第21話 求愛行動…後半イザークサイド3

 その夜、私はメイド三人娘にこれでもかと風呂場で擦られ、揉まれ、肌にはりをだす無香料のオイルを塗り込まれ、うっすい下着のようなネグリジェを着せられてイザークの寝室に放り込まれた。


 今までイザークに夜這いをするだとか、愛人になりたいとか言っていたエルザやミラだったけれど、私がイザークの「番」だと認識した途端態度が一変した。「番」がいる相手は対象外、それがこの世界の常識らしい。例えば「番」が見つからずに結婚して子供がいても、その後「番」が見つかったら離婚するのが当たり前らしい。

 それくらい「番」は絶対ということだ。

 そして、イザークの「番」なんだから……。


 ヤッてこいと……。


 オブラートにも包まず、ガチでオラオラ感出して「番なら四の五の言わずに抱かれてこい!」と、Tバックのようなパンティ一枚に、スッケスケ(かろうじて刺繍でオッパイと下腹部は隠れている)のネグリジェを着せられた。後ろ姿は……、モロ出しですね。お尻の割れ目までくっきりですよ。

 で、この格好でうろつく訳にもいかないので、イザークの寝室から抜け出すこともできず、とりあえずベッドのシーツにくるまった。


「こういうのはさぁ、ボン•キュッ•ボンな人が着るからいいんだよね。……私じゃねぇ」


 自虐じゃないよ、真実だよ。悲しいことに。


 細い棒切れみたいな身体は、少年のふりしていても誰も違和感を感じないくらい凹凸がない。こんな身体で果たしてイザークは興奮するのか? 

 真実「番」なのかもしれないけど、私じゃアレがナニしない(お察しください)から今まで清い関係でいられたのかもしれないじゃん。

 まぁ、無理って言われたらガウン借りて退散しましょう。


 そんなことをツラツラ考えている間に、私はイザークのベッドで爆睡してしまっていた。


 ★★★


 騎士団練習場である程度身体と魔力を酷使したイザークは、程よい疲労に今日こそは眠れるんじゃないかと深夜遅くに屋敷に帰宅した。ゲオルグに上着を渡し、重い足取りで階段を上がる。二階のシォリンの部屋にしている客間に目をやり、深いため息を吐いた。

 顔が見たい。匂いが嗅ぎたい。その身体を抱きしめて……。

 今朝……もうすでに昨日だけれど、シォリンの匂いを堪能し、本能に抗えずに首筋を舐め回してしまったせいか、どうにも体の熱がおさまらない。


 欲求に負けないように、イザークはこれでもかと鍛錬して身体を極限まで疲労させてきた。付き合わされた団員こそが災難であるが、そのおかげで騎士団全体の戦力の底上げにも繋がっていた。

 ただどれだけやってもイザークの限界には程遠く、これ以上鍛錬したら団員達と練習場が壊れると団長からストップがかかり、しょうがなく帰宅してきたのだ。


 シォリンの部屋の前まできて扉に手をかける。


 ちょっと顔を見るだけ。


 毎回そう思いながら、起きないシォリンの額に頬に唇を落としてしまうのであるが、今日の自分が果たしてそれで止まれるのかと不安になる。


 イザークは扉から手を離し、階段の方へ取って返した。三階の私室を開け、まずは埃と汗を流そうとシャワーを浴びた。素肌にガウンをまとい、頭を拭くのも適当に寝室へ向かう。


 そこでイザークは固まった。


 寝室は真っ暗だったが、夜目の効くイザークにははっきりと寝室の様子が見てとれた。

 ベッドの上にうつぶせに寝る物体が……。顔は見えないが、その黒髪と身体つきからシォリンとわかる。問題は、肩甲骨が浮いた背中と丸いヒップ、少し大胆に開かれたスラリと細い足が丸見えだということ。寝間着……というにはスケスケな衣類を身にまとってはいるものの、スッケスケなんである、スッケスケ。腰にレースの紐みたいなのが見えるから、多分下着は身につけているんだろうが、ヒップを覆う布は見られない。上は……紐すらない。そんな状態のシォリンを覆うのはスッケスケのネグリジェ。


 イザークの頭の中には「スッケスケ」という文字がグルグル回っていた。そして、目をそらすこともできずにただ固まって動けずにいた。


「……ぅーん」


 シォリンは僅かに唸ると、ゴロリと仰向けになった。仰向けだ!

