第四話 名前で呼んで♡

~ 昼休み、3年B組の教室 ~


 今この教室の窓際の席で涼崎春香と藤宮詩織と言う生徒が会話を楽しんでいた。

「えぇ~~~、いいなぁ~、詩織ちゃぁん」

「フフッ、いいでしょう。最近、ズット貴斗君とお話も出来ませんでしたから。私は部活、彼はアルバイトで忙しくて逢うことも・・・、若しかしたら私の事お嫌いになってしまわれたのかと思っていましたのですけれど、昨日、そのお話をして直ぐにね、貴斗君が返事してくれたからとても嬉しかったです」

「そうよねぇ、藤原君ってぁ、人の多いぃ所ぉ余りぃ好きじゃないみたいだしねぇ~」

 宏之君と私、春香は学校が終わった後、良く一緒に帰ったりするけどね、詩織ちゃんは部活、藤原君は授業が終わると直ぐに帰ってしまうの。

 だから、その二人が学校で会う回数はかなり少ない。でもぉ、八神君と宏之君とはよく一緒に帰る見たいなの。どうしてだろうねぇ?

「ねぇ~~~春香ちゃん、柏木君とは、うまくいっているのかしら?」

 詩織ちゃんは少し心配そうな顔で私にそう尋ね聞いていた。

「エへっ!?最近やっとぉ宏之君、私のこと名前でぇ呼んでくれる様になったのぉ~」

「ウフフッ、嬉しそうですね。春香ちゃん」

「うん、そう言えばぁ、詩織ちゃん、随分前からぁ名前で呼んでもらってたよねぇ~?」

「エヘヘヘッ、あの、ですね、私が告白した時に名前で呼んで欲しいってお願いいたしましたら、直にそうしてくれたのですよ」

 恥ずかしそうに彼女は私の問いに答えを返してくれたの。

「エェ~~~。そうなんだぁ、何かぁ羨ましいなぁ~~~」

「でもね、初めて、記憶喪失の貴斗君が私の名前呼んで下さった時、彼ね、とても真っ赤な顔して言ったのですよ。私、その様な表情を見ながら貴斗君の言葉を聞いた時、何だかとっても嬉しい気分になってしまいました。昔の貴斗君に恥ずかしがりますという仕草がありませんでしたから」

 その時の事を思い出したのかなぁ、詩織ちゃんの顔はこの上なくニコニコしていた。

「へぇ~~~、そうなんだぁ。藤原君のぉ真っ赤な顔ってぇ、どんな感じなんだろ?そぉ~ぞぉ~できないなぁ~、だってぇ、藤原君が感情を顔に出す所余りぃ見たことないからぁ」

 人差し指を顎の下に当て、考えながら詩織ちゃんにそう答えをかえしていたの。

 彼女の恋人って普段、とっても無愛想で無口で周りの生徒とほとんど接触しないみたい。

 でもね、私を含めたごく僅かな友達の前では感情を表に出してくれないけど、無口じゃないの。それにぃ、詩織ちゃんの恋人なんだもん、絶対悪い人じゃないと思う。

「フフフっ、貴斗君、私と一緒に居る時は結構、色々な表情、見せてくれますのよ」

 彼女はそんな彼の表情を思い出しながら、また嬉しそうに前で笑った。

「そういえばぁ、あのねぇ、宏之君もぉ初めてぇ私のこと、名前で呼んでくれた時ぃ、顔を紅くしていたのぉ」

「へぇ~~~柏木君も?矢張り男の方って何方でも女の子を名前でお呼びするの恥ずかしいのかしら」

「エェ~~~、何で詩織ちゃんそんな不思議そうな顔をするノォ!」

 詩織ちゃんの私に見せてくれた表情が不満だったからね、口を膨らませた表情を見せてあげたの。

「ごめんなさい、春香ちゃん悪気があったわけじゃないのですけど。ほら、柏木君って自分の感情とかを隠しません、ご自身へ忠実な方ですから・・・。あぁぁ、御免してください、春香ちゃん、わたくしがわるかったですから、ねぇっ?」

