サクリファイス‼︎ヒーラーが白いのはローブだけ。盾持ちヒーラーが今日も火力ごり押しPTで踏ん張ります‼︎

胡桃もなか

プロローグ『夢が現実か頬をつねって確かめてみたらまさかの異世界転生でした』


 真っ白。どこまでも広がる空虚な世界。


「あ、あの」


 自分の声がくぐもって聞こえる。まるで水の中にいるような耳閉感だ。


「だれか」


 終わりのない白い世界。その異様さに恐怖と不安が込み上げてくる。


「誰か、いませんか」


 声が震える。乾いた唇は何度舐めてもすぐに乾いてしまい、ほんの少し鉄の味がする。


「え、な……」


 血の気が引くような気持ち悪さをおぼえ、震える膝を抱えてしゃがみ込んだ。


「だ、誰か」


 溢れ出して止まらない焦燥感。


「た……て」


 心臓が口から出てきてしまいそうだ。


「だ、誰でもいいから助けてって言ってるでしょ!」


 自棄になってそう叫ぶと、突然周りが騒ついていることに気づいた。顔を上げてみれば周りには何人かの人が足を止めて私を見ている。


「あ、えっと、その……」


 言い訳を考えていると一人の青年が歩み寄ってきた。


「大丈夫? 立てる?」


「あ、大丈夫です。……すみません」


 差し出された手を取るのも恥ずかしく慌てて立ち上がり頬を抓る。そんな私を不思議そうに、困惑したような目で見ている彼に慌てて説明する。


「あ、いや、夢かな? なんて思って。すみません、もう大丈夫です」


 早く一人になりたい、そんな願いを込めて距離を取ると彼はふふっと手を口に当てて笑った。


「どう? 痛かった?」


「……痛かったです、けど」


 彼は笑ってはいけない、しかし込み上げてくる笑いを堪えきれないとでも言わんばかりに手で口元を隠している。


「僕もやったよ」


「え?」


「こうやって」


 彼は笑いながら自分の頬を掴んで引っ張った。


「それって」


 気になる答えを知りたくて身を乗り出せば、彼は口の前に人差し指を立ててにっこり微笑んだ。


「僕はまる。君は?」


「……あみ」


「よろしくね、アミ。続きは場所を変えて話そうか」


「こちらこそ。よ、よろしく」


 差し出された右手を控えめに握り返す。


「こっちだよ。ここは人が多くて迷いやすいから気をつけて」


 そのまましっかり手を握り直したまるが私の手を引いて歩き出す。

 気が動転していて気づかなかったが石造のカラフルな建物の前にはいくつかの露天が並んでいて商店街のように賑わっていた。


「異国の地、って感じだよね。僕も最初は歩くだけで楽しくて色々探索して歩いたよ」


 確かに。まるで絵本の中を歩いているみたい。そこから少し歩くと噴水広場があり、その奥には住宅地が広がっていた。そこを見ている私にまるが少し残念そうに口を開く。


「住宅地は大きなギルド限定。僕たちはこっち」


 そう言って再び歩きだす。橋を渡ったその先に『木兎』と看板の建てられた面長な建物があった。

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