魔女と警官4

 灰の街には、灰が降っているだけなのですが、あらゆるものがありません。

 まず車両が通れません。岬の先端なのですから、交通の便も悪いですし。

 更に作物が育ちません。チッ素過分になってしまいます。それにすぐ光合成ができなくなってしまいます。大量発生したワカメのせいで、漁業もできません。

 何か某テレビ番組みたいですが、そんな環境で逞しく生活している人たちが、確かにいたのです。

 彼女らは「魔女」と呼ばれました。

 街の外には決して手を出さず、出て行くこともない。そんな生活の中でも、彼女らは自分らの暮らしを守ってきたのですーーー。


「っていう噂がありますけど、そんな大したことないですよ」

「はっ?」

 当の魔女は、警官にまたがったまま言いました。

「まずワカメですが、いつからあれ程育ったのかわかりません」

「…はあ」

「あと、今のところ作物は普通に育ってます」

「そうなんですか」

「ええ」

「それは…良かった…」

「…」

「…でも、こういうことをするっていう噂は本当だった…」

「ええ。お代は結構ですよ?」

「…」


「帰りますか?」

「はい。あの」

「何ですか」

「きれいでした。灰の街も、ゴミ捨て場も、あなたも」

「…」

「今日は、捜査にご協力いただきありがとうございました」


 警官はそそくさとコートを着て、ゴミのトンネルから、まだ雨の降りしきる中へ出て行きました。

 魔女ははだけた服のままでいました。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る