狂気の遊びと武器調達

 ◇◇◇バレン目線◇◇◇


「うぐぅっ……。執事もっと優しく引っこ抜けよ……」

「しかし。こうもしなければ、後処理はできませぬぞ」

「そりゃそうだよな……。すまねぇ……」

「わたくしこそ、申し訳ございません」

「あとは、遊びで問題ないけどな」


 金庫が無事に開き、俺は執事の行動に不満を抱えていた。傷口は一瞬で治り、今はめまいだけが残っている。まだ抜いていないところもあるが……。

 俺が王族でよかった。生きてよかった。不満も多々あるが、それはそれで吉としておく。俺が死ねば王族は消える。

 そう簡単に考えてはならなかった。コイツらには俺の力が必要。特にロムとフランネルは守りたい。守ってあげたい。

 たしかに俺は無茶をする。怒り任せに、負担が大きい魔法を使ってしまう。死ねばそこで終わり。生きれば寿命が縮む。

 最近覚えたことなのか、以前から知っていたことなのか……。そんなに深く考えたことはなかった。


『おい見ろよ。開かずの金庫が解錠されたぞ‼』

『その前にあの平民の姿。あんなところに管なんかくっつけちゃって。刺さったものは今すぐ抜いてみたいわね。それであの子が……。うふふ。おかしなこと考えてしまったわ』

「ん? 俺がどうした?」

『あらら、気づかれてしまったようね』

「抜いてみたけりゃ、好きにしろ。胸のやつは乱暴にやっていい」

『ですって、面白そうね……。そこのご老人さん。よろしいかしら?』

「本人のご意向にお任せします」


 別に死んでも良い。命なんかとっくの昔に捨てている。もっと言えば、俺は生き別れた兄の遊び道具だ。

 親に聞けば、赤子の時に炎で焼かれ、深い湖に沈められ、濡れたまま風にもさらされた。毎度注意をしていた親の苦労は、きっと計り知れないだろう。

 俺もよく生きていたと思えば、もうすでに人ではない。馬鹿みたいな身体だ。生死も関係なく感じてしまう。

 兄の行方を考えたことは、記憶の中では一度もない。見つかった瞬間、俺はただのおもちゃ扱いだ。


(抜くならさっさと抜いてくれ。多量出血になっても構わない)


 身体の前後に刺さった太いチューブ。ボタンを押せばトゲが出る。この構造は目で見て覚えた。


(さっさと押して、さっさと俺の胸を引き裂いて、さっさと身体の中をえぐって、さっさと抜いてくれ)


 生きることに興味はない。死ぬことには興味がある。仲間を助けるために俺は死ぬ。死ぬ思いで、手のひらの上を踊り続ける。

 踊った分だけ胸も躍る。それが今の俺の楽しみだ。好きにすればいい。お手玉のように遊ばれて、最期は中身をえぐって捨てればいい。

 駆け寄るマダム。俺の前に立ち、俺がボタンの場所を伝え、マダムがボタンを押す。飛び出す無数のトゲ。チューブが太い分、ほとんどが心臓を突き抜けた。

 強烈な痛みで身体が跳ねる。その痛みの強さに笑みがこぼれる。面白くなってきた。


(もう一人俺の後ろでやってくれ。そして、空中で振り回してくれ。えぐる数だけ楽しませてくれ)


