第9話 拓海

「被告人、名前をー」

「山崎拓海です。」

「被告人は現在の判決に納得できないーーそうですね?」

そう聞いたのは案内人だ。

「当たり前だ。こんな結果で納得できる訳がないーー」

「では、被告人、あなたの望む判決はどんなですか?」

「俺は、一人になりたくないんだ。みんなといたいんだ」

「あなたの人生を振り返ってみてください」

案内人が言う。

「はい」

拓海は目を閉じた。

これまでの人生を振り返る為にーー。

「ーーあなたの人生はどんなでしたか?」

「色んな人を傷つけました」

「それでも、あなたの側には誰かいましたか?」

「ーー誰もいなかった」

拓海の大きな瞳から涙が溢れだす。本気の涙だった。

「あなたはどう思いましたか?」

「誰かにいてほしくて、、誰もいてくれなくて、俺は一人が怖かった。だから、、」

もう声が震えている。

拓海は拓海なりの思いがあった事を知る。

「ーーだからと言って、人を傷つける事を繰り返してもいいという事でもないですよ?あなたはそれを繰り返して、幸せでしたか?」

「幸せじゃなかったーーほんとはいつも寂しくて仕方がなかった。でも、誰もいない事の寂しさを誰にも伝えられなくて、気がついたらこんな人生を歩いていた」

「それでは聞きます。ーー被告人は今、裁判のやり直しをしています」

黙って拓海はそれに頷く。

「ーーそれにより、今後生き返る可能性もあるのは、わかっていますね?」

「はい」

「ーーもしも、生き返る事が出来たら、被告人は改めてどんな人生を歩きたいですか?」

「今度は友人や恋人に囲まれて過ごせる自分になりたい」

「わかりました。ーーあなたにとって今までの人生を思い出して、その思いを言葉にしてみてください」

「ーー後悔と孤独です」

「どちらの思いが強いですか?」

「孤独です」

「今までのあなたの行動に反省すべきところはありませんか?」

「ーーあると思います」

「どうしたら、人に囲まれて過ごせると思いますか?」

「自分の思いを伝え、相手を思いやる事が出来れば、人がいてくれる自分になれるんじゃないか?ーーそう思いますが、、」

「そうですね」

案内人はニッコリと微笑んだ。

それはゴツイ体の割に、優しそうな笑顔に見えた。

黙って聞いていた裁判長も、言葉を発することなく頷いている。

裁判長が、言葉を発する。

「ーーそれでは、被告人、山崎拓海の控訴審を終わります。判決が出るまでこの部屋でお待ちください」

暗闇の中へと案内人は消えていった。

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