2-18.Madonna of the Carnation



レオ、ヒューガをはじめとした一般人が知るのは、せいぜい自ガイアの現状と、スマートフォンを介して目に入る遠隔的な情報のみ。


さらにそのスマートフォンからの情報もSSGによって統制されている。


ガイア外へ出ようとするライバーがワイルドウイングによって駆逐されたのもその一つの例だ。


世界人口の99%が失われた世界の死を経た現代の人間は、自らの身一つに有り余る生命資源の供給さえあれば、それ以上の情報の欲求力はない。


だからジェネレーターの正体、その燃料、そしてジェネレーターが生み出している実益など、知る者どころか知ろうとする者すら存在しなかったのだ。



「呆気に取られてどうした? 聞いてきたのは貴様らであろう」


「……そうだな、数字の意味を聞いたのは確かに俺だ」


「数字が座標であることだけを言っても貴様らは納得しないであろうと踏んでな。レオ、貴様のような好奇心旺盛な馬鹿は嫌いである」


「うるせえよ」


「それで、私からも一つ質問をしたいのですが」


「言うがいい」


「先程私たちが追いかけたかっこいい車は?」



質問をしながら黒い煙草の箱を取り出すヒューガ。


「後にしろ」というJVの短い警告に、ヒューガは舌を出して素直に応じた。


レオが最も不機嫌そうな顔をしている。



「先程部下からも報告があったである。追っていたのはNSXとR32であったな。レオ、貴様は見覚えがあると言っていたようだが」


「レースで見たことがる。だが当時はあんな趣味の悪いゴールド色なんかじゃなかった気がするが」


「うむ。あのゴールドカラーは日本車をメインに扱う元トランスポーターグループのチームカラーである。我々ワイルドウイングのチームカラーがホワイトであるのと同じようにな。世界の死以前は同業社として我々と鎬を削っていたである」


「そいつらがワイルドウイングから絵画を盗み出した?」


「いいや、厳密に言えば違う。実際に盗み出したのは、ワイルドウイングのメンバーである。それをあのチームが匿ったとかいうシナリオであろうな」



目を伏せるJV。


長い睫毛に目線は隠れているが、何かを回顧しているような表情にも見えた。



「でも、座標のジェネレーターはSSGが回収済みなんですよね? 今更オークションにかけるわけでもないでしょうし、盗んで何になるんですか?」


「絵画に残された暗号は座標だけではない。各絵画の座標に一つだけ紛れた赤い数字。そして吾輩がまだ手に入れられていない13番目の絵画。それらの謎を、彼が解いたのではないかと踏んでいる」


「…………」



JVはそこで一呼吸を置いた。


死するメディオをわずか二年でここまで復興させたこの小さな怪物が抱え込むほどの問題だ。


レオとヒューガに入れられる横槍などなかった。


 

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