第7話 ヘルサード侵攻と釣りのリベンジ

忙しい副長を邪魔してはいけないと部屋を後にした俺は、ブカブカの膝当てとガントレットの調整と兜と鎖帷子を見に武具店に向かった。


店で調整をお願いすると、身体が大きくなると自然と合ってくるのでベルトの調整のみとした。支給された鎖帷子はベストみたいなので腕の部分が丸空きだった。ガントレットで少しは隠れるか全部ではない。

そこで店員さんには肩鎧を提案された。なるほどそれも悪くないな。鎖帷子を装着した上に着ければ良いという。鎖帷子は女性用で胸の部分がボリューム有るので調整だけして貰った。

兜はスイカメットみたいなのでツバ付きじゃ無いのから、ツバ付きのモリオンヘルムみたいのを見つけてそれを購入した。フルフェイスまでは必要無いからね。後は鎖頭巾をと思ったのだが、大きくなると直ぐに着けられなくなりそうなので、首回りだけの物にした。

後は靴を如何するか悩みどころなのだ。と言うのは良い物を買ってもサイズが合わなくなってくるので勿体無いからである。しかし、今回は良い物を2足オーダーした。安全靴の様な爪先に鉄を貼ったヤツだ。足の甲は膝当てがカバーしてるので問題無い。

何故靴にお金を掛けたのかはこの間の遠征が原因である。

やはり長い時間の行軍では靴の重要性に改めて気付かされたからである。実は帰りに関しては所々の街で靴を見て回ったが良い物は無かった。そこで小さ目の女性兵士用のを買っていたのだが、やはり靴擦れが多くて苦労したのだ。良い物を買って置いて損は無いと思う。


後はポーションなども買い足ししておく。まだ使ってないが高級ポーションを手に入れたのでそのまま売らずにストックしている。

俺達は魔法兵や弓兵と遣り合うので魔法や矢を受ける事が多い。魔法については魔力量が多い俺は大丈夫な方なのだけど、矢については気を付けないといけない。特に注意が必要なのは上から降ってくる矢である。

上空に放たれた矢が山なりに此方に落ちてくる矢で怪我をする事が多い。魔法兵に兜と鎖帷子が支給されるのはこの為だ。今回ツバ付きのモリオンヘルムにした事と肩鎧をつけるだけで上空からの矢に対して防御が厚くなっている。それでも何があるか分からないのでポーションは必需品なのだ。


買い物を終えた俺は駐屯地に戻り、魔法兵の組分けを提案する事にした。

今はそれぞれ必要な所に呼ばれて適当に後方援護に着いているが、それではいかにも効率が悪い。

そこで、5人一組のチームにして後方援護をさせる。そうすれば魔力切れを起こさずに休みながら魔法が撃てるはずだ。もし火力不足の時は他の組に応援を頼みに1人行かせれば他は戦闘を継続出来る。怪我をしても庇いながら治療も出来るし、回復魔法兵を呼んでも良い。

副長に相談に行くと「なるほとね…じゃあ組分けは任せるよ。そうか…それなら弓兵にも採用しようかな…」などと賛成してくれた。

俺は早速組分けを皆と話し合いながら考える。先ずは回復魔法兵は別動隊としておく。

チーム分けは4属性をなるべく入れる事とした。1属性だけで構成した場合、通用しない属性が当たると火力が無しになってしまう。しかし、属性を分けておけば1属性が駄目でも他の3属性で火力が出せるからだ。

後は相性の問題を考える。チームワークは相性が悪いと発揮されない。クセの多い連中が多いのでこの組み合わせが肝となる。

どこにでも爪弾きされる奴が出るので、そいつ等は全部俺が引き受ける。そいつ等の不平不満はいくらでも聞くけど、単なる暴言や言い掛かりは杖でイワしたるつもりだと言ったら、前のコボルトをぶっ飛ばした件を知ってるので静かになった。


それから訓練も積極的に行う様にした。とにかく魔法の起動を速くさせる為の訓練だ。

コレにもコツがある。先ずは魔力移動や魔力操作を速く出来る様にする。これをやる分には魔力切れを起こさない。それが速くなると魔力を集める事が速く出来る様になる為、結果として起動が速くなる。

最初は面倒臭いとか皆ダラダラやってたが、起動が速くなるのを体感すると文句は出なくなる。成功体験こそやる気を起こさせる源だ。

次は無詠唱なのだがコレは数をこなす必要があるのでかなり難しい。そこで詠唱を単純化させて起動を速くさせた。

コレにより魔法兵全体で魔法の起動時間が1.5倍から2倍は速くなる事に成功した。

また、更に上昇志向の者は魔力切れを何度も繰り返しながらも、遂に無詠唱を勝ち取る者まで現れた。

この努力は次の戦で報われる事となる筈だ。

俺の組に入れられたジョンソンという土魔法の使い手は魔力量が少なく5発撃つのが限界だった。その為、使い物にならんとか散々馬鹿にされ続けたのだ。だが、俺の指導で魔力の移動と操作を寝る間も惜しんで行い、更に無詠唱の訓練をひたすら行っていた。そのうちに彼は無詠唱を勝ち取っただけで無く、魔法を撃つ際に無駄が無くなり効率化された為に、今では8発もバレットを撃てる様になった。つまりは魔法の起動時間を上げる事は魔力の燃費向上にも役立っていたのだ。

