第12話 復讐日和

「お代はお先にいただいていますんで。」

「は?何言ってんだお前…」


ぐしゃああああ。

「ぐぎゃっ」


少年はいきなり缶ビールを俺の顔に投げつけた。

慌てて缶を避けると、避けたと同時に視界が真っ白に弾けた。

何が起きたかわからない。目の前がクラクラする。

どうやら顔を殴られたようだ。鼻血がでている。


「な何だ、お前はいきなり。頭おかしいのか!」

俺はまだクラクラする頭を押さえて目の前の少年を睨む。


「頭がおかしい?ふん、頭がおかしいのはお前の方だろう。」

「ん?」

少年はどこから取り出した大きめの手鏡を差し出して覗けという。


「これが何だっていうんだ…」


ベリッキョパアアアアア

「ぎゃあああううううういいいいったああい」

粉々に砕かれた鏡の破片が俺の顔、頭に突き刺さって血が吹き出る。


「ほらな、頭がおかしいのはお前だろう?」

ニヤッと笑う顔を見て背筋が凍る。

こいつはヤバイ奴だ。

何か得体のしれないヤヴァイ感じがビンビンと俺に警鐘を鳴らす。


「ヒッヒイイイイ、た、助けてくれ〜〜〜」

俺は慌てて大声を出して公園の外に向かって走り出した。


だが、公園の外には出れななかった。

目の前には何もないのに、壁が公園と外を隔てているいるかのように外出る事が出来ない。大声で叫んでも誰もくる気配がしない。

いや、そもそも人の気配がしない。なぜだ。


「ほらほら、逃げないのか?」

少年はゆっくり俺に近づいてくる。

パニックになりながらも俺は走り出す。


公園のすべての門に辿り着くも逃げ出せず、門以外の柵をよじ登ろうにも

透明な壁が邪魔をする。


「ど、どういう事だ。どうして…」

「気がすんだか? お前はこの公園から逃げられねーんだよ。」

少年が俺の真後ろに立って声をかけてくる。


「坂東 敦(29歳) 黒星7か。まあ見る前から分かってはいたけどクソだな。」

「なんだよ、黒星とか、訳のわからない事を言っていきなり殴ってくるお前のほうがクソじゃないかよ」

ガクガク足が震えながら、なんとか正気を保とうと大声を出して虚勢を張る。


「ふん、無抵抗の者には傍若無人に振る舞うくせに、強者には弱者の振りをする。

まさしく家畜以下の存在だな貴様は。」


空中が光った思ったら、少年はどこから取り出したのかその手には剣が握られてた。

西洋の剣みたいな、ショートソードといわれる1m未満の剣のようだ。


俺は混乱して何が何だか分からずにただ少年の動作を見て立ち尽くす。


「おい、腕が切り下ろされたぞ、早くくっつけないと離れたままになるぞ。」

「えっ」

視線を下に向けると、地面に腕が転がっている。

よく見ると俺の左腕がない。肘から下が地面に転がっていた。

嘘だろうずっと少年を見ていたのに振り下ろす動作すらみえなかったぞ。

あれ、おかしい。俺の腕が無いのに全く痛く…


「ぎぎゃあああああ、いっったいいいいいいいい」

意識した途端に血が噴き出し、激痛が襲ってくる。

無いはずの肘から下が熱い熱い痛い熱い。

痛すぎて何も考えれない。


「おい、早くくっつけろよって言っただろう。」

少年が切断された腕を拾い、俺の切断面と合わせるとなぜか繋がり、

今までの事は夢だったかのように血も止まり痛みも無くなった。


「はっはっ、俺は悪い夢でも見てるのか」

何がなんだかわからなくなってきた。ずっと混乱しっぱなしだ。


「おい、何してんだよ。今度は足を切り落としたぞ。早くくっつけろよ。」

今度は俺の右足が転がってる。

気づいたら真っ直ぐ立っていられなくなり地面に顔からつっぷす。


「ぎひいいいひひひひいいい、いいいいたたたたたいいい〜〜〜」

俺は急いで右足を拾いくっつけると、繋がった。


「そうだ、それでいいぞ。じゃあ次は右手を切るぞ。」

スパっ


「それ、左手だ」

スパッ


「あああああああああ、ごれじゃああああ、拾えないいいいいいい。」

俺は投げ出され転がっている右手を地面に這いつくばってなんとかくっつけれた。

左手をくっつけるまで少年は待っていてくれた。


「何で、なんでこんなひどい事するんですか〜、やめて、やめでぐだざいいい」

俺はおしっこを漏らしたズボンもそのままに地面にへたりこんだ。

鼻水と涙とよだれでぐしゃぐしゃになったままの顔を上げ少年に懇願した。


「強者の特権なんだろう?」

「えっ?」


少年は俺の髪の毛を鷲掴みにして立ち上がらせる。

「弱者をいたぶるの強者の特権なんだろう?お前が言ってた事じゃないのか?」

「いっいっでません、おで、そんなこといっでません。」


「お前は犬や猫と一緒なんだよ。」

ぶちぶちと髪の毛がちぎれる音がして、俺は投げ飛ばされた。


「生殺与奪は飼い主が握っている。だったか?」

少年が地面に投げ出された俺に近づいてくる。


「何でも人のせいにして自分と向き合わない人間は必ず“自分は不運なだけだ”で片付けようとする。」

少年が俺の顔を足で踏みつける。


「だからお前も、せいぜい“自分は不運なだけだった”と思い込んでいればいいさ。」

踏みつけた足を上げたと思ったら…



俺は首を切り落とされた。



なぜかその一撃だけはスローモーションを見ているかのようにゆっくりと再生された。

近づいてくる刃も、徐々に首に食い込んでくる感触も、痛みも、

切り落とされるまでのすべてをスローモーションで。



“よかった。”



俺は安堵した。

これでやっと痛みや恐怖から逃れれる。















「死なせね〜よ。」

少年が目の前に居た。


「なぜだ、殺されたんじゃあなかったのか。」

「そんな簡単にお前は死なせない。自分の子どもを散々虐待し、所有物のように扱った貴様のような汚れた魂を持つ者たちにはそれ相応の報いを受けて苦しんでもらわないとな。」


少年の不思議な力に押しつぶされる。

身体中から聞いたことのない音が聞こえてくる。

メキョ、グキョ、メチャアアアアアアア。


「お前は苦しんで苦しんでもがいて二度と浮かんでくるな。」


少年の言葉が最後、俺の意識は消え去った。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


僕は投影された壁に映る復讐するレイ君を見ていた。

その全てを僕は目をそらさずに見ていた。


フェイに指示して結界を解いたレイ君は空を見上げて満月を眺めていた。


「魂の浄化…リバースデイを実行する時期が近い…か。」

と最後につぶやいて映像が切れた。


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