 思考が狂気へと変化する。ロム達は先に武器屋へ向かった。ここには、俺と執事と野次馬だけだ。別の人が近寄ってくる。

 その人は俺の後ろに立ち、マダムと同様にボタンを押す。さらに増える無数のトゲ。大笑いをしてしまいそうで腹が痛い。

 久しぶりの狂気の遊び。前後の二人が俺を宙に浮かせた。浮いたのと同時に左右に揺れる。


「そのまま回せ。俺で遊べ。それに関して不満も恐怖もない」

『なら、存分にいかせてもらうわよ。死は覚悟なさい』

「さあ、どうだかな……」


 勢いよく振り回し始める二人。身体の中でトゲが遊び出す。どこが痛いのかわからない。機械で無限に振り回すのも、いつか試してみたいものだ。

 そんな狂気の遊びは二時間続いた。

 空中でチューブが外れて、頭から落っこちたが、これも笑い一つで片付けている。

 時に狂うのも悪くはない。


「んじゃ、執事行くぞ」

「はい」

「ついでに呼び出しとくか……」


 ――装備転送ウェポンテレポート エクスキャリオン・ブレード。フォトン・グングニール。


 呼び出した途端に後方から飛んでくる、長剣と槍。俺は執事の手を握り、長剣に飛び乗る。目指すはロム達の場所。

 俺は全速力で飛行する。


 ◇◇◇数分後 ロム目線◇◇◇


『おーい、ロム‼ 来たぞ‼』

「バレン‼ って。剣に乗ってる……」

『別に良いだろ、これくらい。その前にコイツをくれてやる』

「えっ⁉」


 よく見ると、バレンの隣に槍が一本、並走するように飛んでいた。それは僕の方へ向かってきて、タイミングよく握りしめる。

 触れた途端に感じる懐かしさ。初めて触れたのに、昔の僕が使っていたかのような感覚。どうしてなのかは、イマイチわからない。


「やっぱりお前もなのか……」

「というと」


 いつの間にか横に立っていたバレン。〝やっぱり〟とはどういうことなのか。それよりも、この武器のことが知りたい。

 どこかで見たような形状の、とても長い槍。僕の身長よりも長い。


「俺の家系に伝わる槍。名前はフォトン・グングニール。普通なら王族しか使えない代物だが、予想は当たったようだ」

「フォトン・グングニール。王族しか使えないって」

「ああ、実はだな。この世界には王族の武器が七つ存在するんだ。んで、選ばれた人、ほとんどの場合、王族しか触れることができない」

「じゃ、じゃあどうして僕が……これを……」

「勘だな。まさか当たるとは思わなかった。んじゃ、武器調達と行きますか……。俺に着いてこい」

「リーダーアタチだよぉ~。バレンおにいたん」

「アハハ…………」


 フランネル令嬢は、一体どれだけ〝リーダー〟という立ち位置がいいのだか……。思わず苦笑してしまう。

 合流してからはスムーズで、到着した武器屋街は、騎士や兵士で賑わっていた。キレイに並べられた武器。剣だけではない。

 僕がその中で気になったのは、くの字に曲がった薄い板。十字形のもある。だけど名前がわからない。


『そこの少年。これが気になっているのかい?』

「僕……ですか?」

『ああそうだ、これはブーメランと言ってねぇ。こうやって投げると……』


 とある店の店主が、ブーメランというものを水平に持ち、少し傾けて横スライド。

 手から離れた薄い板は、シュルシュルと風切り音を立てて、店主のところへ戻ってくる。


『戦闘に使うなら、こっちの刃付きがおすすめだよ。ただ、戻ってきた時は気をつけないとだけどね……』

「どうするんだ? それと金は俺が管理する」

「僕の好きで買っていいの? バレン?」

「もちろんだ」

「それじゃあ、買います‼」

『毎度‼ 二千ウェレス』

「ってことは、メリナじゃ二枚だな」

『め、メリナ⁉ 古代通貨のメリナかい⁉』

「その実物だ。今回は高く買ってやるよ。五百メリナ。現代通貨では五十万ウェレス相当になる。あとで換金して使ってくれ」


 大サービスしすぎのバレン。優しいのか金銭感覚が異常なのか。それよりも、他のみんなは何にしたのだろう?

 バレンは一人で飛び回り、会計で忙しそうだ。僕は店主に投げ方をレクチャーしてもらい、全員が集合するまで時間を潰す。


 ――ビュシュン‼


 店主から教わったようにスライドさせる。ブーメランが手を離れて飛んでいく。


 ――シュル……シュル……シュルシュルシュル…………。バタンッ‼


 僕の投げ方が下手すぎて、別の店の屋根に乗っかってしまった。これはもっと練習が必要のようだ。

 取りに行こうにも高すぎて届かない。


「ロム、戻った……。っておい‼ もうブーメラン無くしたのか⁉」

「ごめん。投げるの下手で……。あそこの屋根に……」

「ふーん。そんならこれで」


 ――ビュルウォン‼ シューーーン……。バシッ‼


 突然バレンが丸い何かを投げて、屋根に乗っかったブーメランを回収。よく見ると、ぺしゃんこの砂時計みたいな形をしていた。

 名前を聞くとヨーヨーだそうで、とある村ではお祭りの景品とのこと。子供には大人気の遊び道具らしい。

 普通なら手のひらサイズがちょうどいいようだが、バレンの手に収まっていないし、ゴツゴツで重そうに感じる。


「よく持っていられるよね……。デカすぎない?」

「ん? 全く気にしてないが……。それにこれ、売れ残りのやつだしさ。希望価格の五十倍で買い取った。二万メリナで」


(サービス精神高すぎ……)


「ロム、バレン‼ 戻りま……。あれっ? 令嬢様はどうしたんすか?」


 遅れてやってきたレネルとブライダ。よく周りを確認すると、フランネル令嬢が見当たらない。

 まさか、迷子? バレンがみんなに待ち合わせ場所を伝えると、僕と二人で探すことになった。


「俺が渡した槍を投げて飛び乗れ‼」

「えぇぇ⁉」

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