第17話





 昨日、女の人を見かけたのが通学路だったため、心配した涼と悠斗が一緒に帰ってくれることになった。


「そういえば、時音、バッジはどうしたの?」

「ああ。落としちゃったみたいなの」


 あたしは寂しい襟元を見てため息を吐いた。


「気をつけなよ。拾ってグロウスの生徒の振りする子どもがいるかもしれないし」


 悠斗が言う。


「一応、子ども達のあこがれの学校だから……っと、ちょっと待って」


 足を止めた悠斗がポケットから携帯を取り出した。


「もしもし、兄さん?うん。今帰るとこ……え?」


 修司さんからの電話だったらしい。何を聞いたのか、悠斗がさっと顔色を変えた。


「マリアさんが?」



 ***



 今朝、三丁目の神社の石階段の下で、倒れているマリアさんが発見された。

 病院に運ばれたが、まだ目を覚ましていない。


 そう聞かされたあたし達は、修司さんのいる病院へ飛んでいった。


「修司さん!」

「ああ、悪いな。わざわざ来てもらって」


 ロビーであたし達を待っていた修司さんは、真剣な表情であたしを見た。


「昨日、時音の話を聞いてから水川の様子がおかしくなっただろう。だから、時音にも何か気づいたことがないか聞きたかったんだ」


 修司さんに案内されてマリアさんの病室に入ると、彼女はベッドに横たわって目を閉じていた。階段から落ちたのか、顔には大きなガーゼが貼られていて痛々しい。


「やはり、時音が見た女は水川の知り合いだったのか。会いに行ってこんなことになったのかもしれない」

「僕らも時音から聞いたけれど……その犯人の女がマリアさんを恨んでいたとして、どうして何の関係もない女の子を川に突き落としてるの?」


 修司さんに、悠斗がたずねた。


「それはわからない。水川が目覚めるのを待って、話を聞くしか……」


 修司さんは難しい顔をしていた。

 あたしはマリアさんに駆け寄って、力を失っている手を握った。

 おそらく、マリアさんはあたしの話を聞いて、犯人が誰かわかったのだ。それで、彼女に自首してほしくて一人で会いに行ったに違いない。

 修司さんもそう思っているのだろう。相棒が自分に何も言わずに危ない行動をとったことで複雑な気持ちでいるに違いない。


 あたしは助けてもらえて無事にすんだけれど、もしもあたしに何かあったら、涼や悠斗は今の修司さんと同じような思いをしたのかもしれない。


「……犯人が「人魚姫」「みんなだまされている」「本当は私の能力」と口にしたと説明した後で、マリアさんの様子はおかしくなったのよね」


 あたしが修司さんをみつめると、彼は黙ってうなずいた。


「だまされてる……ってことは、「人魚姫」がみんなをだましているって言いたいのか?」

「じゃあ、「本当は私の能力」っていうのは、マリアさんの能力は本当は自分のものだってこと?」


 涼と悠斗もわけがわからないといった顔でつぶやいた。


「ああ。わからないな。マリアさんを恨むのと小さな女の子を川に突き落とすのとどんな関係があるんだよ?」


 悠斗が前髪をかき上げて額を押さえてぼやいた。


(マリアさん……女の子を川に……川?)


 あたしは何かを思い出せそうな気がして、マリアさんの顔をじっと見た。


(そうだ。マリアさんは、川に落ちたのがきっかけで能力に目覚めたって言っていた!)


 十歳の時に川に落ちて、能力に目覚めてグロウスへ入ったけれど、周りの子ども達からやっかまれた。

 マリアさんは確かにそう言っていた。

 もしかして、その子ども達の中に犯人がいるんじゃあ?


「修司さん!」


 あたしが考えたことを伝えると、修司さんは「調べてみる」と約束してくれた。


「動機は、超常能力に目覚めた元同級生への嫉妬か?」

「でも、それだとやっぱり、関係ない女の子を川に落とす理由がわからない」


 涼は首を傾げ、悠斗は納得いかないように眉を曇らせた。

 あたしはまだ何か思い出せそうな気がして、頭を悩ませた。


「すまない。そろそろ帰らないと親御さんが心配するだろう。家に送るから」


 修司さんが腕時計を見てそう言った。


「兄さんは、何か心当たりがないの?」

「ああ。水川はあまり自分のことを話さない奴だから。俺は何も……」


 修司さんと悠斗の会話を聞いた時、あたしはハッとひらめいた。


「きょうだい!」

「「は?」」

「マリアさん、お姉さんがいるって言ってた!」


 あたしの言葉に、修司さんは目を瞬いた。




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