 詩織ちゃん、自分のとった言動で私が膨れたのがわかると言葉にして謝ってくれた。

「もぉ~~~いぃもん」

 だけどね、ちょっと意地っ張りになっちゃった私は詩織ちゃんの言葉に顔を膨らせたままソッポを向いてしまう。

「ネェ、それより、何が切掛けで春香ちゃんは柏木君からお名前をおよびされるようになったのですか?」

「嫌っ」

「アぁ~~~、なんですの、それ。即答するこのないじゃないですかぁ。若しかして、まだ先程のこと、怒っているのかしら?」

「違うもん」

「それではどうして、お教えしてくださらないのかしら?」

「だって、だってぇ、教えたらぁ詩織ちゃん絶対笑うからっ!」

 詩織ちゃんが私のこと、笑うなんて思わないけど・・・、そう言っちゃった。

「ねぇ~~~、お教えしてください。絶対お笑いしないってお約束しますから、ネッ!」

 詩織はお願いポーズを取って強く春香に頼んでいた。

「ホントに、笑わない?」

 詩織の言葉に春香は半信半疑な表情を浮かべ、尋ね返していた。

「はいっ、勿論です!」

「詩織ちゃん、絶対笑わないでね」

 そろそろ詩織ちゃんを蔑ろにするのも失礼だから、そう念を押してね、その事を彼女にお話しする事にしたの。

先月の事なんだけどね」


~ 2001年6月10日、日曜日午後2時過ぎ頃、三戸駅ホーム ~

「あぢぃ~~~~~~~~~っ!」

 まだ6月なのに何でこんなにも暑いのだろう、と思いながら宏之は駅のホームでうな垂れていた。

「早く電車来ねぇ~~~かな?」

 こうも暑いと電車が一〇分間隔で来ても遅く感じてしまうのは彼だけではないだろう。

「駄目だ、耐えられん。何か飲もうっ!」

 宏之はホームの飲料水自動販売機の前に立って小銭を財布から出す。

「どぉ~れぇ~にしようかな?」

 声に出しながら宏之が品定めをしていると独りの女の子が現れ彼に声を掛ける。もちろん読んだのは私、春香だよぉ。

「若しかしてぇ~、柏木君っ?」

 そして、呼ばれて彼は私の方へ振り向いてくれたの。

「っえ!・・・、涼崎さん」

「こんにちはぁ、柏木ぃ君」

「こっ、こんちは」

 彼は飲料水のふたを開けながらそう応えてくれたの。

「ねっ、ねぇ~?柏木君、今からぁお家に帰る所なのぉ?」

「えっあっ、うん、そうだけど。涼崎さんもなのか?」

「うっ、うん」

「どうかしたのか?」

彼はスポーツ・ドリンクを飲みながら目線だけを私のほうへ向けていたの。

「アッ、あのねぇ、そノッ、柏木君がぁもし良かったらぁ・・・、

そのぉ、柏木君のお家へぇ、お邪魔したいなぁ~~~なんてっ」

 最後の方は口篭って彼には聞きとれなかったかもしれないね。

 宏之君と付き合い始めて一年と少しかな?いまだに彼の住んでいる家に遊びに行った事が無かったの。

 彼は私が何を言ったのかを一人百面相をしながら数秒考えているみたいだったのぉ。

 それからね、宏之君は私が何を言いたかったのかを理解すると急に驚いて、

「だ、だっだめ、駄目、駄目、駄目っ」と慌てて手を振りながら答えをかえしてくれた。

「えっえぇ、え?どうしてぇ?」

 どうして宏之君がそう言ったのか不思議に思ってそう聞き返していた。

「だって俺の部屋、汚いし、汚いし、汚いし、汚いし、汚いし・・・」

 彼は慌てるように同じ言葉を連呼してね、私にそう答えを返してきたいたのよぉ。

「そんなトコ、女の子が来るような場所じゃないし・・・」

