1-8.Annunciazione



踏み込むアクセル、飛び上がるタコメーター。


ギアを1速に入れ、本能のままにクラッチを繋ぐ。


リアタイヤから上がる白煙。


身体全体にのしかかる前からのG。


F40が戦闘体制に入る。


シグナルからここまで1秒足らずだ。


しかし目の前にいる黄色いマッスルカー、カマロの発進はさらに鋭く、頭一つ飛び出す。


逆にムルシエラゴに乗るのはド素人の女。


スリップを恐れているのか悠々とした走り出しで、後列のインプレッサがあわや追突というところだった。




まずはコルソ・センピオーネ通りを北西へひたすら直進する。


距離およそ2キロ。


並行する路面電車の線路がノスタルジックな風景を創造しているが、そんなことはどうでもいい。


前列、グリップが効き始めたらしいムルシエラゴは赤いカマロのテールを捉える。


後列、レオはインプレッサのシフトチェンジミスを見切り、半台分前に出る。


一位、デレク操るカマロ。


二位、クソ女操るムルシエラゴ。


三位、レオ操るフェラーリF40。


四位、マキシマ操るインプレッサ。


団子続きだ。


しかしこのレース展開を見るに、直線を進めば進むほど4台それぞれの差は顕著になっていくことだろう。


今はそれでいい。


今日の敵はムルシエラゴでもカマロでもない。


今日の勝負所はストレートではない。


この直進を抜けると、フィレンツェ広場の全周800メートルのロータリーが現れるはずだ。


指定方向外進入禁止標識を無視して左折、八分の七周して、センピオーネ通りから見て315度右に折れる。


最初の勝負はそこ。


コーナーが鈍いカマロはアウトに膨らむ。


ムルシエラゴに乗るのはド素人の女。


唯一警戒すべきインプレッサとは適度な差がある。


行ける。


そこで抜きん出てやる。




間も無くフィレンツェ広場。


前を走る2台とは少し差がついた。


チラリとルームミラーを見ると、インプレッサと自分とはおよそ30メートルほどの差。


この315度コーナーで前の2台に追いつき、インプとの差を広げる。


終盤の短いストレートと角度の浅い高速コーナーのセクションでトップに躍り出る。


ここからだ。


ここからが勝負だ。


カマロとムルシエラゴがコーナーに入る。






―――違和感は、その瞬間に分かった。





 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る