CAKE CAKE

雨玉すもも

第1話

 ──ここは森の奥の奥の深い場所。

人を近づけさせない黒いかげりは、ただの影だけれど何かの色を足されたかのように濃い陰りです。

本当は緑と緑が重なり重なり、深くなっただけの森でした。

森を囲む壊れた柵から一番近い村の人はこう言います。


 、と言います。


 人ならざる女の人が住んでいると昔から伝えられていると。

けれど見た者はいるのか、生きているのか、死んでいるのか、誰も知りません。


 そんな森に、一人の青年が迷い込みました。

大きな荷物を背中に背負しょって、気づいていない汚れを擦った顔は疲れているようでした。

癖っ毛の焦げた茶色の髪は自由にうねっていて、ゆっくりとした足取りは片足をかばっていました。


 青年は、旅人のなりをしていました。


「──やぁ珍しい。この森にお客とは」


 森の奥の奥の深い場所。

人を近づけさせない黒い陰りが少し晴れた場所でした。

ひらけた場所で旅人の青年──俺は、声の方を見ました。


「……男ですね……?」


 金に近い茶色の髪を一つに結んだ、すらり、と背が高い男の人でした。

同じくらいの年ほどに見えました。


「見ての通り、僕は男だよ。それより大丈夫──じゃなさそうだね」


 それが聞こえてすぐ、俺は倒れたのでした。

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