彼はその後も研鑽を続けてバレットへ回転を掛けられる様になり、飛距離と威力が飛躍的に向上し、狙撃手としても活躍できる様になった。

この様に起動を早くする事で魔力の効率化によって、魔法の撃てる数が平均で2発は上がっている。


俺の技術は惜しげも無く皆に教えた。2属性を使える者には合成魔法の指導もしているが、それは流石に難しい様である。


こうして3ヶ月が過ぎた頃にヘルサードに侵攻する為に王国軍として各貴族の軍が召集される事となった。今回は伯爵閣下も直々に出陣する。

今回は伯爵閣下と共に行軍する為に3ヶ月以上は掛かる。我々としては前回で最高の結果を出しているので「無理はしないがメンツは重んじる」という事で全軍を伯爵閣下に率いらせ王国に忠誠を誇示する事が目的である。


俺達4番隊は補給部隊の護衛任務に着いた。

補給部隊には責任者が居るのでそちらは任せて、周りを囲みながら警護する。

荷物を引く軍馬は、前世で見たばんえい馬の様にデカい。俺は軍馬をチラチラ見ながら歩いていた。


「あんちゃん、ちゃんと周り見てないと駄目じゃねーか?」


「あ〜、常に気配は探ってるから大丈夫だよ。この軍馬はデカいねぇ〜。名前あるのかい?」


「名前??そんなもん無いさ」


「そうか、良し!オマエは今日から黒王だ!」


「随分と偉そうな名前だな〜」


「国王違いだよ!黒の王で黒王!!」


「…この馬茶色だけどな…」


そんな馬鹿話を補給部隊の人としていると、左側から魔物の気配がする。


「左側前方より魔物の気配。槍隊は壁を作って!俺らは狙撃準備!弓兵は撃ちもらしを頼む!」


すると左側より狼の魔物が数匹やって来た。俺は既に『熔岩砲(マグマキャノン)』をぶち込んでる。他の魔法兵も魔法を撃ち込んていた。狼の魔物は一瞬にして全滅していた。

槍隊や弓兵の連中は俺達の攻撃の速さに驚きの表情を見せていた。

魔法の起動を速くした成果が早速出た形である。


「あんちゃん凄えな!!あっという間じゃねーかよ!」


「ウチの魔法兵は優秀だからね〜」


「コレなら安心だ〜」


こんな感じで多少の襲撃は有れど単発なので、基本的にはのんびりと行軍して行ったのだった。


この日は街道沿いの湖の辺りでの野営となった。俺は湖に居た魔物をバンバン倒して今日の夕食とする。

補給部隊のおっちゃんにデカい鍋を借りて肉と野草を煮込み、薬草ハーブと塩で味付けをして皆に振る舞った。


「こりゃあ美味いな!!薬草で味付けするとは…」


「オカワリくれ〜〜」


「コッチもだ〜〜早くしろい!」


いつの間にか隊長までやって来て豪快に食ってたが、副長に見つかってそのまま連行されて行った。気の毒に…。

この日は結局2回も鍋を作る羽目になったが、久々に楽しい野営となった。やっぱり食事は大事だよなぁ〜。


こんな感じで俺達はゆっくりと行軍して行く。

懐かしのレクマーノの街に到着するとまた凝りもせずに皆と一緒に湖へと釣りに向かう。


「ラダルは釣りが下手くそだからな」


「最初だけだったよな〜」


とか色々言われた。

良かろう…その罵詈雑言は甘んじて受けよう。その代わり今度釣れたらお前ら覚悟して置けよ!!


その日も結局アタリは来なかった…クソっ!

皆から散々馬鹿にされたがココはじっと我慢である。

その日の夜に杖を振る練習をしながら、何故アタリが来ないのか考えてみた。まあ、ビギナーズラックで釣れたのは分かるとして、こうまでアタリがないのは流石におかしいと思ったからだ。魔力を調節しながら杖をブンブン振っているとふと思い出したことがある…そうだ、最初の一投は確か魔力を入れてた様な気がする、と。おっちゃんから貰ったジャイアントスパイダーの糸に魔力を通すからと練習をした後にすぐ第一投をしたはずだ。その時は意識して無かったが、確かにそのまま投げた気がする。

次の日、凝りもせずに釣りに向かうとやはり皆から中傷を受けるが何処吹く風と釣りを始めた。

今回は糸に魔力をしっかり通しながら投げて行く。すると何となくではあるが針先までの感覚が研ぎ澄まされて感じる気がする。

そして何投目か投げた時に微かな針先の反応を感じた…コレは来たなと。俺がタイミングをしっかり合わせると魚がヒットした。そのまま俺は魚を釣り上げると皆に見せびらかしながら、


「やっとコツが掴めた気がする。お前ら全員覚悟しとけよ」


皆には鼻で笑われたが、その後は爆釣モードに突入して大量に魚を釣り上げた。

コツを掴んだ俺はその次の日も爆釣になり皆を圧倒する勢いで釣りに釣りまくった。不思議なもので俺が釣りまくっていると他の奴らが釣れなくなる。


「どうした?自称釣り名人共が!我にひれ伏せ!フハハハ!!」


「クッソー……調子に乗りやがって…」


「今に見てろよ!!」


その日も圧倒的に釣り上げた俺は最後の方で大物を釣り上げて皆にトドメをさした。

こうして何とか釣りのリベンジを果たせた俺は意気揚々と大物を魚屋の兄ちゃんに持って行ったのだった。

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