マジで普通の男子高校生が都合のいい世界に転生したら

@hattashingo

第1話 いつも

 木元(きもと)さとる。それが俺の名前。

 父母ともに健在で、下に一人妹がいる木元家の長男。年齢は17歳で高2。

 今日はとても寒くて、俺はマフラー、手袋、そしてコートの両ポケットにホッカイロというほぼほぼ完全装備で家を出た。

 今の時刻は七時三十分。冷たい風に吹かれながら道を歩けば、五分もしない内に最寄り駅に着いた。そこから電車を乗り継いで俺が通っている学校に着いた。そして校門をくぐって、ロッカーで靴を履き替えて、窓側の一番後ろの席に着く。時刻は八時十分。ホームルームまではまだ少し時間がある。

 六割ぐらいのクラスメートはすでに教室の中いて、集まって喋ったり、席でスマホを弄ったり、いつもと同じような感じで過ごしている。

 デジャブっていう言葉が適切なのかは知らないけど、マジでいつもと同じだ。

 つまらない。そう思う。

 でも、こんなつまらない毎日こそが平和らしいから、不満や絶望の感情を抱いてはいけないんだ。そう俺の理性が言ってくる。


 でも、やっぱつまらないよな。


 なんて思っていると、教室の後ろのドアが勢いよくスライドして開いた。ドン、ともガシャとも言えない音をたてたドアが弾みをつけてまた閉まろうとする。

 そいつはいつもの速足で教室に入ってくる。ドアはギリギリのところでそいつにぶつからず、勢いよく閉まって、勢いを落としながら半開きになる。


 でた。


 そいつは速足で、最短距離で俺に向かってくる。

 そしてバンッ、と俺の机に両手をつく。

 近すぎる距離に、そいつの無駄に端正な顔がある。


「なあ、木元。電子ドラッグは既に完成しているぞ」


「そうか。よかったな」


 俺は江本(えもと)の戯言には慣れている。息がかかる距離での会話にも、もう慣れてしまった。だから俺は微動だにしないで、そいつのデカい目をただ見つめていた。気持ち悪いとも、もう思わない。おはようをすっ飛ばして開口一番に発せられる江本の「昨日の夜俺が何々をして思った事、気が付いた事」の報告は最早日常の一ページ。他愛もない。


 さあ、今日の話は何だろう。俺はいつもの様に江本が嬉々と話し出すのを、ただぼんやりと待っていた。


 

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