七 レールガン攻撃とスキップ攻撃

 PDが伝えた。

『本艦ISS-BS1がフェルミ艦隊が着陸したクレーターの真上を通過します。

 フェルミ艦隊は本艦を認識していません。

 フェルミ艦隊から見かけの地平線までの距離 637.5㎞。

 ISS-BS1のフェルミ艦隊3D映像探査可能時間 207.66秒。

 その後。ISS-BS1は月の地平線の彼方に消え、フェルミ艦隊を3D映像探査不能になります。

 4D映像探査(素粒子信号時空間転移伝播探査)は可能です』


 コントロールデッキの空間に、月に着陸しているフェルミ艦隊の4D探査映像が現れた。フェルミ艦隊は位相反転シールドを張っているだけだ。


『さて、皆の疑問が解けたから、フェルミ艦隊に気づかれぬうちに、フェルミ艦隊をレールガンで総攻撃する。

 PD。ボーマン艦長。攻撃態勢に移れ!』


『すでに全クルーが攻撃態勢です』

 クルーは攻撃態勢のままコントロールポッド内で食事と休息していただけだった。

 ボーマン艦長からの応答と同時に、コントロールデッキに、艦内各兵器と担当各部署のコントロールポッド内3D映像の状況表示アイコンが現れた。


 レプリカの〈ザルド〉を攻撃壊滅して以来、ISS-BS1は攻撃態勢を維持して、状況表示アイコンは戦闘態勢の黄色表示から攻撃態勢の赤色表示に変ったままだ。

 レプリカの〈ザルド〉やフェルミ艦隊からの反撃に備えて、ISS-BS1のレールガンには、メテオライト(隕石)に偽装した10㎏のチタン合金弾が装填されているが、レプリカの〈ザルド〉を攻撃壊滅後、反撃はなかった。いつでも、レールガンは高速運動量弾を発射できる。


『レールガンの高速運動量弾発射は、ISS-BS1が地平線に隠れる、0.5秒前だ。

 PD。PeJ。レールガンの高速運動量弾発射まで残りの秒数をカウントダウンしてくれ』


『了解。残り秒数、190秒』


『全クルー。よく聞け!』

 Jは説明した。


 ISS-BS1の月周回軌道は、楕円軌道から円軌道に変わっている。

 ISS-BS1が軌道を周回して、ISS-BS1の視界からフェルミ艦隊が月の地平線に隠れる寸前に、レールガンでメテオライト(隕石)に偽装した10kgのチタン合金高速運動量弾を連続速射する。


 メテオライト(隕石)の転送スキップ(時空間転送)攻撃は行なわないのは スキップで生ずるスキップ光を、レプティリアに奪われたオリジナルの〈ザルド〉に気づかれる可能性があるからだ。

 もし、オリジナルの〈ザルド〉に搭乗しているレプティリアが5D座標(他の平行時空間の亜空間曲線座標と直交している亜空間曲線座標)を開発していれば、隕石の転送スキップでISS-BS1がいる月の5D座標に、青白いスキップ光が現れ、ISS-BS1の存在がレプティリアに知れる。

 亜空間転移によるスキップ(亜空間転移)なら、赤みを帯びた青白いチェレンコフ光が5D座標に現れる。


 今ISS-BS1は月面から110㎞の高度をステルス状態のまま、秒速3.07㎞で月を周回している。フェルミ艦隊の真上から207.66秒で月の地平線の彼方へ航行するため、その後はフェルミ艦隊をレールガンのターゲットスコープロックオン4D映像に捕捉できなくなる。

