第31話 時間の流れ

ミーが旅立ってからどれくらいの時間が過ぎたのだろう。


僕は何とか日々の仕事をする事で、自分自身を保っていた。


お客様を救う事で、お客様に感動を与える事で、

自分がこの世にいる実感を得ていた。


ちっぽけな自分でも自分自身の施術を受けて感動してくれるお客様が増えて来た。

予約も一日中埋まることもある。

自分に出来る範囲ではあるけれど、あと何度、人を感動させる事が出来るのだろうか。


この命が続く限り、力を使い切ろう。


ミーに救われたこの命をこの世界の為に。

それがまわり巡って自分の為にもなる。そう信じて。


ある日、田端先生から連絡が来て、

僕が強迫性障害を少しずつ克服して、

人生を前に向かわせることが出来ているから、

その経験を先生主催のグループワークの場で話をして欲しいと依頼が来た。


テーマは『生きる』との事だ。


最初はこんな凡人の話を聞いて、誰が喜ぶのか。


対して成功出来ていない自分が他人に何か伝える事が出来るのか。

そもそも話す事が思いつかない。

僕は先生に断りを入れた。

でも先生はこう言った。


『君にだからこそ伝えられるメッセージがあると思う。それを考えてみて欲しい』


僕は、考えてみますと返事はしたものの、

そう言った類はやはり何か偉業を成し遂げたスーパースターや、

テレビに取り上げられているような成功者がやるべきであって、

僕のような一般人の、何も才能が無い人間の話は元気づけられることも励ますことも出来ないと思った。


僕は困り果てて、自分の仕事に戻った。

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