『3番線、電車がハイリマス。黄色い線より・・・』

 そんな会話をしていると電車が到着したというのを報せるアナウンスが耳に届いてきたの。

「俺の方の電車が来たみたいだ」

 宏之君はさっきの慌てようから冷静さを取り戻してそう言っていた。

「ねぇ~~~、柏木くぅんっ」と甘えた口調で彼に答えを求めてみたの。

『プシューーーっ』と音を立てて電車の扉が開く。彼は扉が開くと同時に電車の扉口近くに乗った。

「汚くてもいいんなら・・・」と恥かしそうにしながらそう言ってくれた。

「いいのぉ?」と、そう聞き返すと同時に私もその電車に乗り込んでいた。そして、それを見計らったように、

『電車の扉が閉まります。ご注意ください』というアナウンスが流れてきたのでした。

『ガタン、ゴトン、ガタン、ゴトンッ』

 電車に揺られながら二人して殆ど人が居ない車両の椅子に腰掛けながらお話ししていた。

「ねぇー?柏木君はぁ今日、三戸で何をしていたのぉ?」

「駅前の常盤書店とその隣にあるA&C家電に行ってたのさ」

 そして、宏之君にそれを聞いた私は・・・ちょっとだけ説明しておくねぇ。

 三戸市、私達がぁ通っている学校がある町の名前でぇ。

 そしてぇ、常盤書店はこの三戸市の中でいくつかのぉ支店を構える大型書店なのぉ。駅前西口にある常盤書店がぁ本店でぇビル九階建てっ、各階ごとに売っている物が分かれているのよぉ。

 品数も豊富で、レア物も結構扱っているようだねぇ。

 それから、学校の帰り道の途中にあるのでぇ聖陵生徒達が暇潰しによく利用しているみたいっ。それにぃ、何か欲しい本が有れば大抵ココで買えてしまう。

 A&C家電は最近になってぇポツポツと出没してきた大型総合家電屋さん。お店の名前の【A】は、アプライアンスと言う英語で家電を表したものでぇ【C】はお察しの通りコンピューターの頭文字から取っているようですねぇ。

 家電の展示している数もかなり多くぅ、コンピューターに関して大阪の日本橋、東京の秋葉原より凄いじゃないかってくらい置いてあるのぉ・・・・・・・・・、ってお店のパンフレットに書いてありましたっ・・・私、そういう事に全然詳しくないから、それに関して、八神クンと藤原クンが結構詳しいみたいでうねぇ。

 ハイ、説明おしまいですっ。・・・、そう言えばぁ、若しかしてぇ、私の自己紹介まだでしたネェ。

 涼崎春香って言います。

 友達みんなぁ私の事をぉとろいってぇ言うけどそんな事ないもんっ。←自覚なし。

 去年から初めてぇあったぁ時からずぅうぅうっとぉ想い続けていたぁ柏木宏之君の・・・、その・・・、あの・・・、恋人・・・。

 宏之君と私の仲を取り持ってくれたのは私の大切なお友達の一人の香澄ちゃんです。ハハッ、話が脱線しちゃったねぇ・・・。

「それで、柏木君何か買ったのぉ?」

「今月、既にジリ貧で金がないから、ただ見ていただけ欲しい物とか結構あったけどな」

「ふぅ~~~ンっ」

 あえて、その事を彼に追求しなかった。だって、理由、簡単に判っちゃうんだもん。

「涼崎さんこそ、どこに行ってたのさ?」

「私はね、国立中央図書館に行っていたの」

 国立中央図書館は三戸駅西口から出てそのまま西に向かって徒歩で三〇分位した所にあるよぉ。

 この町では一番大きな図書館なのぉ。

 旧特別区会議事堂を図書館にした所だからぁ、とても広いのよ。

 だからぁ、探したい本とか有ると結構時間が掛かるのが難点かな?

