17話.深夜の会談

 アイオンたちはアントニーが何故自分の出番であると言っているのかがわからなかった。


「どういう意味ですか?」


 ファウストの問いに答えたのはレムリアであった。


「さすがにそれは説明不足だよ。

 ファウストたちが混乱しているじゃないか」


 レムリアに指摘されたアントニーはバツの悪そうな表情を浮かべて頭をかいた。


「そこはワシから話そう。

 時間がないから二手に分かれて捜索したいが、3人では戦力に偏りがでるだろう。

 ならば、一人加えてしまえば問題ないであろうということじゃ」


「人数的には確かにそうなのかもしれないですが……」


「陛下……

 私から彼らに説明致します」


 レムリアは順序だてて説明を始めた。

まず、前勇者の残した文献が本物であった場合、世界の崩壊までは10年程度しかないこと。

そして、その間に調査と対策をしなければならないので、時間があまりに少ないこと。

対策に時間が必要となることは容易に想像できるため、調査に使える時間は2年程度が限界であろうこと。

王国内に点在する古代遺跡の数などから考えると調査隊は2つ以上必要であること。

文明の崩壊の調査が目的であることが明るみにでると混乱を生むため、極秘に進める必要があること。


「君らに1人を加えた4人を2組に分けること。

 その1人に我らの全幅の信頼がおける、我が騎士団副団長のアントニーを指名するという判断になったのだ」


「レムリア様、ご説明ありがとうございます。

 そうなると……

 俺とファウスト、クラウスとアントニー様の組み合わせがいいかもしれないですね」


 アイオンがクラウスたちの顔を見回すと、2人は無言で頷いた。

そしてクラウスが立ち上がり、アントニーの前まで歩み寄って手を差し出した。


「アントニーさん、よろしくです」


「こちらこそよろしくね、クラウス君」


アントニーはその手を掴むと、笑顔で応えた。


「じゃあ、俺たち4人が2組に分かれて調査をするのはいいとして……

 実際には、何をどんな感じで調査をするのですか?」


クラウスが調査の方法を質問すると、レムリアが答えた。


「古代遺跡の大半はなぜか王国内の東の端と西の端に多く存在している。

 1組はまず王都より北に向かって北側の遺跡を全部調査したのちに東側の遺跡を。

 もう1組は逆に王都より南に向かってから西側の遺跡を、という形でどうかな。」


「ルートは俺もそれでいいと思います。

 ただ調査って実際には何をすればいいのですか?」


「恥ずかしい話でもあるのじゃが、ワシらは点在している遺跡がどんな目的で作られたものなのかすらわかっていないのじゃ。

 今言えることは、1つ1つを見て回って気になる個所を探したり、石板や石碑などに書かれている内容を記録してくるなどになるじゃろうな」


「大変な調査の割には効果があるかは微妙そうですね……」


「失礼だぞ、クラウス!!!

 申し訳ありませんルイン陛下、こいつのご無礼をお許しください」


アイオンが慌ててクラウスの頭を下げさせようとしていると、ルイン王は笑い始めた。


「よいよい。

 アイオンもそんなに畏まるかしこまる必要はない、今夜は非公式の会談じゃ

 言葉使いなど気にせずに無礼講と思ってくれればよい」


「あ、ありがとうございます」


「それにおぬしらは、ユグドラシル様の御使いみつかいなのじゃ。

 ワシらに遠慮などいらぬよ、非公式の場ではな」


​ 公式の場では周囲の目もあるから言葉遣いを配慮するように付け加え、ルイン王は3人に笑顔で応じた。

 その後6人は、王国の地図を広げて双方がどのようなルートで調査をするのかを話し合った。

話し合いは比較的にスムーズに進んだが、対象の遺跡の数の多さからおおよそのルートが決まるころには日が昇り始めていた。


「では、明日より3日間で旅の準備を行い、4日後に出発ということにしましょう」


「そして2年後にこの王都に集合だな」


アイオンとクラウスの固い握手で、この会談は終わるのであった。

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