episode6[悪の権化]

 〝他人のアイデントアビリティを発現させるアイデントアビリティ〟


 ニーナさんはクジラ頭を得意気に笑わせながらそう言った。

 「ああ、今すぐじゃないよ?まあ時間もかかるし、人目につくと怖い人達が僕らを捕まえに来ちゃうから、頃合を見て、ね」

 「因みにIAはバトル制限やスキル制限といったフィールドの規制を無視して発動できる。極論さっきのキレイみたいに、このショッピングモールでもバトルモードに切り替れるってわけだ。まあ、人によってはアビリティの再使用、〝リブート〟っつーんだけれども、それに時間のかかる奴もいるから、見境無く使うのは避けるべきなんだがな」

 死人さんがそう言ってキレイさんを一瞥する。キレイさんは悪びれる様子もなく、満足気にニコニコしているだけだった。

 「まあまあ難しい話はそれくらいにして!ほぉら!お買い物しましょ?」

 「そうだな、キャッシュの通知はアカウントを乗っ取っていようが本人の端末に行くはずだから、向こうが怖気付かなければすぐにでも顔を出すだろうよ」

 「えっと…、かなり抵抗があるんですけれど、やっぱりやらないと返してくれないですか?」

 私は正直無駄だとわかっていながらも、最後の抵抗として彼らに言葉を投げかけた。

 

 「返さないってば~。ほら、脅さないだけまだマシだと思ってさ、僕らが穏便なウチにやっちゃお?」


 ニーナさんは、我こそが悪の権化だとでも言うかのような、そんな無邪気で無責任な言葉を吐いた。


 そこからの私は完全に吹っ切れて、少しでもいいなと思ったアイテムは全部買いあさり、途中からはなんだか感覚が狂ってきて、最終的に値段が7桁する車を一括で買った。裏切り者のジャッキーさんは確か未成年だったはずだから、こんなぶっ飛んだ買い物ができる程蓄えがあるとは思えない。本人と言うよりも、罪のないであろう彼女の両親に迷惑をかけているような気がする。


 電脳世界の大手ショッピングモール〝ALL CLAUSE〟の1階フロアと2階フロアをあらかた巡り切った時点で恐らく決算額は3千万を既に越えている。私は当初の緊張感や罪悪感も薄れて、さて3階フロアにはどんなお店があるのかな。と、呑気に考えていた、


 そのとき。


 「やめて…、もうやめて!!!」


 私たちの背後で、女の子の叫び声が聞こえた。


 振り返るニーナさん、死人さん、キレイさんの三人に、遅ればせながら続いて後ろを振り返ると。


 そこにはペンギンの着ぐるみを来て、顔出し部分からはエメラルドグリーンの長い髪を流し、両の即頭部から龍のような枝分かれした角を生やした小柄な女の子が、なんだかもう、この世の終わりみたいな顔をして立っていた。

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