彩花軍襲来?

 「山本太陽!山本太陽!......あ」


 彩花のお出ましだ。ここは3文字の掟。忘れるな僕よ。間違ってもすいませんとか、動揺は見せるな。


「あの、山本太陽?ですわよね」


「ああ」


それにしても何故にそんなに近い......。先日は席に座る僕を見下ろしながら話してたじゃないか。

今 彩花は僕の机に手をついて、僕の顔の目の前で凝視してくる。


「これは.....気づかなかったわ。私としたことが。山本太陽、今日はお昼ごはんどうしますの?」


 え?......命令じゃない。

僕に選択の余地を与えるのか。ならば答えはノーだ。

散々嫌がらせしておいて、急に態度変えたってなびくもんか。


「ここで」

キーンコーンカーンコーン

「あら......」


彩花はチャイムが鳴りさっと出ていった。


 みんながざわつく、なんだか初日から流れが変わりすぎてついていけない。

あ、ふと愛と目があった。が、無表情で知らない顔をされた。そりゃ自分の厄除けが、自分をいじめるような女子と話したら気分悪い......のかな。僕が今にやっつけるから。







 昼休み僕は普段通りに、春斗と愛と机をくっつけてお弁当を広げる。


とクラスのチャラ男中崎なかざきくんが入ってくる。


「俺も一緒に食うわ」


 いや、君 僕が厄除けになってからあんまり絡んで来なかったじゃないか。

僕の場所を春斗の横にし、自分は愛の隣に座るらしい。

......くそ。


 「ね、愛ちゃん 放課後遊びに行こうよ」


「忙しい」


「じゃあ 一緒に帰ろうよ」


「埋まってる」


「えーなにそれ?」


 埋まってる?下校メンバーには定員があるらしい。




ガラガラガラッ


え、どうして来た.......。


彩花が重箱抱えてやって来た。


 「ちょっとあなた達、その辺りの机用意なさい」

と他のクラスメイトを動かし一つ島を作らせた。


「山本太陽っお昼ごはんにしましょ。さあ」


いや、見たらわかるでしょ。僕達もうここに机並べて食べてるんだけど。

要くんは?ほったらかし......。


「僕は友達と食べるから」


「わ、私が友達ではないと?」


「え いや......」


「............」


「ふん、いいわ。そんな風にするのね。そんな風に。このわたくしを......。」


彩花はまた重箱をしまって消えていった......。


「ちょ、ムスコ おまえヤバくね?あんな態度とったらヤラれるぞ。」


「うん」


「どーすんだよ」


「別に」


「いや、今別にって言われてもなあ......」


 春斗は全くこの状況がわかっていないのか。ああなんという単純な男。


 さっきからまだごちゃごちゃと、中崎くんが話しているが僕はいつも通りお弁当に箸を運ぶ愛を眺める。

と言っても、愛に気づかれないように。

愛は近くて遠い存在というやつなんだ。


 あ.......れ?

今日はチラチラ見る僕の視線を拾うかのように目が合う。やっぱり前髪と眼鏡が変われば無防備すぎて見つかってしまうのか。いや中崎くんが机の配置を変えたから愛と僕が向かい合わせになってしまったからだ。

恥ずかしくなり下を向いて急いで弁当を終わらせた。







 放課後、下駄箱で靴を履き替える僕らを呼び止めたのは

彩花軍の男子3人だ。


「おいっ山本!ちょっとイメチェンしてチヤホヤされたからって調子にのんなよ。」


テンプレの絡み方じゃないですか。こんな時いつも僕はすいませんっを発動してきた。

でもこれからは違う......しかし今は愛もいる。

もし、挑発的な態度をとれば危険だ。どうする。


「おいっ聞いてんのかっ。無視かよ」


「なに?」


「おまえ、彩花の重箱つき返すなんて10年早いんだよ。無神経にも程がある。ケンカ売ってんだろ?」


 いきなりケンカに直結するのはどうしてか。脳の回路が読めない......まあある意味ケンカを売るために、イケメン化を計画したのは事実。

しかし、そんな暴力沙汰は希望していないのだ。


「ケンカ売ってないし買わない。急ぐから」


これはもう、とりあえず逃げるしかない。


「はあ 逃げんのかよ」

と僕はぐいと胸ぐらを掴まれた。


「やめたほーがいいよ 太陽 格闘技やってるから。あんたたち怪我するよ」


 愛?愛さん何を言いましたか.....僕はただのバレエ男子。


 愛の冷たいトーンは妙な説得力があった。


「そうだ。ちなみに俺もやってっけどな。編入組だからしらないだろけど、こいつはやばいやつで地元じゃ有名だ。無駄に手だすなよっ」


 春斗まで......調子に.....僕は地元である意味やばいヤツだが。


 しかし、それでもこの彩花軍の男子は手を離さない。


 ついこのあいだも春斗と僕は駅近くで金髪の男達に金を出せと言われて二人仲良く総額2000円を差し出したところである。


ああ、これは人生初のボコボココースか。

愛、逃げるんだ今のうちに


「おやめなさいっ!!!」


 ん?彩花?廊下から彩花とマーサに続き数名の御一行がやって来た。

時代劇の将軍様出てくるシーンさながらの登場である。


「ったく。あんたらなにやってんのー。マジないわ。むだに絡むのとかー。彩花ブチギレだっちゅーに。マジでやばいからっ。

......あ?なに。なんか変なもん食ったの?太陽」



「え?」


「せっかくオットコマエーになったってゆーのに、真っ青じゃん。チョーウケる」


 真っ青?多分僕はビビってるからだ。


 彩花の知らないうちに周りが勝手に動いてる可能性もあるのか。

ただ、愛と彩花の仲がよろしく無いのは丸わかりだ。


 僕は重要なポジションが必要だと悟る。それは、ケンカ担当だ。どうする.....無敵な戦闘能力保持者。そんなクラスメイトいない。




「ねぇ 太陽」

愛が下駄箱をみて呟く

「はい」

「上靴......替えないの?」

「あ 履きやすいから」

「ふぅん」

「やっぱムスコ変だな 変態だな」


僕の上靴はまだ『愛の奴隷』

ちょっと気に入っている。

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