第11話★オムライス★

半世紀を生きた「私」にとって、卵料理こそ、空腹を癒す生命線でした。


全く大袈裟ではなく。


母親は、大喧嘩して以来、学校で遠足に弁当が必要だと告げても、作ってくれることはありませんでした。

小学校2年生の私が、人生ではじめて作ったお弁当は、おにぎりとスクランブルエッグでした。


イシイのお弁当用ミートボールを前の日に買うことを覚えて、上手に作れなかった卵焼きも巻けるようになって、家庭科実習で煮物を覚えて、やっとお弁当らしい姿を作れるようになったのは、3年後です。


だから、遠足の思い出も、テレビドラマやコマーシャルなどのようなワクワクはなくて、お弁当の中身も知っている、教室では疎外感もあった、という事で、こなさなければならない時間に過ぎませんでした。


卵かけご飯が好きで、それから茹で玉子をおやつにしていて、はじめて作ったお弁当はスクランブルエッグ。

茶碗蒸しを覚えたのは、授業でした。

中学生の時には、冷やし中華にのせるために薄焼き卵を作って、金糸卵にするようになりました。


私の料理の遍歴は、卵と一緒だったのです。

結婚してからも、毎日卵を使っていました。


子供が生まれて、活躍したのが、オムライスです。

お酢を入れて沸騰する鍋に卵を割りいれるポーチドエッグも、子供は好きでした。

保育園の遠足のお弁当にも、小さなオムライスを作りました。


寂しいことも、誇らしいことも、

卵が思い出させてくれます。


道を歩いて、飲食店のメニューにオムライスを見かけると、何度かに1度は、人の卵料理を食べたくて、訪れてしまいます。


カレーライス、オムライス。

それと、母の味のもつ煮。

私には、定番のメニューがたくさんあります。


それが、たとえ、自分で作って来たものでも、誰かに尽くしてもらった記録ではなくても、私の命に私の現世が尽くしていることに、私は誇りを持っていいと思うのです。


…続

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