第壱章 国から派遣された者達

 翌日使者が話していた通りに国から派遣された兵士と薬師が神子の家へとやって来る。


「本日より神子様の護衛をするよう陛下よりおうせつかりました。隼人です。神子様の身の安全は保証いたしますのでどうぞご安心くださいませ」


「江渡の街より派遣されました文彦です。今日より神子様の体調管理をさせて頂きます」


背の高い兵士と困ったような顔で微笑む少年が神子へと向けて挨拶すると一礼した。


「よ、よろしくお願い致します。こちらは私の友達の伸介さんです。私と一緒に旅をするのでどうぞ仲良くしてあげて下さいね」


「伸介さんよろしくお願いしますね」


「殿より神子様のご命令には従うようにともおうせつかっている。この者を同行させることが神子様のご命令ならば承知しよう」


神子の言葉に素直に返事をする文彦とは違い命令なら仕方ないといった感じに答える隼人。


「いけすかねえな。お前とは仲良くできそうもなさそうだ」


「仲良くする気などもとよりない。私は命令を受けて動いているだけに過ぎないからな。神子の身を守り悪しき存在を滅ぼす。そのように命を受けて動いている。お前達、くれぐれも任務遂行以外で余計なことはしないようにな」


機嫌が悪そうに伸介が言うとそれに彼が淡々とした口調で答える。


「こいつとの旅も命令されたから仕方なくって感じに聞こえるぜ」


「命令を受けてここにきただけに過ぎないのは確かだろう」


それに苛立った様子で相手を睨み話す彼へと隼人が事実を述べた。


「あんた、人間的に最低だな」


「と、とにかく仲良くしてくださいね」


喧嘩を始めそうな勢いの伸介の様子に神子が慌てて声をかける。


「神子様のご命令ならば仲良しこよしも仕方あるまい」


「ふん。お前が何と言おうとこいつのこと好きになれそうにない。お前もこんな奴に頼るんじゃねえぞ」


「伸介さん……」


「え、えっと。とりあえず。皆さん仲良くしましょう。神子様が困ってますよ」


仕方ないといった感じで答える隼人にそっぽを向いて不機嫌そうに呟く伸介。


その様子に困った顔でどうしようかと考える神子に文彦が声を挟み仲裁する。


「さて、自己紹介もすんだことだし、そろそろ村を出発いたしましょう。いつまでもここにとどまっているわけにはまいりませんので」


「は、はい」


隼人の言葉に返事をすると彼女は両親や村人達が見送る中長い旅へと旅立った。


「まずはここより近い町へと向かい悪しき存在の情報を集めましょう。今の段階では何処に行けばよいのか分かりませんので」


「はい」


「さて、神子様。本日の検診のお時間です。町へ向かうのには少し歩きますので体力がないと途中で倒れてしまいます。ですから検査して体調をみてみましょう」


村を出て少ししたところで彼が目的地について語る。それに返事をしていると文彦がそう言って声をかけてくる。


「まさか服を脱いで身体を見たりするんじゃねえだろうな」


「簡単に熱はないかとか脈を診たりして体に異常がないかなどを見るだけですので服は脱がなくても大丈夫ですよ。そ、それよりも神子様の前で服を脱ぐなんて破廉恥な発言はお控えください」


