第15話 セイレキ180ネン

「今回皆さんを呼んでい~るのは、これで~す!」

「これは……『卑弥呼の魔法少女ステッキ』?」


 私たちが案内されたのは、『伝 卑弥呼ひみこ使用 魔法少女のステッキ』と書かれた展示台だ。


「へえ~、まるでマギルカねえ。なんだかお子ちゃまっぽいわ」


 ――あ。


「ちょ、ちょっと、唯ちゃん抑えて! 陽菜ちゃんも悪気はないと思うから!」

「な、なんなの!? なんで唯は怒ってんの!?」

「唯ちゃんはマギルカシリーズが好きなんだよ!」


 秘密厳守と言われたけれど、止めるには言うしかない!


「へえ、案外子どもっぽいところが――ちょ、ごめんって! ジョーダン! ほんのジョーダンだから!」

「こらこ~ら、ケンカだめで~すよ」


 陽菜ちゃんが必死に謝り、マダムさんが仲裁することで、やっと唯ちゃんは落ち着いた。はあ、タイムトラベルする前に疲れたよ。


「さあ、善は急げと言います~し、さっそく変なモノが呼ぶ過去の世界をのぞいて見~ましょう!」

「ちょ、ちょっと待ってください!」

「どうしま~したか彩花さん?」

「私、卑弥呼さんって誰なのかいまいち知らないし、過去に行く前に知っておきたいんですけど!」


 名前は聞いたことがある気がする。けれど少しは基礎知識を頭にいれておかないと、前回みたいに危険な目にあった時すごく不安だ。

 そういう意味で、タイムトラベルをする前に予習をしておきたい。予習復習が大事だというのは、唯ちゃんとの勉強で身に染みたしね。


「陽菜ちゃん、陽菜ちゃんは卑弥呼って知ってる?」

「え? 知らないわよ」

「だったら不安だよね?」

「別に。私は常に出たとこ勝負! そういう女なのよ!」


 そう自信満々に言い放つ陽菜ちゃん。天性のギャンブラーかな?


「ウィ、わかりま~した。彩花さんの心配はもっともで~す。唯さん、説明できま~すか?」

「わかりました」


 マダムさんに指名を受けて、唯ちゃんが私と陽菜ちゃんの前に立つ。


「卑弥呼は、2世紀から3世紀ごろの倭国わこく――古代日本の女王だったとされる人物。怪しい術を使って民を従えたと伝わっている。邪馬台国やまたいこくと呼ばれる国に住んでいたみたいだけれど、詳しくはわかっていない」

「あ、邪馬台国って聞いたことあるよ! なんかどこにあるかって、いろいろ説があるんだよね」

「そう。主に畿内説と九州説がある。多くの学者が研究しているけれど、いまだにはっきりとした場所はわかっていない」


 そうなんだ。頭の良い学者さんたちが沢山研究してもわからないことってあるんだ。歴史って不思議だなあ。


「なによそれ、結局ほとんどわかりませんってことじゃない」

「確かにそう、その言い分も一理ある。けれど、だからこそ古代史にはロマンがある――と私が読んだ本には書いてあった」

「ふーん、ロマンねえ……。ま、女王っていうのは気に入ったわ。同じクイーンとして、古代日本の女王の顔を見に行ってやりましょうか!」


 あ、クイーンっていうのやっぱり気に入っているんだ。

 私たちの話がひと段落したのを確認すると、それまでニコニコ笑顔で見守っていたマダムさんが話を切り出した。


「ではで~は、お勉強も済んだようなの~で、記憶の世界に行ってみ~ましょう!」

「は、はい!」

「当然! 早く行きましょ!」

「邪馬台国の謎、気になる」


 私たちがマダムさんに返事をする。すると、あのひきつけられるような感覚を『卑弥呼の魔法少女ステッキ』から感じた。そして私たちの身体がどんどん光り輝いていき、どんどん周囲の景色が回転し始めた。


 唯ちゃんは卑弥呼が活躍した時代を、2世紀から3世紀と言っていた。信長さんの時代が16世紀だから、それよりもずっとずっと昔だ。いったいどんな時代なんだろう? 私はそんなワクワクした気持ちに心を弾ませていた。



 ☆☆☆☆☆



「ここは……? うわ、真っ暗だ!」


 気がついて、ゆっくりと起き上がってみる。

 けれど辺りは真っ暗で、何も見えない。

 下は板張りみたいだから、たぶん室内だ。


「唯ちゃーん、陽菜ちゃーん、いるー? いたら返事してー」


 私は心細い気持ちを奮い立たせて、暗闇の中へ呼び掛ける。


「彩花ー、ここよー!」

「あ、陽菜ちゃん! 意外と近くにいたんだね!」


 返事が聞こえた方へとハイハイの要領で近づくと、すぐに感触があった。唯ちゃんの方は?