 玄関口に何処に探したい本が有るか検索できるコンピューターが十台近く置いて有るのだけどぉ、私、そう言うのを使うのが余り上手じゃないから本当に大変っ。

「あそこの図書館ね」と興味なさそうに彼は答えを返してくれたの。

「柏木君は中央図書館に行った事ないの?」

「図書館って勉強する所ってイメージが強いからどうもね~~~」

「そんな事ないのになぁ~~~。フフッ、でもなんだか柏木君らしい」

「ヒッでぇ~~なぁー、涼崎さん。俺の事どんな目で見てんダヨ」

「あっ、御免ねぇ。悪気があって言ったわけじゃないのぉ」

「別に、いいけどさ」

『次は、タ・チ・ナ・カ、館那珂駅。降り口は左手となっております。お忘れ物の無い様十分ご注意下さい』

「もうソロ、ソロ、館那珂に着くみたいだ」

 館那珂は三戸駅から北に向かって一つ隣の駅、一〇分くらいで到着するのぉ。

「そうみたいねぇ」

 そんな風に私が軽く返事をすると、その時ちょうど電車の扉が開いた所だった。

「それじゃ、おりようか。忘れもんすんなよ。お前トロイからな」

「うっ、酷いよぉ、そんな事、言うなんてぇ。柏木君のいじわるぅ」

 そう言いながらも彼の忠告をちゃんと聞いて、忘れ物をしない様に網棚に乗せて置いたバッグを下ろし大事に抱えると彼の後に続いていた。

 それからね、二人して駅から出てきたとき彼女は宏之のうちの場所を聞いていた。

「ねぇ~~~、柏木君のお家ってぇ、駅からどの位ぃ、離れているのぉ?」

「うぅ~~~ん?歩いて大体5、6分だと思う」

「それだったら、柏木君のお家すぐ着いちゃうね」

「ア~、確かに近いかもしれない」

「館那珂駅の周りのもお店、多いのね。いいなぁ~~~~~~」

「そうか?」

「柏木君、贅沢、言ってるぅ。私のところ、ベッドタウンだから、回り住宅ばかりでコンビニだって歩いていくの大変なんだからぁ」

「そうかもな」

「そろそろ、俺の住んでいるマンションが見えてくる頃だぜ」

「えっ、どこ?」

「ほらっ、あそこだ!」

「どれ?」

 宏之君の指を指す方を向くと、そこにはミッドナイトブルーをした十二階建て位のマンションがあったの。

「マンションの色が落ち着いていてイイ感じ」

「外見だけじゃない、中も確りした造りになってるよ」

 彼はなんだかとっても自慢気に私に教えてくれた。

「早くお部屋、見てみたいなぁ」

「もうすぐだ」と彼が言った時ちょうどマンションのエントランスの前に私達は到着。

「着いたよ、涼崎さん」

 宏之君の住んでいるマンションは現代風のエントランスにセキュリティーゲートが設けられているマンションだったみたいだった・・・、

ってね、彼が教えてくれたの。それから、彼は財布からカードキーを取り出すと、ゲートの前のスリットにカードをスライドさせていた。

『ピピッ!』と電子音と共にLEDが赤から緑に変わる。

 それから、その後、自動でゲートが開いた。

 それを見て、なんかすごいところだなって思っちゃった。

 実際、宏之君の部屋の中もすごかったんだけどね・・・、別の意味で。

