第54話

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~???~


「―――以上が、スィーミア伯爵から速達で届いた報告書です。」


 塵一つ無い白い部屋の中心に、見事な装飾の為された大きな円形のテーブルが一台。等間隔に、これまた見事な装飾の為された椅子が12脚。大きなガラスを惜しげもなく使った巨大な採光窓が、遥か高みからそれらを優しく照らし出している。


 会食場か会議場と言った風情の部屋で、険しい顔をしながら書面を読み上げる黒スーツの男。


「ありがとう」


 優し気な笑みを浮かべて感謝を伝えたのは、白を基調とした金の刺繡の入ったスーツを身に纏う、一際豪華な椅子に座っている青年だ。年齢は、12人の中で最も若いように見える。


「…にしても、速達って言うのやめない?情緒ってもんがさぁ…」


「速達は速達です。」


「はぁ…」


 部屋に満ちた堅苦しい雰囲気を全く気にせず、気軽に言葉を交わす二人。まぁ、一人は淡々と受け答えをしているだけなので、実質一人だが。


「で、皆はどう思う?僕個人としては、ウチに招いても良いかなと思っているんだけど。」


 その一言で厳粛な雰囲気は消え去り、部屋が動揺に包まれる。だが、誰も意見をしようとはしなかった。


「やっぱりね、見極める必要があるんだ。“王”持ち…しかも“魔”を冠する“王”が同時に二人も現れる…。それに加えて、百年に一度とまで言われる“道具”持ちまで。」


 再び青年が口を開くと同時に、騒めきは消えた。

ゆっくりと語る青年の目は、光を受けてキラキラと輝いているように見える。


「まぁ、まだそこまでは偶々ってことで、納得しようと思えばできる。でも、それが一つの地域に集中するなんて、何らかの意思が働いているように思えるじゃないか。」


 楽しくて仕様がないと言った風で、大袈裟な身振りで語る。

そこに、下腹部がデップリと肥えた薄緑色のスーツの男が口を開いた。


「…しかしガレア様、それは少々危険すぎるかと。」


 大量の汗をハンカチで拭いながら、億劫そうに口を開く。そんなことは微塵も思っていないが、立場上言わざるを得ない…そのような言い方だ。


「あぁ、君が何を危惧してるのかはわかるよ、ミリナリス卿。国の中枢に、幼いとはいえ単体で国を左右する程の存在を複数呼ぶのは危険。まして、国家元首自身が対面するのは言語道断…と言うのだね?」


「分かっているのならば、いいのです。」


 まるで中身の無い、上っ面だけのやり取り。そこには、今まで幾度も繰り返されてきたような不思議な安定感があるように感じる。


「さぁ、我らが安全を保障する軍務大臣の承認も得られたわけだが…他に何か意見のある者は居ないかい?」


ガレアと呼ばれた青年は、ぐるりと円卓に座る面々の顔を見渡す。止めても無駄だろうという呆れ顔が大半だ。


「うん、居ないようだね!じゃあ、近々に使者を送ろう。最適な人員に心当たりのある者は居るかい?」


 その言葉に、対面に座っている二名がバッと勢いよく手を挙げた。


「それならば我ら騎士団にお任せください!魔法しか能が無い連中とは違い、護衛は得意中の得意でござりますれば!」

「ワタクシ共、魔法士団にぜひお任せを。戦うしか出来ない脳筋共とは異なり、賓客にふさわしい応対が可能ですわ。」


 競い合うように、ほとんど同時に口を開き自己アピールをする。と同時に相手のイメージダウンも忘れない。ある意味で息の合った口撃だ。


「じゃあ、両士団に任せようかな。使者が決定したら、名簿作って提出してね。」


「御意!」「拝命致しますわ。」


 返事もほとんど同時。互いに睨み合うように、強い視線を送り合う。


「じゃあ、次は彼らの今後について考えようか。僕としては、全員王学に勧誘して、観さ…監視するのが良いと思ってるんだけど、どう思う?」



 穏やかな日差しを受けて、会議は粛々と進んで行く―――――



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

~騎士団~


「―――と言うことがあってだな!」


 語尾の非常に強い女性が、屈強な男たちの前で、物怖じもせずに報告をする。

この女性、騎士団の中でも精鋭と言われる第一師団の団長である。つまり、騎士団のトップだ。


「はぁ…貴女はいつもいつも…」


 その三歩半後ろで控えている青年が、額に手を当てため息を吐いていた。


「で、だ!その任務は、ヨハンに任せようと思う!」


 女性は、親指で自分の背後を指して、高らかに宣言する。


「はぁ!?」


 対して、ヨハンと呼ばれた青年は、予想外の宣言に目を丸くして変な声を漏らした。


「いや、お前にもそろそろ重要な任務の一つでも任せるべきかと思ってな!」


「いや、重要過ぎますよ!私、副団長に就任して一ヶ月も経ってませんからね?さらに言うなら、入団してから2年目ですからね?」


「はっはっは!なんだ、自慢か?」


「違いますよ!荷が重すぎるって言ってるんです!」


 女性の、馬耳東風と言った様子に思わず声を荒げる。


「ふむ…だが、対象の一人にお前の妹が入っているぞ?」


 その一言で、更に文句を言おうと開いていた口がピタッと止まる。


「ほら、見てみろ。この“王”の一人だ。お前の妹だろう?家名も一致しているし、年齢もお前の言っていた通りだ。」


 ヨハンが覗き込むと、そこには紛れもなく愛妹の名前が書かれていた。と、その下に初めて見る男子の名前が見えた。

 その瞬間、背筋をビシッと正して女性の目を見据えた。


「やります。」


「ふふふ、君ならそう言ってくれると思ったよ!」


「えぇ、この任務命に代えても遂行して見せます。」


 何やら、決意の籠った瞳で敬礼をするヨハン。


「え、いや、たぶん危険の無い任務だから、そんなに気負わないで?」


 異常な熱意に気圧されて、思わず語尾が普通に戻ってしまっている。


「ふふ…ふふふ…誰だか知らないが、うちの妹を誑かした罪は重いぞ…!」


暗い笑みを浮かべ、拳からはギリギリと、鳴る筈の無い音が聞こえてきた。


「…君に頼んだの、やっぱり間違いかも。」


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