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裏切り者さがし

episode 0[チュートリアル]

 1900年代後半に世に出始めた電子ゲーム器。

 当時はブラウン管画面に映る白黒のキャラクターやピコピコとなる電子音が子供たちの心を掴んで放さなかっただろう。

 それからというもの電子ゲームは進化を続け、老若男女問わず人々の遊び心を鷲掴みにしてきた。機械にカセットをインサートするタイプのゲームが消え、機械にデータ化したゲームをインストールするブームが過ぎ、自分の脳を媒体にゲームデータをインストールする技術が開発されて…ああそういえば、一時期VRなんてものも流行ったな。

 思い返すと懐かしいなぁ。そんな時代もあった。カセットをインサートするタイプなんて、僕は資料でしか見たことがないけれど。


 今となってはほら、これが主流。


 自分自身を電子化して、ゲームの世界に入り込む。


 ゲーム技術のこれ以上の進歩はもう見込まれないんじゃないかな。

 過去何度も小説やライトノベルで語られてきたSF物語が実現したんだ。これ以上に痛快なものはない。


 この電子空間ではゲームマスターの設定したルールの中でなんだってできる。メタボの中年男性が格闘アクションの世界大会に出場することも、ごく一般家庭の子供が超一流アイドルになることも、なんでも思いのままだ。


 しかし一方で、ゲーム内でのいじめやヘビーゲーマーたちの生活習慣の極端な悪化、教育基本法の大幅改正の必要性に悪徳課金詐欺の発生などなど、様々な社会問題を生んでしまった。結果この国だけでなく、そう、世界中で、ゲームに関する様々な厳しい法律が制定されることになった。


 あらかたの法律が制定されてから12年。『サイバー部隊』と呼ばれる特殊警察機関の樹立もあってか、ゲームを取り巻く環境はとても落ち着いてきている。

 現在のゲーム企業は健全に競争を繰り広げ、プレイヤーたちはリアルとゲームの健全な両立を目指し、楽しくゲームをプレイしている。

 ゲーム基本法と呼ばれるようになった、一連の厳しい法律の名の元に逮捕される人間は後を立たないけれど、それは逆手に読めばつまり、違反者が野放しにされない環境になってきているということでもある。


 しかしこの法律、矛盾や解釈の食い違いなんかがまだ少なからずあって、改正の必要性は大だ。

 例えば未成年のゲームへの課金は保護者の同意が必要だ。けれども、学校での生徒への指導はあっても、保護者向けの講義なんてほとんど開かれない。参加率も悪いからね。最近は昔に比べてモンスターペアレンツなんて呼ばれる連中も増えたし。っていうか、子供がポンポン課金してくれた方が業界は潤う。その辺の利害関係があるから政府もそう簡単に法律と実情の溝を埋められないんだ。


 さらに近年、ゲーム基本法違反者、俗に言う過激プレイヤー達の集団がいくつも出現してきている。連日ニュースで名前を聞く集団は『クラクラ』とか『outlawアウトロー』とか『あお眼帯がんたい』とかかな。

 彼らは厳しいゲーム基本法の裏をかいて、ときには大いに違反して様々な事件を巻き起こす。特に『クラクラ』の連中なんかはひどい。改造ツールに違法データにコンピューターウイルスなんかも取引している、最早完全な犯罪グループだ。ここまで話題になって未だにサイバー部隊に一網打尽にされていないのは、なんといっても彼らのリーダーである『最上もがみ』の頭脳と能力あってこそだろう。あいつは厄介だ。

 


 さて、ここまで語れば、昨今のゲーム事情についてはだいたい分かってくれただろう。


 …え? なぜそんなに詳しいのかって?


 そりゃあ、ねえ…?


 なんたって僕が、窮屈な法律を出し抜いて全力でゲームを楽しむ過激プレイヤー集団『outlaw』の一員だからに決まっているだろう?

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