「涼崎さん、中へどうぞ」

 急に緊張してきたのかなぁ私は言葉に詰まってしまい何も口に出来ないでいた。

「ほらっ、はやく」

 私は分からなかったけど、実は彼の方も緊張している様だったみたい。でもね、何とかそれを表に出さない様に頑張っていた様です。

 それから、彼の部屋の前に到着するまで一言も口にする事は無く、そこへ辿り着いてしまう。

「・・・家の前に着いたぜ」

 そして、少し経ってからやっと彼の方から話し掛けてくれたの。そして、彼の言葉に私は緊張しすぎて、頷いて答えることしか出来なかった。

「涼崎さん、2、3分だけ玄関の前で待って貰えないかな?」

「うん、分かった」

 その与えられた時間の間に出来るだけ気持ちを落ち着けようと思ってそれを了承したの。

「じゃー、ちょっと待ってて!」

 言葉を春香に言い残しと彼は慌ただしく中に入っていった。

「きったネェ~~~!」と彼は春香に聞えないくらいの声で叫びながら片付け始めたる。

「こんな事なら、毎日ちゃんと整理していればよかった」

 などと口走りながらも彼は急ピッチで周りの物を片付け始めた。片付けると言うより、部屋の隅に追い遣るといった方が正しいのかも知れない。

「押入れに、詰めるだけ詰めたし、これで大丈夫だろう」

 彼は何の根拠もない自信で自分に言い聞かせていた。

「涼崎さん、もう、入ってきてもいいぜ」

「ソッ、それではお邪魔するね」

 そう言って、恐る恐る彼の部屋に足を踏み入れようとしたけど・・・。

『ガァ~~~~~~~~ンッ!』

 辺りに擬音を鳴らしながら、余りのも酷い部屋の状態に一瞬、凍りついてしまった。

「あっ、あのねぇ、私、そのぉ・・・・・・、男の子の部屋に入るのは初めてだからぁ」

 なんて言っていいのか、分からない状態に私は陥ってしまったみたい。

「ごっ、御免。涼崎さんが来るのが分かっていればちゃんと掃除を・・・」

 実際、彼女がくる、って分かっていても掃除をしないはずの彼は謝りながら言い訳をしていた。

「ねっ、ねぇ~~~、柏木君?」

「えっなっ、なに?」

「男の子の部屋って皆こんな感じなのかなぁ~~~?」

「多少・・・、多分そうなんじゃない?」

「よっ、よかったぁ。柏木君だけじゃないんだねぇ?こんなのぉ・・・」

 宏之君の言葉にしてホッとした表情で私はそう答えていた。

「涼崎さん、そんなところに突っ立ってないで、こっちに来て座れよ」

 玄関口で立ったままの私に彼は呼びかけてくれたの。

「うん」とだけ頷いているものの、やっぱりその場から動けなかった。

「かっ、柏木君?」

 一大決心をして彼に頼み事をしようとした。

「どうした?」

「あのねぇ、オッ、お願いがあるんだけどいいかなぁ?」と懇願するような表情で彼に聞く、私。

「お願いって?」

「ソッ、そのぉ、柏木君のお部屋をお掃除させて欲しいなぁ」

「!?っいいよ、涼崎さんにそんな事、させられない」と慌てる様に答えを返してくれていたの。

「エッ!どうしてぇ?柏木君っ」

