第6話 勇者と魔王と謝罪

「……くっ! なんじゃ、この剣……なんで鞘から抜けんのじゃ……!」


 良い気持ちで眠っていたのに……またしても邪魔された。


 声は魔王のようだったが……なんだか、苦戦しているようなので、もう少し様子を見ることにした。


「儂が非力だというのか……! 剣まで儂のことを馬鹿にしおって! ぐぬぬ……!」


 俺は薄めを開けて状況を確認する。


 魔王は俺の腰元に刺さっている剣を、鞘からなんとか引き抜こうとしているようだった。


 俺は今一度目をつぶる。


 俺が持っているのはいわゆる勇者の剣で……要は勇者しか使えない、俺専用の剣だ。


 そんなこと、魔王なのだからわかるだろうと思っていたが……どうやら、俺の目の前の魔王はわかっていなかったらしい。


「くそっ……! もう良い! かくなる上は儂がこの手で……!」


「……この手でどうするんです?」


 俺がそう言うと魔王の動きが止まった。俺は目を開いて魔王のことを睨む。


「あ……あはは……い、いや……ず、随分疲れているようじゃったから……こ、この手……肩でも揉んでやろうかなぁ、と思ってな……あ、あはは……」


 苦笑いしながら苦しすぎる言い訳をする魔王。流石に呆れ果ててしまった。


「寝込みを襲おうとしたってことですか。弱い上に卑怯なんですね」


 俺はそう言って腰元の鞘から剣を引き抜く。それと同時に魔王は尻もちをついた。


「やはり、アナタは抹殺する以外選択肢がないようです」


「ま、待ってくれ……あ、謝るから……謝るから!」


 俺が剣先を向けると、涙で顔をグシャグシャにしながら魔王はそう言った。その表情を見ていると……なんだか少しだけ面白いと思ってしまった。


「謝る? 俺に謝ってどうするんです? アナタはこの世界の人間全てに謝るべきでは?」


「謝るから! この世界の人間全てに謝るから! だから、殺さないでくれ!」


 なんとも情けない格好で地面に這いつくばりながらそういう魔王。


 ……謝る? そうか。それがあった。抹殺しなくても言い。コイツが謝れば良いのだ。


「わかりました。じゃあ、謝ってください。この世界の全人類に」


「……へ? ど、どうやって?」


 涙を流したままでキョトンとする魔王を見下しながら、俺は淡々と続ける。


「俺と一緒に王国まで来てください。そこで、王様に直接謝るんです。誠意を込めて、ね」

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