36話.最後の一人

「一人だけで全部背負うでないわ。

 わらわたちは一蓮托生なのじゃ、すべてのものを一緒に背負う。

 そうあの時に誓いをしたはずじゃぞ?」


 フェリシアは真剣な表情で語っていたクラウスの頭を後ろから軽く叩いた。


「気持ちは嬉しいがの」


 そして、クラウスは腕に抱き着いたフェリシアを優しい眼差しで見ていた。


「そうだな、すべての喜びも罪もとがも……

 全てを二人で分け合って背負う、そう誓ったよな」


 ファルミナとメラゾフィスはそんな二人を優しく見守り、この二人についていこうとそう思い始めていた。


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ 


 しばらくして戻ってきたバルトの横には妖艶な女性が共にいた。


「まさかおぬしも一緒に来るとはのぅ。

 久しいな、ラースよ」


「これはこれはフェリさま、おひさしぶりです」


 絶世の美女、傾国の美女けいこくのびじょ

まさにそう表現するのがふさわしい美女がフェリシアに軽く会釈し、その隣にいるクラウスに声をかけた。


「おぬしがあの元英雄殿か」


「ほぉ、ラースさん? は俺のことを知っているんだな?」


「これでもあたしは裏から帝国を操っているのだから、王国に女神の御子みこが3人現れたことは当然把握しておる。

 そして、そのうちの一人である『英雄』が逃亡中…… という噂もね」


「割と詳しいな。

 まぁ神託はもらったが、俺たちが女神の御子かどうかはよくわからないぞ」

 

 ラースは品定めをするようにクラウスを見つめていたが、その視線はやがて誘惑するような妖艶なものへ変わっていた。


「そのくらいにしておけ。

 クラウスはわらわの伴侶じゃ、辞めぬというなら……

 ……消すぞ」


 フェリシアのものすごい殺気がラースに突き刺さる。

一瞬で場の空気が凍り付き、その場は一気に静まり返った。


「嫉妬してくれるのは嬉しいけど、そのくらいにしときな」


 クラウスがフェリシアを後ろから抱きしめると、フェリシアの殺気は一気に霧散むさんした。


「あの程度の魅了でどうにかなる俺じゃないのは、お前が一番よく知っているだろ?」


「そうじゃったな、すまんの」


 フェリシアは抱きしめるクラウスの手を取り、その手にそっと口づけをした。


「失礼しました、フェリさま。

 戯れたわむれが過ぎてしまいました。

 あたしの部下とバルトの部下、共にお話を聞く場を設けました。

 こちらです」


 フェリシア一行は、ラースに案内されて他の魔族たちが集まる場所へといく。

その後はいつものようにフェリシアからみんなへの謝罪と方針転換をしたことの報告、そしてクラウスの紹介をした。

いつもはここでひと悶着あるのだが、今回は誰一人として異議を申し立てるものはいなかった。


「別に絡まれるのを求めてるわけじゃないけど……

 今回はどうしたんだ??」


 クラウスが意外そうな表情で戸惑っていると、ラースが答えた。


「あたしたちの部下はあたしたちに完全服従しているの。

 あたしとバルトが認めていることを否定するような部下はいないわよ」


 それを聞いたファルミナとメラゾフィスは複雑そうな表情を浮かべた。


「悪かったわね、私のところはみんなの自由意志に任せているのよ……」


「我のところも命令には絶対ですが、命令が無い範囲は自由ですからね」


 二人が拗ね気味にそういうと、クラウスは優しい表情を浮かべながら言った。


「魔族って一括りにされてるけどさ、ほんといろんなやつらがいるよな?

 俺はお前たちと出会って、どんどん魔族っていうものに興味が湧いてるし、好きになってるぜ」


 クラウスにとっては何気ない一言であったが、フェリシアには何よりも嬉しい言葉であった。

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