「だっ、だって彼女だからって悪いじゃん、そんな事、涼崎さんにお願いしちゃ!」

 本当に宏之はバツが悪そうに私に言っていた。

「そっ、そんなことないに・・・、だめなのぉ?」

「何で急にそんなことを?」

「あっ、あのねぇ、そのぉ・・・、こんな部屋の状態じゃぁ、柏木君の健康によくないと思ったのぉ」と顔を紅潮させながら宏之に私の気持ちを伝えちゃった。

「ハハハッ、やっぱ、汚いよな、これじゃ」と苦笑しながらとても落胆する宏之くん。

「それじゃ~、お言葉に甘えてお願いしちゃおうかナッ」

「うんっ!」と彼の言葉に嬉しそうに頷いてみせたの。

「それでは、早速始めましょうぉ」

 ルンルンと陽気な気分で私は動き出し始めた。

「俺も手伝うよ、何をどうすればいい?」

「それじゃねぇ、最初に部屋の隅に寄せてある雑誌から整理しましょうぉ」

「おうよっ!」

「凄い雑誌の量。もう必要のない雑誌はぁ、大きさの同じものを重ねて紐で結ぶのぉ。

全部、要るって言うのはぁ駄目、柏木君!」と指摘する様に最初に彼に釘を刺してあげたの。

「グッ!!だめなのか?」

「だ・め・で・すっ!」と宏之君の考えていたことはあっさりと却下してあげました。

「本の内容がぁ全体的に必要ならともかく、そうでない物は切り抜きすればいいと思うのぉ」

「俺も男だ、全部捨ててやる」といって彼は凄い勢いで片付け始めてくれた。

 それらを紐で縛って片付け終わると、

「アァ~~~、サラバ愛しのマイバイブル達よ!」と涙を流しながら宏之君は叫んでいた。

「クスッ」とそれを見た私は可笑しくなっちゃって彼に微笑んで見せたの。

「それじゃ、次は?」

「掃除機を掛けようねぇ?」

 そう口にして私が本棚の脇に置いてあった掃除機を持ち出し、それを掛けようと宏之君が慌てた声を出して近付いてきたの。

「あっ、俺がやるよ!」

「いいの、いいのぉ、柏木君はそっちでぇすわって待っててねぇ~~~!」

 だけど、何故か不安と困惑の顔を浮かべている宏之君を押しのけ掃除機を掛け始めてした。

「ラン、ラン、ランっ」と上機嫌で幾つかの部屋を動き回っていた。

「楽しそうだな、涼崎さん」

「エヘヘッ!」と照れるような表情を彼に見せちゃいました。

〈変かも知れないけど私ね、お掃除やお洗濯って大好きなのぉ。身の回りを綺麗にする事がね〉

「最後にベッドの下を掃除したらおわりねぇ」

 そう言って彼の寝室のベッドの下を掃除しようとしたの。そして、その時・・・。

「エッ、ちょっと待った!?そこはいいっ」と慌てて宏之君が声を出したけど時既にオソシ。

『コッツンッ!』

 持っていた掃除機の先端に何か当たったみたい。

「何かあたった見たいだわ?なにかなぁ?」

 私はベッドの下に手を伸ばし、あったった物を引き出す。そして、手に取ったものを確認していた。その時の彼の顔は、ヤばイ物が見つかってしまったという表情をみせてくれていました。私はというとね、沈黙し一瞬、宏之君の顔を覗き、また手に取った物を見る。それを数回繰り返した後、

