第42話 週休5日宣言

「おかえりこころ」


私が全ての用を終え帰宅したのは朝5時だった。

そんな私をレイさんはリビングのソファーに寝転びながら出迎えてくれた。


こういった一見だらしない姿も

なんでもない日常の1コマとして私にとっては大切なピースだ。

安心する。


「あら、待っててくれたの?」

「ああ、心配でな。」


「心配なんてしてないでしょうに。」

「もちろんこころにじゃなくて、主に相手の心配だな。やり過ぎたんじゃないかってな。」


「確かにやり過ぎてないとは言い切れないわね。」

「ま、ギリだったかな。」


「だってレイさんも見てたからわかるでしょう、すんごいムカついたんだから。あれでも我慢して抑えた私を、褒めて褒めて褒め讃えてくれてもいいぐらいだと思わない?」

「確かに、オレならあまりにもムカついて瞬殺してたな。」


「でしょう、刺青男2人はとことん腐っていたもの。魂も擦り切れてピンポン球ぐらいだったし。次の流れには乗れないわね。だったら現世で出来るだけ苦しませた方が魂にとっても良い事でしょう?」

「あの二人がこの先、幸薄い人生を送る事はは決定だしな。」


「それでもまた同じ過ちを犯すようなら今度は…もっと痛めつけるしかないかな。」

「また同じ事を繰り返すようならもう人じゃなくて畜生だしな。」


私は冷蔵庫から出したコーヒー飲料をカップに注ぎレイ君の分もテーブルに置く。


「サンキュ。翔太はあれで良かったのか?」

「まあ良かったんじゃないかな。私が買い物で街に出た時に憎悪の気配を感じるなと思ったら、私の後を着いてくるんだもん。誰だろうと思ったら元同級生でどうして恨んでるか知りたかったし。処理するなら早い方がいいだろうって思って、わざわざ夜中に繁華街からずれた路地を通ったりして面倒くさかったわ。まあ狙われてるのはわかっていたから簡単だったけどね。」


「まんまんとだな。」

「自分が…自分達だけが捕食者だと驕りが生んだ結果ね。これまでの行いの積み重ねだろうけど、翔太はまあ本当にギリギリでセーフって事で魂を救ったけど、冷静に考えると私が振ったという負い目があるかもしれないわね。」


「ふーん、まあオレはどっちでもいいけどな。おっもうこんな時間になっちまったな、今日はそのまま休んでていいぞ。」

「はーい、じゃあお言葉に甘えて。ゆずるには休むって伝えといてくれる。」


レイさんは返事をせず手を上げて帰っていった。

はー長い1日だった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「あ、こころ大丈夫?昨日は体調すぐれなかったみたいだけど。」

「不潔よゆずる!略してふけずる。女の子にそんな事を聞くもんじゃないわ。」


「えっそんなつもりは…ただ隣に住んでるんだから困った時は僕を頼ってくれよって言いたかっただけだよ。あと略すのはやめれ!」

「気を使ってくれてありがとう。あと生理ではないわ。」


「え〜〜じゃあ、ふけずるは何だったの、言われ損じゃん!」

「損ではないでしょ、こんな美少女に言われたんだもの。」


「少女に罵られて喜ぶ性癖はございませんが。」

「美がぬけてるわよ美が、私の苗字が。」


「美少女こころっていう名前?南こころじゃなかったけ?ペンネームだったらダサいぞ。」

「苗字だからしかたなく自分の事を美少女と言わされているという設定です。」


「斬新!」

「ところで昨日は何ごともなかった?私がいなかったけど1人でちゃんと出来た?」


「子供か!お前の子どもという5歳児設定か!僕のほうが先輩なんですけど〜〜。」

「仕事に上下関係なんて必要ないわ!」


「いや、絶対いるだろう。」

「あるのは人として上か下かだけだわ。」


「そっちの方があっちゃ駄目だろう。思っていても言っちゃあ駄目なやつ!」

「ゆずるは私の下ね。10段階下。」


「喜んでいいのか分からないけど、いったい何段階あるんだよ。」

「10段階。」


「一番底辺じゃねーか!認めん!絶対認めんぞお父さんは!。」

「自分の事を認める事が成長への第一歩よ。」


「わかった認める、認めるよ。認めたら進めるんだろ。」

「甘えないで!認めても底辺よ!」


「認める作業いらないんじゃ…」

「自分の事を認める事が成長への第一歩よ。」


「延々とループ!そんな事より体調は大丈夫なの?」

「ええ、大丈夫よ。体調がすぐれなくても1週間の内2日頑張ればいいんだもの」


「まさかの週休5日宣言!正社員なのに!」

「えっゆずる知らなかったの?」


「衝撃の週2日勤務!正社員なのに!」

「なにせ美少女こころですから、私は。」


「その設定関係なくない?僕なんて週休1日だよ!」

「ゆずる…その…何て言うか、言いにくい事なんだけど…。」


「こころに言いにくい事なんてないでしょ、散々僕のハートをえぐっておいて。」

「それこそ人間の格の違いなのよ、悲しい事に。」


「こころは高収入低勤務、僕は低収入(こころに比べてだけど)ほぼ皆勤賞。」

「わかってくれたなら幸いです。」


「納得は出来ないけど了解です。」

(いや、こころは店に出ないだけで他の仕事も手伝ってもらってるからな。)

レイ君が僕に念波でツッコンできた。


「えっそうだったの?こころも言ってくれれば、変な勘違いしなかったのに。てっきりレイ君と愛人契約してるのかな~~って変に勘ぐっちゃったじゃないか。」

「キュピス」


ジュンーーーーー



「うわ、危な!いきなり魔法打つなし!服に穴空いてるし!」

「不潔よゆずる!略してふけずる。女の子にそんな事を言うもんじゃないわ。」


「冒頭に戻る。」


こういったゆずるとのばかばかしい会話も

私の魂の安らぎの為にはとても必要な時間だ。


なんでもない日常の1コマがあるからこそ頑張れる。

こんな日がこれからも1日でも長く続いたらいいのにと思う。


「じゃあこころ、とりあえず僕と愛人契約を結んでみようか?どうでゲスか?」

ぐへへへへとゲスい顔をして近づくゆずる。


「……ゆずるのそういうところ好きよ。」

私の魔法でゆずるのお腹に風穴を開けたった。

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