10話.囮のファウスト

「なんで王都を探索するだけで喧嘩になるのかなぁ???」


 王都探索を終えて宿に戻った3人は不思議な光景を繰り広げていた。

腕組みして仁王立ちするファウストの前で正座をするアイオンとクラウス。


「ファウ…スト…… そんなに… 怒らなくても……」


「アイオン? どうしたのかな?? 

 夜の作戦開始まではあまり目立たないほうがいいはずなのに、街中で喧嘩を始めた人は…… 誰かな?」


「ファウストさん? 目が…笑ってないのですけど……」


怯えた声でクラウスがそうつぶやいたが、それを聞き流したファウストのお説教は夜になるまで続いた。


「まったく君たちは、いつもいつも……」


「ファ、ファウスト……、ほんとにすまなかったよ。

 もう夜にもなってしまったようだし、今回はこれくらいで許してもらえないか……」


「もぉ、今回だけだからね!

 それじゃあ、今から食事にして……

 そのあとに作戦開始ってことで!」


 ファウストのお許しがもらえた二人は安堵の表情を浮かべ、そのまま3人で宿に併設されている食堂で夕食を食べ始めた。

最初こそグッタリとしていたアイオンとクラウスであったが、すぐにいつも通りの仲良しの3人に戻り、談笑の絶えない楽しい時間となった。

そして夜が深まった頃ファウストは静かに席を立った。


「じゃあ、ボクはそろそろ行ってくるよ!

 アイオンたちはゆっくり食事を楽しんでいてね!」


そう言い残して外に出かけるファウストを2人はただ静かに見送った。


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ 


「このまま人気の少ない道を歩いていればいいよね。

 確かここを曲がった先が……

 おっ、あったあった!」


 ファウストは昼間の王都探索で見つけていた小道へと入る。

そこは街灯となるものもほとんど存在せずに夜になると数メートル先がかろうじて見えるかどうかというほど薄暗い道となっていた。


御誂え向きおあつらえむきな道だね、ここならうまくいくはず」


ファウストは俯きうつむきがちになりながら、ゆっくりとした足取りでさらに奥へと歩いて行った。

しばらくすると、後ろから急接近する殺気に気が付いた。

ファウストが身体を少し右へ移動すると、先ほどまで身体があった場所をナイフが通過していた。

そして、そのまま目の前に伸ばしている相手の腕を捕まえると、逆関節を極めて拘束した。


「さっそく確保っと♪」


「お前! 何者だよ!!!」


「それはボクが聴きたいことだね!

 それにちょっとうるさいよ?」


ファウストはたくさんの茨を出現させて相手の体を拘束する魔術【拘束魔術:ソーンバインド】を使って犯人の身体を拘束した。

さらに、ファウストは手元に出現させた聖杖せいじょうケルビムで相手の顎を打ち砕いた。

拘束された上に、顎を砕かれた犯人は身動きもできずにただその場でうめき声を漏らすのみであった。

そして、うめき声を漏らすことしかできなくなった男に対してファウストは優しい口調で言った。


「これからキミに聞きたいことがあるんだけど、このままだとしゃべれないから、顎は治してあげるね。

 ただし、叫ばないように! また顎を砕かれたくはないよね??」


ファウストが聖杖せいじょうケルビムを犯人の顎にそっと触れると、何事もなかったかのように顎は治っていた。


「!??

 えっ、あっ???

 て、てめぇ……」


自分の置かれている状況に困惑していた犯人が大声を上げ始めた時、鈍い打撃音がその場に響いた。


「言ったよね? 叫ぶと砕くって」


こうして、ファウストによる尋問が暗い暗い路地裏で行われた。

そして1時間ほどした頃、ファウストはアイオンたちがいる食堂に帰ってきた。


「ファウスト、早かったな。

 やはりそう簡単には見つけられなかったか……」


「いや、ちゃんと見つけたし、ほしい情報も聞き出せたよ」


「……その相手は今どこに?」


「路地裏で襲ってきたんだけど、その場で手足を縛って、眠らせておいたよ。

 きっと明日の朝まで起きないんじゃないかな??」


目の前にいるファウストは笑顔だったが、その目が笑っていないことに気づいた。

アイオンたちは数時間前の光景を思い出し、それ以上のことを聞くのをやめた。

そして、本題である犯人から聞き出した情報を聞くために宿の部屋に戻った3人。

一息ついたファウストは真面目な顔でゆっくりと話し始めた。


「この事件は思ったより厄介かもしれないね。

 捕まえた犯人はあくまで実行役で、背後には貴族さまがいるみたいだよ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る