「お前が顔赤くなってどうするよ。まあ、服を脱いでみないんなら別にいい」


伸介の鋭い追及に彼が頬を赤らめながら答えた。それに溜息をつきながら返事をすると服を脱がなくても大丈夫だって事に安堵する。


「で、では。はじめさせて頂きますね」


「は、はい。お願いします」


文彦の言葉に神子は返事をすると人生初めての検診に緊張しながら脈を診てもらったり熱はないかを調べてもらう。


「少し脈が速いようですが、何かご不安な事でもあるのでしょうか」


「す、すみません。今まで検診なんてした事がないので少し緊張してしまって……」


見抜かれていることに頬を赤らめ恥ずかしがりながら答える。


「誰でも最初の検診の時は不安で仕方ないですからね。脈はいずれ落ち着くと思いますし、今日は旅をするのに特に問題はないですね」


微笑み彼が言った言葉に皆最初は同じなのだと思た途端安心してほっと溜息を吐き出す。


「神子様の体調に問題がないならこのまま町まで向かうが、それでよろしいか」


「はい。私は大丈夫です」


検診が終わるまで待っていた隼人が言うと神子はそれに答える。そうして再び歩き出した。


歩き出してから暫く経ち近くの森の中へとやって来ると禍々しい霧をまとった化物が現れる。


「神子様お下がりください」


「こ、これは何ですか?」


「あれが荒魂だ。成仏できずに死んだ者の魂が悪霊となった姿。お前は危ないから俺の後ろにいろ」


それに一番最初に気付いたのは隼人で腰に差している鞘から刀を抜き放ち構える。


見たこともない化物に驚きながら彼女が言うとそれに伸介が答えながら神子の前へと出た。


「ぐるるるっ。うおおおっ!」


「まるで獣みたい……」


「荒魂は人の姿をしているが全く話なんかできやしない。ああやってただ唸るだけだ」


荒魂が威嚇するように叫ぶ様子に神子が呟く。それに伸介が答えると駆け出し相手の懐を刃で切り裂く。


「ぎゃあーっ。うおおおおおあおあ」


「おっと……やっぱり一撃じゃ倒せないか」


荒魂が叫ぶと腕を振り上げ攻撃してくる。それを一歩背後へと退くことで避けると小さな声で独り言を零した。


「お前では倒せない。どけ。こいつは私が倒す」


「お前なんかに譲るかよ。俺1人で十分に倒せる相手さ」


「ふ、2人ともそんなこと言い合ってる場合ではありませんよ。荒魂が来てます」


隼人の言葉に彼が不機嫌そうに答える。まったくチームワークができていない2人の下に荒魂がゆっくりと近寄って来ていてそれに気づいた文彦が慌てて声をあげた。


「あんたには譲らねえ」


「お前には任せられん」


「ぐるるる。うぁああああっ」


刀を構えて押し合いへし合いしている2人の下に相手が大きく体を揺らして突っ込んでくる。


「「煩い」」


「ぎぁあああっ」


お互いをけなしながら振り上げた刀は荒魂の心臓の部分にあった丸い核を貫く。その途端相手は奇怪な悲鳴をあげて掻き消える。


「荒魂を倒せたみたいですね」


「伸介さんも隼人さんもすごいです。あんな化物を倒しちゃうなんて……」


文彦がほっとした顔で言うと神子が2人を讃嘆した。


「俺が倒したんだからな」


「いいや。私の刀の方が先に相手を貫いていた」


伸介の言葉に彼が淡々とした口調でそう答える。


「やんのか……」


「任務遂行以外で時間を割く気はない」


怒りを向ける彼へと隼人が相手をする時間などないといった感じで答えた。


「やっぱり気に入らねえ」


「あんなに息の合った攻撃をしていたのに、お2人は仲良くなったわけではなさそうですね」


「う~ん……」


その言葉に苛立った様子で言い放つ彼と、涼しげな顔をしてさっさと歩き始める隼人の姿を、遠くから見ながら文彦が苦笑する。


それに神子もなんて言えばいいのか分からず空笑いして答えた。


こんな調子で神子の旅は無事に終えることができるのかと一抹の不安を覚えながら、彼女も歩き去ってしまいそうな隼人の後を追いかけて足を動かす。


町へと向かう最中神子を狙うように時折現れる荒魂を倒しながら先へ先へと進んでいく。


そうして一行が町へとたどり着いたのは1週間後のことで、休息する暇もないまま情報収集のため町の人達へと話を聞いて回る。


「結局悪しき存在が何なのかもどこにいるのかも掴めなかったですね」


「この地域では荒魂以外に深刻な状況になってないから、町の人達もあまり真剣には考えていないのだろう」


町の中を歩き回り情報収集していたが何の収穫もなくがっかりした様子で神子が言うと隼人がそれに答える。


「つまり、この辺りにはいないって事ですね。となるとやはり情報を得るためにも一度都の方へと向かった方がよろしいかと思われます」


「それは俺も賛成だな。都ならいろんな人が行きかうから何かしら情報が流れている可能性がある」


文彦の言葉に伸介も同意して頷く。


「それじゃあ都へ向けて東へと旅を続ければいいんですね」


「そうなりますね。神子様ご無理はなさらないように。なにかあったらすぐに僕に声をかけて下さい」


「はい」


話し合いを終えると神子の体調を考え今日はこの町で宿をとり疲れた体を休ませようという事となり、翌朝次の村へと向けて旅を再開することとなった。

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