだったな。それじゃレジに行こうか」

「それじゃァ~~~、レジにレッツ・ゴォーですぅ」

 そう言って品物カードを手に取って、貴斗さんの手を握りそちらへと向かった。

「アッ、わッ、翠ちゃん、そんなに、慌てなくても・・・」

「早くぅ~~~、急がないと無くなってしまいますぅ」

 貴斗さんの言った言葉に対して明るくおどける様な仕草でそう返していた。

 それから、それを買ってもらった後、貴斗さんは更に昼食までご馳走してくれた。

 私も詩織さんも外食とかでは見ため以上によく食べるの。

 それを見ていた貴斗さんはとても驚いた顔をしていた。

 その人がレストランに入る前に私の気にしていた事を口にしたからいつも食べる量より更に多く料理を注文して、その人のお財布を瀕死の状態にして上げちゃいました。

 勿論、出された料理は全部、残さず食べさせてもらいましたよ。

 食後、休憩を入れてからゲームセンターに寄って先輩たちと一緒に格闘ゲームに熱中していました。

 貴斗さんって詩織さんより格闘ゲームがよわかったので吃驚。

 それにその人が詩織さんにせがまれてプレイしていた一回、500円もするUFOキャッチャー・・・、貴斗さん運、悪すぎぃ。

 だって9回中9回とも全部入り口手前で落としちゃうんだもん。

 最後にその人は私にそのお鉢を回してくれた。だから、きっちり詩織さんが欲しがっていたぬいぐるみ、三つをゲットして差し上げちゃいました。

 今日は二人の先輩に囲まれて本当に楽しい一日だったです。

 二人の先輩と別れた後、春香お姉ちゃんに受験合格の報告を兼ねてお見舞いに来ていた。

「おねぇちゃぁん、合格ですぅっ!合格発表の掲示板中々見れなくて大変だったんですよぉ。そん時ですぅ、貴斗さんがエッチなことするから・・・、ハハッ、もとい・・・、とても大胆なことするから私、本当にあの時、驚いちゃった。ハァ~~~、でも、貴斗さんは私のこと、女の子だと思ってないのかなぁ、何だかとってもガックリしちゃいましたぁ」

〈確かに私はお姉ちゃんたちと違ってお胸ペッタンコだけどちゃんと異性として見て欲しいです〉

「えへへっ、だからその腹癒せにその人のお財布の中身をスッカラカンにしちゃってあげましたよぉ~~~~」

 そんな冗談交じりの感じで答えてもくれない春香お姉ちゃんに語りかけていた。

 暫く今日の出来事を春香お姉ちゃんに伝えてから私の生活のカリキュラムに取り込まれつつあったお姉ちゃんの体のお掃除と間接運動をして上げた。

 でも、いつも思っちゃうことがあるの春香お姉ちゃんの身体のお掃除やストレッチをしている間、体に刺激がはしっている筈なのに何の反応も示してくれない。

 本当に熟睡しているような感じ。

 そんな状態でお姉ちゃんはもう半年以上もの月日を過ごしちゃっていた。

 いつになったら私のポケポケお姉ちゃんは目を覚ましてくれるんだろう。不安でしょうがないよ。

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