                ・

               ・・・

              ・・・・・

「・・・?キャぁあぁぁぁあっ!」と叫び声を上げ、涙交じりに手に持っていた、イヤラしい本を彼に向かって投げ捨ていた。

「おッ、落ち着けぇ」と彼は急に怒鳴ってそう言ってきたの。

「ヒッッ!」と彼の怒鳴り声にビクつき大人しくなる私。

「おっほん、えぇ~あぁ~」と宏之君は態と咳払いし分けの分からない言葉を裏返った声で口にする。

「ちっ、チミ、ちぃぃいとそこに座りなさい」

 変な言葉遣いで宏之君はそう私に命令するの。そして、大人しく彼の言葉に従っていた。

「アぁ~、エぇ~とその、ですネェ、涼崎さん」と彼は一呼吸おいてから、

「オ・ト・コと言うものは・・・、漢というものは・・・、ゴメンッ!」

 宏之は一瞬言葉を止めからどうしてなのか土下座して謝ってきた。

「エッ、エッ、エッ????」

 どうして、彼が土下座したのか不思議に思って狼狽えてしまっていたの。

「おっ、漢とは、漢とは、とぉーーーても弱ぁ~い生き物なのだよ、涼崎さん。そっ、それこそ、真の漢のバイブル!」と彼は恥ずかしそうにそう口にしていたのよぉ。

「ソッ、そうよねぇ、柏木君も健全なぁ男の子だもんねぇ。

こういうのにぃ興味あっても可笑しくないよねぇ。ハハッ」とテレながら彼にそう答えを返していたぉ。

「ほんとぉ~~~にぃ、ごめん」

「いいの、そのぉ・・・初めて見て吃驚しただけだからぁ。クスッ」

 笑顔を浮かべそんな宏之の方を見ていた。そして、彼はその彼女の笑顔を見た瞬間、

「はるかっーーーーー!」と私の名前を叫び、抱きしめてくれたの。

「えっ?」と驚くと私の目から突然、涙が零れ落ちはじめてしまっていた。

 宏之君は自分のとった行動に驚いて、直ぐに私を離してくれちゃって・・・、ちょっぴり残念。

「どっ、どうして泣いているんだ。なっ、何か俺、悪い事したか?」

「如何してだろうねぇ?嬉しいのに涙が出てきちゃうのぉ」

 目じりの涙を拭いながら彼にそう言って聞かせていた。

「なっ、なんで?いったい何が嬉しいんだ?」

 不思議そうな表情を作り彼はそう聞き返してきたの。

「だって、だって、柏木君ねぇ」

 涙腺が緩んじゃっタみたい、また目に涙を浮かべながら、彼のそれに答えを返す。

「初めて、私の事ぉ、春香って名前で呼んでくれたからぁ」

「・・・!?俺、はっ、春香って言ったのか?」

「ウン!」と力強く頷いた。そして、宏之君はそれを聞くと急に顔を紅くしながら声を出す。

「そっか、そっか、とうとう俺、涼崎さんを名前で呼んじまったか」

 納得したように宏之は自分に言い聞かせていた。そして、なぜか沈黙してしまう。

「柏木君、どうしたの?」

「ちっ、ちょっと考え事して」

 少し間を置いて彼は私の方に向き直して言葉を出してきた。

「オッ、俺のことも名前で呼んでくれないか?」

「なんだか、恥かしいけど・・・・・・、ひっ、ひ・ろ・ゆ・き・くん」

 頬を紅くしながらだが一言、一言丁寧に彼の名前を言葉にしてあげたの。

「もう一回お願い!」

「宏之君!」と今度は微笑みながら彼の事を呼んであげちゃった。

「ぁかぁっ、感動ぉおおおっ!!!ウン、よしよし、いい響きだ」と言うともう一度、宏之は私を抱きしめてくれた。

「宏之君」と弱々しく言葉にして彼を見上げる。

 そして、自然に私は目を閉じていた。意味をわかってくれたのかな?宏之君は流れに任せるように・・・、唇を優しく覆ってくれたの。それが私達二人にとってのファーストキスだった。そして。

「これがぁ、私と宏之君が名前で呼ぶようになった理由っ」

 ウットリした感じの顔で全て隠さず詩織ちゃんに話していた。

「・・・、フぅッ」と詩織ちゃんはどうしてなのか小さな溜息を吐いて見せてくれた。

「どうしたのぉ?詩織ちゃん」

 何故か彼女が溜息を吐いたのが気になって、その理由を尋ねていたの。

「だって、その・・・、春香ちゃんがとても羨ましいから」とボソッ、と詩織ちゃんは答えていた。

「エッ、何がぁ羨ましいのぉ?詩織ちゃんだってぇ名前で呼び合っているんでしょ?」

 その事について聴いていると思い、そう彼女にそう言葉を返していた。

「いいえ、違うの。春香ちゃん、違うのです」と寂しげに詩織ちゃんは答えるだけだった。

「えっ、じゃなんで、どうして?」と何の事か全然分からなくて彼女に再び、尋ねかえしたの。

「驚かないでお聴になって下さいね、春香ちゃん」

                ・


                ・


                ・

 そう口にしてから詩織ちゃんは一間を置いてまた口を開いたの。

「私、まだ・・・、その・・・、あの貴斗君と・・・、その、きっ、キスをした事がないですから・・・」

 そう言ってから彼女は顔を紅潮させて下を向いてしまった。

「イッ!」と驚いてから私のお話した内容を思い出して私自身も紅くなっちゃった・・・。

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