第12話 少年たちのように-12

 高くなった太陽が朝の日差しを照らす下を、学生たちは学校へ急ぐ。その中を涼子はのんびりと歩いていた。追い抜いていく生徒たちにむしろ呆れていた。

 ―――もう学校は目の前なのに、どうしていそぐんだろう。

 そう思っていると、始業のチャイムが鳴った。あぁ、そういうことか、と納得しながらも涼子は歩みを早めるわけでもなく、駆けていく周りの生徒たちを眺めていた。

 教室に入ると、もうホームルームは始まっていた。遅れました、すいません、とだけ呟いて席に着いた。特に咎められることもなく、ホームルームは終わり、担任の桜井先生が出ていくと、あざみは涼子に話し掛けようと席を立った。しかし、入れ代わりに一時間目の緑川先生が入ってきた。あざみは、慌てて自席に戻って、教科書を取り出した。

 弁当を食べ終わって走り回っている男子の騒ぐ教室の窓際で、あざみは勿体ぶった口調で昨日の日曜の出来事を話し出した。

「ね、昨日、ユキ、すごかったんだよ」あざみ

「なにが?」涼子

「あのね」とあざみは話したい気持ちを抑えながら話し出した。

 昨日、涼子は気分が乗らなかったので、ユキの誘いにも応えず家で寝ていた。あざみは、ユキとイズミと待ち合わせて狭間東銀座へ遊びに行った。

「昨日ね、ユキ、ブランドもののバッグ持ってたの」あざみ

涼子は、ふーんと応えただけで、それがあざみには物足りなかったらしかった。

「プラダよ、プラダ。それに、服だって、おしゃれしててさ、高校生みたいだったわ」あざみ

「プラダってなんだっけ」涼子

「ブランドよ、知らないの、リョーコちゃん。勉強しなさいよ」あざみ

「やだよ、アタシ勉強は。ガッコのも、そんなよけいなのも」涼子

「でも、女の子の憧れよ。プラダ、シャネルなんて」あざみ

「だけどさぁ、どうして、そんなの持ってたの?」涼子

「もらったんだって。プ・レ・セ・ン・ト」あざみ

「誰から?」涼子

「カレシに決まってるじゃない」あざみ

「会ったの?」涼子

「んん、そうじゃないけど。ユキも、そうじゃないなんて言ってるけど、絶対カレシよ。でなきゃ、そんなのもらえないわ」あざみ

「でも、高いんでしょ、ソレ」涼子

「あったりまえでしょ」あざみ

「そんなの中学生に買える訳ないわよね。高校生?」涼子

「みたい」あざみ

「高校生に買えるの?」涼子

「結構なお金持ちだってことよ」あざみ

涼子は呆れた気分で教室の中に目線を移した。そこでは、男子の一人がモデルガンを撃つ真似をしながら嬌声を上げていた。

「…お金って、そんなにもらえるのかな?」涼子

「え?」あざみ

「だからぁ、そんな高いものプレゼントできるくらい、小遣いもらえるものなのかなって、思っただけ」涼子

「だから、お金持ちなのよ」あざみ

 あざみは昨日の出来事を次々に話していく。ウィンドゥショッピングしてる時にナンパされたとか、そのまま喫茶店に行って奢ってもらったとか、自分たちが中学生だと言ったときの相手の反応が面白かったとか、楽しそうに話し続けた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る