 布団をかける、目をそらすという選択肢はない。瞬きすらせずにガン見する。

 微かになだらかな曲線を描く胸、後ろはスッケスケだったのに、邪魔な刺繍のせいで胸の頂は見えない。同じく腰の辺りにも刺繍があり、なんとなく透けて黒い和毛が見えるような見えないような。ネグリジェの下につけているらしい小さな下着のせいでさらに見えづらい。


 イザークはよく見ようとベッドの横に移動していた。というか、足が一歩動くようになると、引き寄せられるようにベッド足が向かっていた。


 触れたい、舐めたい、自分の匂いをつけたい。「番」の本能が暴れまくるのをグッと抑え付けるように後ろ手で腕を組み、爪が腕に食い込むのも気にせず、とにかく視姦する。

 そのあまりなイザークの眼力のせいか、いつもなら寝たら起きないシォリンが、僅かに眉を動かしてうっすらと目を開いた。

 ポヤンとした目つきはまだ半分夢の中なのかもしれない。シォリンはユルユルと微笑むと、イザークに向かって両手を広げて突き出した。


「イザーク……お帰りなさい」

「ただいま、シォリン」


 その手を無視するという選択肢はイザークにはなかった。引かれるままにシォリンの腕の中におさまる。今朝味わったシォリンの首筋が目の前にあり、自分の匂いがかなり薄れてしまったことが堪らなく嫌だった。


「匂い、薄くなったな。また付けたい。付けていい?」

「また、舐めるの?」


 できれば身体の中から……まぁ、アレがアレして本当の「番」としての匂い付けを(子作り的なナニソレ)したいけれど、まだしっかりと「番」としての認識の薄い(ないと言い切るのは悲しすぎるから)シォリンに無理は言えない。

 いや、このネグリジェを着てイザークのベッドで寝ていたという時点で、もしや……どういうことだ? 

 イザークの頭の中はずっとパニック状態で、正しい答えなど導き出せない。


「……とりあえず?」

「とりあえず……舐めたいの?」

「舐めたい!」


 正しい答えは導き出せないが、欲望には正直だ。ここでシォリンが「セックスしたいの?」と聞けば、即座に「YES」と答えたことだろう。


「しょうがないな。でも、けっこうくすぐったいんだよ。ちょっとにしてね」


 はいどうぞとばかりに髪の毛をかき上げて首筋をさらされ、イザークの頭はパニックを通り越してサンバカーニバル状態だ。


 もちろん舐める!

 舐めながら甘噛みし、さらに舐め上げる。シォリンの可愛らしい小さな耳もついでに舐める。


「ちょっ……ゥアッ……ン"ン"」


 イザークの理性が吹き飛び、獣性の求愛行動に突入してしまう。獣性の求愛行動、それは耳や尻尾への接触だ。まず耳辺りの匂いを嗅ぎ、お互いのフェロモンを確かめる。耳への愛撫はより濃いフェロモンを出させる為に行う。お互いにその気になると尻尾をからめたり撫で擦ったりし、それがいわゆるOKサインとなる。


 今朝は、シォリンはイザークの耳を擦ってくれた。つまりは、獣性の求愛行動的には第一段階はクリアしてくれたのだ。シォリンに尻尾がないから尻尾のある辺りを探り、最終的な求愛を示した訳だが、残念なことにシォリンがイザークの尻尾を触ることはなかった。その前に、ゲオルグに蹴り出されたからだ。


 今度こそは!と、イザークはシォリンの尻に手を伸ばした。

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