23話.目的地

 二人はガイア砦の中を一切の妨害を受けることなく歩いていた。


「わかってはいたことだけど、ほんとに全員寝てるんだな?」


「わらわのことを信じておらぬのか?

 わらわにとって、こんな砦程度を眠らせるなど朝飯前じゃ」


 得意げな表情をしながら隣を歩くフェリシアの頭をクラウスは撫でた。

一瞬驚いた表情を浮かべたフェリシアであったが、その後満足そうな表情に変わった。


「これで帝国内に無事に入れたわけだけど、どこに向かうつもりなんだ?」


「そういえば言っておらなんだな。

 魔族は皆、帝国内の色々なところに隠れ里を作って暮らしておる。

 そこの一つに向かうつもりじゃ」


「ふぅ~ん、でもなんで魔族ってバラバラに隠れ住んでるんだ?」


「わらわが魔王となったときに決めたのじゃ、我ら魔族は人族と敵対する道をやめてみないかと。

 いい加減種族の違いというだけで争うことがバカらしく思えての。

 ……説得は大変じゃったがの」


 フェリシアは当時のことを思い出して苦笑いした。

敵対していたものを急にしなくするということは、当然簡単に受け入れられるわけはなかった。

しかし魔王の方針ということで大多数の魔族は従ったが、4人の魔族は異を唱え、『勝ったものの言うことを聞く』と言う決闘を申し込んだ。


「当然わらわが勝ったわけじゃがな。

 そして、その4人はそれぞれの隠れ里でおさをしておる」


「魔王に盾突くほどの気概のあるやつかぁ、楽しみだな!!」


「はぁ、おぬしはホントにお気楽でいいのぉ」


 呆れた様子のフェリシアはため息をついた。

クラウスは何故フェリシアが呆れているのかわからずにいると、フェリシアは甘えるようにクラウスの腕を抱き、話し始めた。


「わらわは力で屈服くっぷくさせて無理やり従わせたのじゃ。

 そのわらわが自分の考えが間違っておったと伝えにいくのじゃぞ?

 もめないわけがないじゃろ……」


「フェリシアは魔王には相応しくない、魔王の座をかけて決闘しろ……か?」


「おそらくそうなるじゃろうな。

 でも大丈夫じゃ、返り討ちにするだけじゃからな」


 満面の笑みでそう答えるフェリシアをクラウスはそっと抱きしめた。

そして、謝罪を口にした。


「人族と再び敵対する道を俺が選ばせちゃったのか……、すまない」


すると、フェリシアはクラウスの胸を軽くたたいた。


「いくらお前さまでもそれは図に乗りすぎじゃ。

 隠れ住むようになってからも続く人族からの横暴、その度に我慢をしてきたがさすがに限界だったというだけじゃ。

 おぬしと出会ったことは、きっかけの1つにすぎぬよ」


 フェリシアは頬を膨らませながら、そっぽを向いた。

クラウスにはこの言葉がフェリシアからの優しさなのだと感じていた、これから起こるであろうフェリシアと魔族との決闘について責任を背負わないでいいようにと。


「まったく、お前はホント優しい子だよ。

 でも忘れんなよ、俺はお前の隣にいつでもいるからな」


 無事にガイア砦を通過した二人は、フェリシアの記憶を頼りに一路いちろ南へと向かう。

フェリシアの記憶ではもっともこの砦に近い隠れ里がこちらにあるらしい。

そして、そのまま南へ半日ほど歩いた頃、視界には巨大な湖が映った。


「でっけーなぁ……、これは湖なのか??」


「王国と帝国の国境上に存在する世界最大の湖のアシリ湖。

 まさかここも知らないとはのぉ」


「2年前に故郷を出るまで、ほとんど外にでることはなかった。

 それに、なぜか村の外のことが話題にならなかったな」


「クラウスの話を聞いている限りじゃと、意図的に外の情報に触れさせないようにしてた気がするがの。

 純粋無垢な勇者さまとして世界を救ってほしい、人族が考えそうなことではあるの」


 故郷の村の村長や神父の顔を思い出したクラウスは、なんとも言えない表情を浮かべながらフェリシアの言葉を聞くのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る