 いやそうではない。ターゲットスコープロックオン4D映像捕捉できるが、ISS-BS1とフェルミ艦隊の間に月の地表があるため、レールガンの発射が不可能なのだ。

 つまり、この月の地平線にISS-BS1が隠れる前にフェルミ艦隊をレールガンで攻撃し、そのままISS-BS1は月の地平線の彼方に隠れるのだ。


『高速運動量弾発射まで、150秒』


 C(カムト・ヘクトスター吉永CSC指揮官)はフェルミ艦隊から奪われたオリジナルの旗艦〈ユウロビア〉、現在の〈ザルド〉がどれほどの機能を備えているか気になった。


 PDがCの精神波を感知して言う。

『〈ザルド〉の機能は、大宇宙戦艦〈ガヴィオン〉と同じですが、先ほど述べたように、PDフェルミンはニオブの母星、惑星ロシモントを離脱したときから進化していません。PDフェルミの存在空間は〈ザルド〉の電脳意識空間の中だけです。

 ご安心ください。

 それに、C(カムト・ヘクトスター吉永CSC指揮官)は戦艦〈オリオン〉が建造されて経緯をお忘れですか?』


 戦艦〈オリオン〉は、平行宇宙のオリオン渦状腕ヘリオス星系惑星ガイアの、地球防衛軍ティカル駐留軍基地が建造した、惑星移住計画用の球体型宇宙戦艦で、直径四十㎞と巨大だ。

 Jは十五歳のとき、オリオン渦状腕深淵部レッズ星系惑星シンアの静止軌道上の、巨大球体型宇宙戦艦〈オリオン〉にいた。

 二十歳前には、オリオン渦状腕外縁部テレス星団のフローラ星系、惑星ユングの静止軌道上の〈オリオン〉にいた。


『思い出した・・・。俺は、〈オリオン〉でトムソ(ニオブのニューロイドの特殊部隊戦闘員)訓練してを率いてた。

 この事はJも知ってる・・・。

 へリオス艦隊は、フェルミ艦隊を誘き出す餌か?』


『やっとわかりましたか。記憶を辿れば、すぐ、わかったはずですよ。

 高速運動量弾発射まで、60秒・・・』



『フェルミ艦隊に気づかれていないな』とJ。

『気づかれていません』

『〈ザルド〉の機能を再確認したい。説明してくれ』

 高速運動量弾を発射すると同時にISS-BS1は月の表側を航行する。フェルミ艦隊の消滅は地球の〈ザルド〉に知られる可能性は無いのか?


『大宇宙戦艦〈ガヴィオン〉の探査とスキップは〈ガヴィオン〉の電脳意識空間を介して、かつての私が行ないました。使用した素粒子は電子やヒッグス粒子でしたが、現在のような時空間転移伝播ではなく、亜空間転移伝播でした。

 従って〈ザルド〉の機能は現在もそのままです。


 今後、私はISS-BS1が行なった行動とそれによって波及する波動残渣の全てを、転送スキップ(時空間転送)して消滅します。証拠隠滅です。

〈ザルド〉は初期の4D探査(素粒子(電磁波)信号亜空間転移伝播探査)を使用していますから、我々の行動に気づきません』


『〈ザルド〉の位置はどこだ?

 以前と変わらず、ユーラシア大陸の西側の島国イングランドのストーンヘンジの下か?』

『はい、そうです』

『オリジナルの女帝リズとアーサー・ブリット大佐も、そこに居るのだな?』

『そうです』


 女帝リズとアーサー・ブリット大佐はフェルミ艦隊の旗艦〈ユウロビア〉を奪って〈ザルド〉と呼び、十分の一に縮小したレプリカの旗艦〈ユウロビア〉をフェルミ艦隊に残した。その時、〈ザルド〉は地球へ移動したが、スキップ(亜空間移動)に失敗して地下岩盤内に埋没した。艦体は位相反転シールドの防御エネルギーフィールドによって保護され、艦体内部に岩石が侵入しなかった。〈ザルド〉はこの地下を格納庫として拠点化し、地球と地球外へスキップ(亜空間移動)している。


『では、フェルミ艦隊に高速運動量弾を発射すると同時に、〈ザルド〉のPDドライブ(プロミドン推進装置)へ、メテオライトを転送スキップ(時空間転送)してくれ』とJ。


『K(茶居玲香、防衛省防衛局対潜入工作員捜査部の捜査官)とD(デイヴィッド・ダンテ、軽部平太、警察庁警察機構局特捜部の特別捜査官・サイボーグ特務コマンドCSC)は、〈ザルド〉潜入していないな?』

