愛すること/殺すこと

  • ★★★ Excellent!!!

3,000字弱の短編ですが、とても切なく、重いお話です。【おことわり: 以下、ネタバレあり、となります】

「俺」こと、悠希(ゆうき)は、彼が愛していた遥人(はると)の死を受け容れることができません。

だから彼は、遥人のクローンを造り続け、同時にまた、そのクローンを殺し続けます。なんでそんな残酷なことを? と読者は感じるでしょう。

あたりまえの話ですが、愛するには、愛される相手が必要で、その相手は「他の誰でもない」その人でなければなりません。

恋人の死を認められない悠希は、「他の誰でもない」遥人がもう二度と戻ってこないこと、いいかえれば、遥人が遥人であることを受け容れることができないのかもしれません。

だから、まるで遥人との生活をまるごと「リプレイ」できるかのように、遥人のコピーを生み出しては、そのコピーを廃棄するほかないのです。

「もう一度、遥人くんに会いたい」という願いが、結局のところ、「遥人くんを殺しているかのような感覚」に終わる。そこでようやく悠希は、「やっぱり、遥人くんに会うことなんて、出来やしない」ことを理解します。いや、最初から理解していたことを、ようやく正面から引き受けるのです。

遥人の死を認めることは、彼を自分の心のなかで「死なせてあげる」ことなのだとしたら? そうしないかぎり、遥人を「愛すること」は不完全なままに終わってしまうとしたら?

愛する者を失うことの切なさという、とてもとても重いテーマが、愛する者(のコピー)を殺すという苦しさを通じて表現されています。

エンディングで朝日に照らされる2人が、幸せになることを願わずにはいられません。