「私はこっち」

「あ、唯ちゃん! 唯ちゃんも近くにいたんだ!」


 すぐに唯ちゃんも発見。良かった、合流できて。

 この時代、電話も何もないわけだし、合流出来なかったどうしようかと思った。


「まったく、どこなのよここ?」

「建物の中なのはわかるけれど、どこかはわかんないや……。――うわっ!? 何かザラザラでツブツブなのに触った!?」


 うわうわ、まさか虫!?

 いや、虫じゃなくてこれは……何か種みたいな?


「虫じゃない。たぶんこれは、収穫したいね

「稲? ということはお米なの?」

「そう。つまりここは、収穫した物を保管しておく倉庫と考えられる」


 おー、さっすが唯ちゃん!


「で、倉庫なのはわかったけど、私たちはどうすればいいの?」

「あなたからして多分左側。少しだけ光が漏れ出ている。たぶんあそこから出られる」


 この暗闇の中でよく私たちの方向がわかるなあ。あ、あれか。唯ちゃんが言う通り左側を見ると、ちょっとだけ光が差し込んでいた。あれがきっと出入口の扉だ。


「よいしょっと、慎重に開けて――うわっ高っ!?」


 扉を開けると、びっくりするくらいこの建物の高さはあった。けれど大丈夫。柱をつかめば、降りられない高さではないみたい。


「いわゆる高床式倉庫たかゆかしきそうこというやつ。ネズミなんかに食べられないために、高さのある倉庫を造った」

「へー、そうなんだ。うん、大丈夫だよ。周囲に人はいないみたい」


 外に出ると夜だった。この暗さならきっと見つからないで降りられると思う。

 そう考えた私たちは、月明かりを頼りにぴょいぴょいと地面に降りた。そして見つからないように近くの草むらに隠れる。


 人口の明かりが無いからか、月明かりだけで良く見える。ここから見た感じ、ここは結構大きな村みたいだ。村全体を壁みたいなのが囲っている。


「これからどうしたらいいんだろう? 卑弥呼さんを探して、あの魔法少女ステッキを使う所を見ればいいのかな?」


 今まで通りだと近くに卑弥呼さんがいるのかな? 過去に行ってどうすればいいとかは、マダムさん教えてくれないし……。


「とりあえずポケベルを確認してみたら? また時代とか場所が書いてあるんじゃないの?」

「あ、そうだね陽菜ちゃん!」


 陽菜ちゃんに言われて、私はポケットから銀色で手のひらサイズの薄い板を取り出す。いくつかあるボタンの一つを押したら、画面が明るくなった。便利機能!


「えーっと、『セイレキ180ネン ヤマタイコク』……! やっぱりここは邪馬台国なんだ! ねえ唯ちゃん、桶狭間の戦いの時みたいに、この年に何があったか知らない?」


 期待を込めてたずねた私に対して、唯ちゃんは首を横に振った。


「ごめんなさい。卑弥呼の事や古代の日本については、わかっていないことが多い。私にはこの時代の卑弥呼が何歳なのかもわからない」

「そっか、気にしないで唯ちゃん」

「そうよ唯! 私はさっき説明受けたけど、邪馬台国が何なのかすらわかっていないわ! ラーメンの会社みたいね!」


 陽菜ちゃん、それは自慢にならないし、ラーメンの会社では絶対にないと思うよ。でもやっぱり優しいんだね。


「うーん、どうしたらいいのかなあ?」

「周りの者たちに聞いてみるのはどうじゃ?」

「うーん、それはダメだよ陽菜ちゃん。怪しまれちゃう」


 きっとそれをしたら最後、戦国時代の時みたいにスパイだとか疑われるんだろうなあ。


「何言ってんのよ彩花、私は何も喋ってないわよ」

「え? じゃあ唯ちゃん?」

「私も何も言っていない」

「え? じゃあいったい誰が?」


 二人じゃない。ましてや私の空耳でもないと思う。だとすると私はいったい誰と会話をしていたの?


じゃ」

「わ?」


 横から声が聞こえたので、思わずそちらを向く。

 見たことのない女の子がいた。

 歳は私たちと同じくらい。月の光に輝く黒髪に、少し日焼けした肌だ。


「だ……」

「だ……?」


 漏れ出た私の言葉に、女の子は首をかしげる。


「誰ええええええっ!?」

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