星降る夜

                        

 食事がすむと夜の庭に出てみました。


                  ♬ 月の光(フジコ・ヘミング)


 星空を見上げてりんが感激しています。

「星が降るって言うのはこういうことなんだね。都会は明るすぎて星が見えないけど田舎の夜空はすごいね。満天の星空。天の川が降ってきそう。手が届きそうじゃん」


「今、見えてる天の川って天の川銀河の一部なんだよ。地球があるのが太陽系。太陽系が所属するのが天の川銀河。そのような銀河が無数に集まったのが銀河団。

 宇宙は138億年前のビッグバンが始まりらしいよ。今でも膨張してるんだって。地球は46億年前にできたっておかあさんに教えてもらったんだ」


「おかあさんってそんなこと知ってるの?」

「おかあさんは学生時代、天文クラブに所属してたから、あゝ見えても宇宙には詳しいんだよ」 


「へ~おかあさんが宇宙に詳しいって初めて聞いたわ。若いころには夜空を見てたんだね。今は家事が忙しくてそれどころではないみたいだけど」


「いそがしいのはりんに原因があるかもね」


「わたし鈍くさいからね。なかなか宿題やらないし・・・」

 おかあさんが忙しいのはどうやらりんのせいのようです。


 りんが話題をそらしました。


「田舎はいいねえ。空気はいいし、夜空もきれいだし、騒音もないし。でも田植えのころにはカエルの大合唱がすごいね。夏にはホタルもたくさん飛んでるし川の流れも聞こえるし、田舎の夜って結構にぎやかだね」


 夏が思い出したように言いました。

「そうそうおかあさんが言ってたけどおじいちゃんが病院で亡くなった夜、ここの玄関にホタルが飛んで来たんだって」


「それってどういうこと?」


「亡くなったおじいちゃんがホタルになって家に帰って来たらしいんだよ」


「へ~それも不思議なことだね。亡くなったらみんなホタルになってお家に帰るの?お家がマンションならどうなるの?・・・」


 それは夏にもわかりません。


「田舎は不思議がいっぱいなんだよ」

 そう答える夏でした。


 少し冷えてきた庭先で、夜空を見上げながら二人のおしゃべりはとめどなく続きます。

 星明りで竜王の丘の大桜がピンク色に浮かび上がっています。

    


 その夜は和室に布団を敷いてもらいました。


「畳の部屋って気持ちいいな~。寝相が悪くてもベッドから転げ落ちることないから安心だね」

 寝相の悪いりんが天井見つめながら笑っています。


「天井も違うね。マンションは壁紙だけどここは木の天井だね。周りはふすまと障子だし床の間とかあるし。和風ってこういうことなんだね。私たちのマンションには和室無いからここは新鮮だね」


 りんが心配顏で切り出しました。


「でもトイレが廊下の端っこだから怖いんだよね~ 廊下ギシギシ言うし暗いし。だから行きたくないんだよね。都会生まれのおとうさんも夜のトイレ怖いっていってたよ」


 トイレの心配をしている、りんのそばで、枕を並べている夏が突然むずかしいことを話し出しました。     

                  ♬ ノクターン9-2(ショパン)


「りん、私ねえ 弥生のクニに行ってから日本の古代史に興味がわいてきてねえ図書館で弥生時代のこといろいろ調べてみたんだよ。二千年くらい前のことだから詳しい記録はないけど遺跡の発掘調査でいろんなことがわかってるみたいだね。それ以前の縄文時代は狩猟したり木の実などを採取して生活していたけどそのうちに大陸からいろんな文化と一緒に稲作や金属器も伝わってきて農耕と採取を行い定住生活するようになったんだ」


 夏の難しい話をウトウトと聞いていたりんでしたが弥生のムラを思い出したようで懐かしそうにいいました。


「うん、ゆきのクニもお米作っていたね。りっぱなお家もあったね」


 夏は布団の上に起き上って座りなおすと

「お米つくるようになって身分の差ができたりお米の取り合いや土地の奪い合いで争い事が多くなったみたいだよ」


「ふーん、だからゆきたちは深い堀や柵で囲まれたところに住んでいたのね。お父さんは戦いで亡くなったって言ってたし。弥生の時代は争いが多くなったんだね」

 すっかり目のさえたりんも布団のうえに座りました。


「金属の武器や農具が作られるようになったのもこの時代だよ。そして争いは長く続いたんだ」


「争いが続くなんて悲しいね。だからゆきが横浜を訪ねてきたんだね。そして私たちと神龍さんに乗ってこの村にやってきた」


「そう!何とかして倭国を平和にしたかったんだよ。みんなが安心して豊かに暮らせるようにすることが自分の使命だと思っていたんだ」


「そしてゆきの努力のかいがあって、争い事をやめて話し合いで解決する平和なクニを造ることができた。それを知らせるためにおじいちゃんにもらった桜をこの丘に植えて私たちが気づくように鏡も埋めた」


「うん、そこまではりんの推理で間違いないね」


 段々と夏の説明に熱が入ってきました。


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