三 SASのAI CSS壊滅

 二〇三三年、十一月十三日、日曜、〇九〇〇時過ぎ(日本時間)。


 国際宇宙ステーション・ISS-BS1に到着した吉永たちは中国の宇宙ステーション・CSSへの攻撃準備を整えた。

「SASのコントロールに必要な情報は、ISS-BS1までの飛行中に、CDB(防衛省極秘武器開発局、通称サイボーグ開発局)の意識記憶管理システムで記憶ずみだ」

 吉永は球体型攻撃艦(spherical attack ship)・SASのコントロールについて、ISS-BS1の艦長のハンス・ボーマンに伝えた。


「SASは搭載したAIが入力データに従って目標を攻撃して帰還する」

 ISS-BS1内の艦体格納庫で、ハンス・ボーマン艦長が小天体に偽装した球体型攻撃艦・SASについて説明した。


「自動制御なら、我々は必要ないな」

「AIが完璧ならクルーは必要ないが、最終判断はクルーが行うようプログラムしてある。そうしないとAIが勝手に善悪を判断して暴走する」

 ハンス・ボーマン艦長は説明した。


 民主主義の三原則は、

 最大多数の最大幸福、

 社会的正義、

 道徳的責任だ。

 AIはこの事を知っているが、善悪の判断をできるか否か不明だ。


 地球の総人口は現在約80億。

 中国は14.22億、露国は1.434億、朝鮮は0.2597億、合計15.9137億。(数字が多いので、この部分はアラビア数字表記にしました) 

 米国は3.319億、インドは14.08億、日本1.257億、EU4.472億、合計23.128億。

 人口の最大多数は、独裁政権国家でも、EUや環太平洋環インド洋連合国・PRIORUNでもない。発展途上国と呼ばれる国々だ。

 AIが、最大多数の最大幸福を如何に判断して、社会的正義と道徳的責任を実行するか、今もってハンス・ボーマン艦長は疑問視している。最大多数の最大幸福は、逆を言えば、少数派の不幸に繋がる。



 SASのAIの暴走を抑制するためにクルーが必要だが、国際宇宙ステーション・ISS-BS1のクルーがSASに搭乗すれば、常時公開しているISS内活動クルーから不足人員が明らかになり、クルーの行動が中国から疑われる。そのため、サイボーグの特務コマンド・CSC(警察庁警察機構局特捜部の特別捜査官・サイボーグ特務コマンドCSC)が招集されたのである。



「状況は了解した」

「では、よろしく頼む!」

 ボーマン艦長と警護や技術陣に敬礼されて、吉永たち四人(吉永悟郎特捜部指揮官、前田銀次特捜班班長、倉科肇特捜班員、山本浩一特捜班員)にISS-BS1の格納庫の係留ドックに係留されたSASに搭乗した。



 二〇三三年、十一月十四日、月曜、一〇〇〇時過ぎ(日本時間)。

 SAS内での約二十四時間のシミュレーションが終了した。SASははISS-BS1の牽引ビームで係留ドックから移動され、巨大な通路を移動してISS-BS1の内隔壁と外隔壁にある二つのダイアフラムを抜けてISS-BS1外に出た。ここはISS-BS1が張っている位相反転シールドの内部だ。ISS-BS1同様にSASもステルス状態だ。


「艦長。外へ出た。今後、連絡は不可だ」と吉永。

「了解。よろしく頼む」

 あえて映像を消去した3D映像通信が切れた。ハンス・ボーマン艦長も状況を理解している。


「SAS。CSSとの距離を再確認してくれ」

 シミュレーションでわかっていたが、吉永はあえてSASのAIに訊いた。


「およそ3.79万キロです。知っていて質問してますか?」

 SASのAIが答えた。妙に馴れ馴れしい。

「ああ、そうだ。知ってて訊いてる」

 中国の宇宙ステーション・CSSは東経116.4度の赤道上空の静止衛星軌道上にいる。

 一方国際宇宙ステーション・ISSは東経180度の赤道上空の静止衛星軌道上にいる。

 経度差は63.6度、静止軌道半径はどちらも3.6万キロメートルだ。


「位相反転シールドを確認しろ」

 吉永の指示に、山本班員と倉科班員、前田班長が答えた。

「位相反転シールド良好。

 ステルス状態良好。

 どちらも異常なし」


「私がいるのだから、いちいち確認しなくていいです」

 SASのAIが親しそうに吉永に言った。


 吉永は思った。何でもAI任せにして決断までAIに任せるわけにはゆかない。こいつが人間ならまだ初対面だ。信頼できるか否かまだ決断はできない・・・。

「わかった。行動開始だ」

 吉永は班員たちに告げた。


「シミュレーションどおり、CSSの静止軌道外部、3万キロへ移動します」

 AIがそう言うと同時に、SASはCSSの静止軌道外部、軌道半径の延長上、地球から6.6万キロメートルの宇宙空間へ移動した。

 ここから隕石を模した鋼鉄高速運動量弾をレールガンから放てば三十秒で着弾する。静止軌道外部からの攻撃は、宇宙からの隕石の飛来と思われるはずだ。



 SASのAIが位置情報を告げた。

「本艦は無事に地球から6.6万キロメートルの宇宙空間へ時空間スキップしました。

 本艦と地球の間に静止衛星軌道上のCSSがいます。

 本艦とCSSの距離は3万キロメートル。

 本艦SASとISS-BS1、ISS-ST2のシールドは多重位相反転シールドに強化しました。CSSの原子炉崩壊時に発生する電磁パルスを完璧に防御します。

 ターゲットにレールガンで10キログラム高速運動量弾10発を発射します」

 SASのAIが、今までと違う慣れ親しんだクルーのように言った。


「他に我々が備えることはないか?」と吉永。

「何もありません。ディスプレイで破壊を確認してください。

 3D映像は多重位相反転シールド加工されます。電磁パルスの影響はありません。

 原子炉崩壊の衝撃波も、多重位相反転シールドで消滅します。安心してください」


「わかった。発射してくれ」と吉永。

「了解!レールガン発射!」

 AIの言葉とともに、コクピットの3D映像ディスプレイに、CSSの静止軌道外部の宇宙空間から隕石が現れた。CSSのめがけて飛翔した。


 レールガンから連続速射された、隕石を模した10キログラムの高速運動量弾は、CSSの機体に着弾すると、その全運動エネルギーを解放してCSSの機体を高速高熱のイオン化された金属ガス流体・高速高熱の金属プラズマに変えた。

 その高速高熱の金属プラズマは機体隔壁を切り裂き昇華させ、さらに駆動中枢防護隔壁はおろか、ドライブ格納区画と原子炉格納区画を高速高熱の金属プラズマに変え、CSSに近接した『実験モジュール』を高速高熱の金属プラズマに変えた。原子炉の核燃料はプラズマ化され、一瞬に原子核反応を引き起して大爆発した。


 CSSは一瞬スーパーノバの如く輝き消滅した。

 隕石を模した10キログラムの高速運動量弾がレールガンから連続速射されてCSSに着弾し、二秒にも満たない間の出来事だった。

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