七 任務

 二〇三二年、十月八日、金曜、一〇〇〇時。

 尖閣諸島に停泊している第六艦隊の輸送揚陸艦から、ウェーブグライダー(波力移動海洋地震探査機)が海洋上に投入された。

 ウェーブグライダーはシャンハイの南方、シュウザン群島にあるシュウザン海軍基地までの約六百キロメートルを十二時間かけて移動した。


 

 二〇三二年、十月八日、金曜、二二〇〇時。

 シュウザン海軍基地原潜停泊区域の海中にウェーブグライダーを係留した。

 吉永たち四人は酸素ボンベは装備していない。サイボーグ化された呼吸装置で海水中の酸素を使って呼吸している。発生した二酸化炭素は海水に溶け込んで排出され、海水中の泡は発生していない。


 吉永が手話で三人の捜査官に指示する。

「全員、原潜母艦の真下へ移動せよ」

 全員が爆破装置の入ったウェットスーツを身につけ、足フィン、暗視水中メガネ、銃とナイフを装着し、左目をサイボーグ化した吉永は右目に暗視水中メガネを装着している。


「各自、原潜のミサイルサイロ付近に装置をセットして、ここに戻れ。

 行け」

 原潜母艦の真下から三人が指定された原潜の真下へ海中を浮遊した。


 吉永は、停泊中の原潜母艦艦体部で、海面下にある最もミサイルサイトに近い部位に浮上し、ウェットスーツからイシマテガイを数個取りだして、原潜の艦体側壁に付着させた。

 付着と同時に、イシマテガイは原潜の艦体側壁を少しずつ浸食しはじめている。イシマテガイは貝に似せた、浸食型爆発物誘爆ロボットだ。数珠つなぎになって金属を寝食して金属内に侵入し、あらゆる爆発物を探査してこれを誘爆させる。核物質にも反応する



 三人の捜査官が、吉永がいる原潜母艦の真下に帰ってきた。吉永は、

「撤退する」

 と指示して、海底に係留したウェーブグライダーまで海中を泳ぎ、ウェーブグライダーを起動して、第六艦隊の輸送揚陸艦へ十二時間の帰路についた。


 二二〇〇時過ぎの海中内の出来事は、中国海軍に気づかれなかった。



 二四〇〇時過ぎ。

 海中を進むウェーブグライダーの先頭で、吉永が後方の三人に手話で支持する。

「浮上し、顔だけ出して結果を確認する」

「了解」

 

 二四〇五時。

 シュウザン海軍基地の方角で、四度、閃光が夜空に走り、続いて大きな閃光が夜空を覆った。

 五分あまりり後に、低周波の大音響が波しぶきをかき立てて海上を通過していった。吉永たちは海中から海上の変化を確認した。

「まだ、任務は完了していない。急いで帰還する」

 吉永は部下とともに、海中を移動した。



 翌日、二〇三二年、十月九日、土曜、一〇〇〇時過ぎ。

 吉永たちが、尖閣諸島に停泊している第六艦隊の輸送揚陸艦に戻った。


「見てください。上々のできです」

 輸送揚陸艦のキャビンで、小関久夫CDB局長が映っているディスプレイの画像が、情報収集衛星が捕捉した画像に変った。シュウザン海軍基地の惨劇がディスプレイに現れている。四隻の原潜のミサイルサイトが爆発して、それら爆発が駆逐艦や巡洋艦のミサイルを誘爆し、ミサイル攻撃されたかの如く、シュウザン海軍基地とその一帯が壊滅した。


「中国の声明は?」

 吉永は小関久夫CDB局長にそう質問した。ここまで大々的に爆発が起れば、中国の出方は二通りになる。

 一つは海軍基地内の兵器管理ミスから生じた大惨事として、責任を中国人民軍に取らせて幹部を粛正する。

 もう一つは、対立する環太平洋環インド洋連合国(Pacific Rim Indian Ocean Rim United Nations・PRIORUN)による破壊工作として、国際世論に訴える。

 姑息な中国のことだ。証拠がなくても敵対国の破壊工作として国際世論に訴えるだろう・・・。


「今のところ何もありません。我々が調査した情報によれば、中国が実用化しているミサイルには、熱感知センサーに問題があったのは確かです。

 したがって、基地内でミサイルが爆発すれば、その熱で他のミサイルも爆発した。中国の調査当局はその事を確認しています。中国は自国のミスを公表しないでしょう・・・。

 諸君はただちにこちらに戻ってください」

 小関久夫CDB局長はそう言って、執務机のディスプレイの専用通信回線を閉じた。

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