六 SASのAI スパイ衛星撃墜

「さあ、移動するよ。3D映像通信は中国のスパイ衛星に傍受されるから、ISS-BS1のAIにぼくが特設映像通信で連絡しといたよ」とPeJ。


「どこへ移動するんだ?」

 吉永はSASの移動箇所を知りたかった。


「地球から500キロメートルの周回軌道だよ。

 地球から400キロメートルの周回軌道に、国籍不明のスパイ衛星がステルス状態でいるから撃墜するの。レールガンの高速運動量弾は1キログラムだよ」


「PeJが撃墜するんじゃないのか?」と前田班長。

「今度は、みんなで撃墜してね。

 ターゲットスコープに、スパイ衛星のマーカを表示するから、コンソールの操縦桿のロックボタンを押して発射ボタンを押してね。レールガンが弾丸を発射するよ」


「1キログラムの鋼鉄弾も用意してたのか?」と山本班員。

「この弾丸は人工衛星で使われてるジュラルミンだよ。隕石に偽装してあるよ」


 PeJが説明している間に、コントロールポッドのコンソールでディスプレイに映っている地球が大きくなった。画像をアップしたのではなく、SASが地球から6.6万キロメートル離れた空間から、500キロメートルの周回軌道上に移動したとディスプレイに表示が現れている。どう考えても、SASは飛行はしていない・・・。

 吉永がそう考えていると、倉科班員が訊いた。

「このSASは飛行してないのか?」


「あとで説明するね。

 みんなのターゲットスコープにマーカが出たよ」

 PeJがコントロールポッドのターゲットスコープを見て伝えた。


「スパイ衛星は見えないぞ!」

 倉科はコントロールポッドのコンソールのターゲットスコープを見るがスパイ衛星は見えない。


「ステルスだから見えないよ!ほらマーカーを撃ってね!」

 PeJがそう言うが、皆、呆然としてコントロールポッドのコンソールのディスプレイとターゲットスコープを見て、スパイ衛星を探している。


「なにしてんの?!

 マーカーをターゲットロックして、レールガンの発射ボタンを押すんだよ!

 早くしないとスパイ衛星が逃げちゃうよ!

 もうっ、そろいも揃って、なにしてんのさ!」

 PeJは女の子のきつい口調でそう言い、コンソールの操縦桿を操作して、ターゲットスコープのマーカーを十数回ロックすると同時に、コンソールのレールガンの発射ボタンを押した。

 SASのレールガンは、隕石を模した1キログラムの高速運動量弾を15発連続速射した。


 ターゲットスコープのマーカー内の何も無かった空間に隕石が飛翔して爆発した。コンソールのディスプレイには、隕石同士が衝突爆発した3D映像が現れている。吉永たちに代って、PeJが15機のスパイ衛星を撃墜したのである。

 中国の宇宙ステーション・CSSを壊滅してから一分も経っていなかった。


「ふうっ・・・。これで一安心だね!」

 PeJは自分のコントロールポッドから、吉永たちコントロールポッドのクルーを見ている。男の子らしかったPeJの顔が今は女の子だ。


「PeJ。すまない。まだ、SASの性能とコントロールポッドの操作に慣れていないんだ。

 ところで、PeJは『ぼく』か『あたし』のどっちだ?」

 吉永はスパイ衛星撃墜の不備を詫びると、PeJの精神と意識を尋ねた。

 吉永がヘルメットの意識記憶管理システムを介して感じるのは、スパイ衛星を撃墜をする前のPeJではなかった。いったいこのPeJは何者だ・・・。


「これから話すことは秘密だよ。約束を守れる?」

 PeJは女の子らしくそう言った。


「わかった。他言しない。秘密にする。皆、秘密厳守だ。いいな?」

 吉永は前田班長と倉科班員の倉科と山本に意志を確認した。

「了解。確約する!」


「そしたら、あたしはJだよ。ジェニファー・ダンテ。

 精神生命体ニオブのニューロイドのJだよ」

 ヘルメットの意識記憶管理システムを介して、吉永たちクルーにJの意識と記憶と思考と精神が伝わった。


 Jは精神生命体ニオブのニューロイドのジェニファー・ダンテで、オリオン国家連邦共和国代表の戦艦〈オリオン〉提督・総統Jだ。平行宇宙で、JはPDやニューロイドやヒューマノイドとともに、オリオン渦状腕を支配しようとしたニオブのクラリック階級を壊滅した。


「PeJを通じて、Jが我々に話しているのか?そんな事をしなくても・・・」


 吉永の疑問に、Jが答えた。。

「システムを介して話しかけても、皆は信じないよね。だから、こうしてPeJに代って現れたんだよ。

 PeJの他にもAIのサブユニットがいるよ。みんなが座ってるシート・Cやコントロールポッド・BR(バトルアンドロイド)だよ」

 Jの説明が終らないうちに、コントロールポッドのシートがクルーを乗せたまま変形した。コントロールポッドが人型搭乗可動式コンバット装備、つまり人型有人機動兵器に変形した。



「何じゃ、こりゃあ!」

 前田班長が驚いている間に、変形したシートとコントロールポッドは元の状態に戻った。


「このSASの全てがISS-BS1とISS-ST2のAIのサブユニットで、SASの各部が独立したサブユニットだよ。

 ISS-BS1とISS-ST2のAIは巨大宇宙意識・PDのサブユニットで、ISS自体がこのSASと同じように機能するよ。だけど、ISSのクルーもエンジニアも、その事を知らないよ。

 質問があれば答えるね。でも、意識記憶管理システムであたしの記憶を読んだから、説明はいらないよね」

 Jは吉永たちを見て微笑んでいる。


 吉永たちはヘルメットの意識記憶管理システムから、Jの思考と記憶を全て読みとって納得はできないものの理解はしていた。

 吉永は訊いた。

「なぜ我々に、ISS-BS1とISS-ST2とSASの電脳意識AIが巨大宇宙意識・PDのサブユニットなのを教えた?」


「この宇宙は調和と協調から成り立ってるの。だから、この惑星ガイアとヘリオス星系を乱す者を排除するだけだよ。そうしないとヘリオス星系の調和が崩れて、均衡の乱れがオリオン渦状腕に伝わって、この渦巻銀河ガリアナが崩壊するよ」


「地球と太陽系と天の川銀河の事だな?」

「みんなの呼び方なら、そうだね」


「それなら、レールガンでいっきに中国を壊滅すればいい。中国は月の資源とニオブの遺産を月から移動できなくなる。

 EUとPRIORUN(環太平洋と環インド洋連合国)は、月の資源を月で使う・・・」



「物理的な物質の移動だけじゃないよ。

 中国を牛耳ってるのは、一部の特種な人間だよ。露国も朝鮮もそうだよ。

 だけど独裁者をひとまとめにレールガン攻撃できない理由はわかるよね」

 Jは吉永たちを見て微笑んだままだ。

 Jは何を言いたいんだ・・・。

 吉永はそう思った。

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