第3話 判決の時

204で待たされていたのは鈴木大介だ。

ドアが開いたらすぐに、案内人が顔を出してすぐさま言った。

ーー証言台へ。

言われるままに大介は証言台へ歩み寄る。

「万が一、この判決が不服なものであったとしても、裁判のやり直しは出来ませんので、ご了承下さい」

案内人が真面目な顔をした。

ーーこれより鈴木大介に対する判決を言い渡します。



ーー生死をかけた裁判をしていると言うからには、俺は今生きてはいないのだろうが、胸の鼓動が高まっているように感じた。


案内人がハッキリとした口調で言う。

ーー大介さまへの判決は「生」。あなたはもう一度現世に帰り、人生をやり直して下さい。


突如、涙が溢れてきた。

ーー生きられる。良かった。


これまで当たり前のように思えていた事実が、実はすごく大切な事で、実はすごく深い意味を持つ事なんだと言う事がわかった。

頭を深々と下げて、大介は言った。


「僕をもう一度、生きられるようにしてくれてありがとうございました」


頭をあげて大介は聞いた。

「ところで僕はこの後、どうしたらいいのですか?」

案内人が答える。

「もう1人判決を下すので、それまでここでお待ちください」

「はい。わかりました。ありがとうございます」

大介は再度頭を下げた。


突然、204と書かれた部屋の中が賑やかになったようだ。先程までの雰囲気がガラリと変わった。案内人がいた場所の両隣から、沸いてでてきたように、数名の人が座っていたからだ。

男性2名。女性2名。

彼らはこの裁判に関わった人達なのだろう。

案内人と同じ服装をしている。


「大介さん、生と言う判決になって良かったですね」

女性が言った。

「はい。本当に良かったです。ありがとう」

また涙が溢れてくる。

「ちゃんと彼女の事を大切にしてあげて下さいね」

「はい」

ーーまた彼女に会える。会えるんだ。

感情が高ぶる。


彼らはまた次の判決を告げるため、次の人が待つ部屋へと歩いていったようだ。

次はきっと眠っていた彼だろう。山崎拓海と言ったかーー。

大介はまた1人に戻ってしまった。



ーー拓海。


404の部屋のドアが開き、案内人が顔を出した時、呑気にも拓海は眠っていた。

案内人は彼が眠っている事はまるで気にしていない様子で、拓海の肩を叩き起こした。

「拓海さん、起きて下さい!判決ですよ」


ーー山崎拓海さん、証言台へ。


「はい」

拓海の声はかすれている。まるで風邪でも引いている様なガラガラ声だ。素直な口調で彼はそう言いながらも、態度はあからさまにイヤそうに見える。

仕方なく証言台へ向かう。

そんな態度だった。


「山崎拓海さん、あなたの判決は死ですーーこれからあなたが行くべき場所に、ご案内します。それまでお待ちください」

ーーまた、だ。俺はまた1人になってしまった。

一体なぜ?こんなにも多く一人にならなければいけないのだろうか?

まぁいい、、1人には慣れている。。



ーー大介。


その頃204号室で待たされていたのは大介だったが、メンタル的に相当疲れていた。しかし、その結果が「生」と出た事で、気が抜けてしまっている。


「大介様、さぁ、参りましょう」


案内人は終始にこやかに笑っていた。その後で捕捉するように、案内人の彼は言った。

「残念ですが、あなたは「生」と言う判決でしたが、もう1人の方は「死」とゆう判決でしたので、現世にお連れするのはあなただけと言う事になりました」


案内人が軽く言った。

どうやらこの世界では「個人情報」も何もあったもんじゃないらしい。


ーーどうして僕だけ「生」とゆう判決だったんでしょうか?

不思議だった。

直接、大介は案内人に聞いた。


ーー裁判で聞いた事に関しては、こちらでも事実確認しましたが、あなたは自分に正直でした。ですから、願い通りの結果になったようでした。


「拓海と言うもう1人の彼は?」

「彼は自分にウソをつきすぎていました。だからこそ、死の世界に導かれたのです」

「そうですか」


大介は「生」とゆう望み通りの結果を手にしていながら、なぜか手放しで喜べないような気持ちになった。

先ほど固く手を繋ぎ合った彼は「死」の判決を受ける事になってしまったからだ、、。

そんな事を考えていると、二本に枝分かれした道にたどり着いた。案内人が右手の道を指差して言った。

「大介様はこちらの道から、現世へとお戻りくださいーーでは、私はこれで」

案内人は頭を下げ、軽く手を振ってから「お元気でーー」と言った。


そして案内人はまたもう1人の彼のもとへと向かって走って行った。

長い廊下を渡っていると、物凄い騒音が響き渡ってくる。

ーーなんだ?一体何が起きている?

その音のする部屋へと急いで向かった。

404ーーこの部屋だ。

案内人はこの部屋にいたのが誰だったか?名簿で確認する。

山崎拓海だった。

彼は部屋中のいろんなものを蹴り飛ばしているのだろうか?ーー対したものは置いていないはずだが、、。

彼が何らかの方法で大暴れしているのは間違いなかった。

「拓海さん、お静かにーー」

ドアを開けると大きな声で案内人が言った。

いつもより冷静な声でーー。

しかし、彼の耳には届いていないようだ。

彼のヒートアップした感情は、さらに熱を上げていく。

「静かにしなさい」

案内人が声をあらげた。

「ーー何だよ、俺に指図すんな」

思わず振り上げた手が、案内人の頬に思いっきり当たってしまった。

それに驚き、一瞬だけハッと我に返った拓海だったが腹の底から沸き上がる「怒り」は収まらず、冷静には戻れなかった。


ーーこんな事は初めてです。

激怒しているんだろうか?案内人は握りしめた拳を震わせている。

殴られた頬を撫でるでもなく、案内人はその部屋の鍵を閉めた。

その時「少し頭を冷やしなさい」ーーもっともその声が、大暴れしている彼の耳に届いているかどうか定かではなかったが、、。

こんな事は前代未聞だ。どう対処していいのか?随分と長くこの世界にいる案内人にも、分からない。

一体どうしたものか?


しばらく彼が大暴れしている音が、長いろうかの隅々まで響き渡っていた。

現世での30分弱の時間が過ぎた頃、突然あたり一面に静けさが広がった。

物音一つないその静けさから、どうやら彼も落ち着いたようだ。

案内人はそう思った。

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