赤い光と来訪者(21/9/17改訂)

 手でひさしを作って玄関側のドアに歩み寄り、明かり窓の向こうをのぞき込む。赤い光の中に小さなシルエットが見えた。


 シルエットを確認したところで赤い光が一層強くなったので、目を閉じて明かり窓を書斎から隠すように背中を押しつけた。


 瞼の裏に光の赤い残像が浮かぶ。どぎつい。


「今回のお客さん、おそらく小さい子だから怖がらせないようにしてね」


「……そいつが俺と祐護さんの邪魔をしなかったらな」


「はいはい」


 そろそろ玄関の光が落ち着く頃だと思い、目を開ける。赤い光の残像はまだ目の前をうろうろしているが、かまっている場合ではない。


 ドアから背を離して、光の消えた明かり窓の向こうに視線をやる。


 シルエットの正体は男の子だった。


 髪は栗色のツーブロックで、灰色のスクラブと黒の短パンを着ている。あどけなさの残る、かわいらしい顔立ちが印象的だ。


 そんな男の子が、だだっ広く薄暗い殺風景な玄関に立って、声も上げずに腫れた目を擦っている。


 おそらく状況は理解できていないだろう。違う世界に迷い込んだことにも気づいていないかもしれない。


「もう一度忠告するよ。大人しくしててね」


 男の子に挨拶する前にツカサに言い含める。


「それはそいつ次第だからな」


 ツカサは来客に冷たく接することが多い。


 本質的に頭が良いので致命的なトラブルに発展したことはないが、それでも肝を冷やす場面は何度かあった。


「向こうは喧嘩をふっかけるようなタイプには見えないけどね」


 汗ばんだ手をドアノブにかける。この瞬間はいつだって緊張する。


 緊張に負けじと、笑みを作る。


「じゃあ、いくよ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る