 C(カムト・ヘクトスター吉永CSC指揮官)はPDに確認した。


『今、二人は市谷にある防衛省極秘武器開発局のサイボーグ開発局・CDB四階の、警察庁警察機構局特捜部特別捜査官・サイボーグ特務コマンドCSC専用宿泊施設にいます。潜入の打ち合わせ中です。

 高速運動量弾の発射と同時に〈ザルド〉をスキップ攻撃するのですね?』

 PDが転送スキップ(時空間転送)攻撃を再確認した。


『そうだ〈ザルド〉をスキップ攻撃してくれ』とJ。

『了解!

 高速運動量弾発射とスキップ攻撃まで、20秒・・・』


 Cは思った。

 現在、二〇三四年三月二十二日、水曜、二〇一三時。記念すべき時だ。


『高速運動量弾発射とスキップ攻撃まで 10秒・・・。

 9、8、7、6、5、4、3、2、1、発射!』


 ISS-BS1の全レールガンが、いっせいにメテオライトに偽装した10kgのチタン合金の高速運動量弾を連続速射し、火星の公転軌道と木星の公転軌道との間に存在する、小惑星帯の小天体が島国イングランドユーラシア大陸の西側の島国イングランドのストーンヘンジの地下へスキップした。


 ISS-BS1からフェルミ艦隊まで距離はお637.5km、レールガンの高速運動量弾は1000km/sec。着弾まで0.64秒だ。


 レールガンが高速運動量弾の初弾を放って0.5秒後、フェルミ艦隊が着陸しているクレーターが地平線の彼方に消え、ISS-BS1からフェルミ艦隊が見えなくなった。

 ほぼ同時にフェルミ艦隊の旗艦〈フェルミナ〉を回収している回収攻撃艦〈スゥープナ〉のPDドライブ(プロミドン推進装置)にレールガンの高速運動量弾が連続して着弾し、一瞬に〈スゥープナ〉は高温高圧の金属ガス流体のプラズマに変化し、PDドライブ(プロミドン推進装置)のヒッグス場が一挙に解放されてヒッグス粒子と化し、〈スゥープナ〉は巨大なヒッグス粒子弾となり、フェルミ艦隊を一瞬に素粒子へ変化させ、消滅した。


 ISS-BS1のレールガンが高速運動量弾を発射すると同時に、小天体が、といっても、オリジナルの〈ザルド〉のPDドライブを破壊するに足る大きさの小天体が、イングランドのストーンヘンジの地下50㎞に留まっている〈ザルド〉のPDドライブを破壊し、〈ザルド〉は一瞬にして消滅した。

 同時に〈ザルド〉が存在した空間に小天体が現れて、空間が小天体で埋まった。


 PDが説明した。

『フェルミ艦隊が壊滅し、精神生命体ニオブの末裔の一族・フェルミは壊滅しました。《ザルド〉も壊滅し、女帝リズとアーサー・ブリット大佐も壊滅しました』


 PeJが説明した。

『皆にJとCたちトムソ(ニオブの特殊部隊戦闘員)の能力と精神と意識と記憶を与えたから、今後は、皆の名で行動してね。

 JとCたちトムソは、いつでも皆とともにいるよ。

 皆はニューロイドだからね!』


『さて、説明しておきますよ。

 まだレプティリアが地球にいます。全てを駆除したのではないです。

 女帝リズもアーサー・ブリット大佐も存在します。

 さらに、レプティリアがレプティカで意識内進入した、ヒューマの亜種のエイプが存在しています。独裁者はエイプです。独裁者は存在しています・・・』


『何だって!』

 C(カムト・ヘクトスター吉永CSC指揮官)たち、いや吉永たちは驚いた。


『PDの4D映像探査を探れば、すぐにわかるよ~』

 PeJがコクピットの空間に、PDが探査した4D探査映像を投映した。


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