第2話 女神フィルトの苦悩

神との言い争いの後、ふと、あることを疑問に思った。


(なぁ、俺の友人と言ったら、省吾しょうごのことだよな?なんであいつが選ばれたんだ?)


 省吾とは、荒井あらい省吾という、俺の唯一無二ゆいいつむにの親友だ。あの時、俺たちは3人でいたが、看板が落ちてきたのは省吾の真上だけだった。


 一応、神が相手なのだが、先ほどのみっともない口喧嘩くちげんかの後では、敬語にする必要性をサラサラ感じなかったので、タメ口で話している。


「あぁ、そのことね…彼は、順応力が極端きょくたんに高いのよ。気持ち悪いぐらいにね。どのぐらい高いかって言うと…急に体を毒虫に変化させても、2秒ほどで慣れて日常生活を始めるぐらいね。言っておくけど、これは異常よ?急に体の構造が変わって、簡単に馴染めるわけないわ。私が神格化した時、最初は歩くどころか立つことも難しかったんだから。人間と変わりない姿をしていても、神と人とでは大きな違いがあるのよね。」


(なるほどねぇ…でも、その順応力が異常なのと、殺すことに、何の因果関係いんがかんけいがあるんですかねぇ?ねぇ?メガミさま?)


「うるさいわね!これから説明するところなの!それに、私にはフィルトと言う美しい名前があるの!ちゃんと、フィルト様と呼んで!」


(美しいねぇ…フッ。でぇ、ふぃるぅとぉ様ぁ。なぁんで省吾を殺そうとしてぼくがしんでるんですかねぇ?神のはた迷惑な行動に巻き込まれた憐れな子羊に教えてくださいよぉ?)


「あぁ!今鼻で笑ったわね!それに、悪かったってさっき謝ったじゃない!まだ根に持ってるの!?」


(当たり前だろ!殺されて根に持たない奴なんて、よほどの聖人か馬鹿バカだけだろうよ!)


「はぁ…もういいわ…。あれだけの順応能力があったら、人以外に転生させても面白いかなと言う思い付きらしいわよ。」


(あぁ?ラノベとかでよくある人外転生ってやつか?しんどそうだな。)


「まぁ、概ねそんな感じね。順応性が高いから、人からかけ離れた形状のアレでも、面白くなりそうだって理由で選ばれたのよ。」


(ははぁん。なるほどねぇ。んじゃあ、俺がここにいる理由は?あいつがターゲットだったんなら、俺はここに居なくてもいいよな?)


「あぁ、それね…それは、うっかり別の人がお陀仏だぶつしちゃったから、焦って連れてきちゃったのよ。」


(あぁ…ダメな奴だ…神はこんなのばかりなのか…?)


「だーかーらー。悪かったって言ってるじゃない。それに、一度は神の手で確定させたはずの未来を、ただの人間が改変したんだから、あなたでも転生して上司を満足させられると思うのよ。」


(あー、はいはいそうですね。それで?俺を異世界転生のチーレム無双でもさせてくれるんですかねぇ?)


「お、おおむねその通りよ。チーレム無双とやらができるかどうかは、あなたの頑張り次第ね…。何しろ、転生先はあの子の転生予定先だから、辛いと思うけど…。」


(そんなにきついのか?急にやる気なくなってきたわ…。人外転生と言うと、スライムとかゴブリンが思い浮かぶが…。俺の転生先は何なんだ?)


「えぇと…まぁ、それは転生してからのお楽しみと言うことで…。そ、そんなことより、あなたには自動言語翻訳と経験値けいけんち取得効率10倍の基本特典に合わせて、お好きな転生特典を一つ上げるわ!これで、頑張って次の生を生き抜いて頂戴!」


(おぉ!マジか!やったぜ!…と言うか、だいぶ手馴てなれてるな…もしかして、結構な人を殺してその世界に送ったとか?)


「ギクゥッ!…そ、そんなことあるわけないじゃない…?確かに、上司は面白いもの好きで似たような命令を出すけど、そんな何でもかんでも転生させたら、世界が狂っちゃうじゃない!」


(つまり、他の世界になら転生させた…と?)


「うっ…そ、そうよ!その通りよ!なんか文句あるぅ!?それに、そっちの世界にも何人か送り込んでますがぁ!?だいたい、矮小わいしょうな命にどうこう言いすぎるのよ!あんたたちの世界は!なによ!ちょっと頭が良くて数が多いからって調子に乗っちゃって!人間の天敵になりそうなものをいろんな世界から送り込んでやろうかしら!?」


(ちょっ…逆ギレすんなって…。と言うか、絶対やめろよ?ほら、なんか飲んで落ち着いて。)


「フゥ…ありがと…ゴメンね。上司からいろいろ言われてストレス感じちゃってね…。あのクソ上司ったら、もし他の人を巻き添えにでもしたらどうするのかって言っても聞かなくてね…グスッそのくせして、ターゲットを他の人に助けられてその人が死んだのを私のせいにするのよ…グスッ…そのうえ、仕方ないから転生予約先だった世界に迷惑かけるのもあれだからって、あなたの魂送り込んで誤魔化ごまかせって言って来て…グスッ」


(そ、そうか…あんたも大変だったんだな…その、悪かったって。何も知らずに責めるようなこと言ってさ…ほら、泣き止めって。ん?ちょっと待て?最後の方の上司、俺のあつかひどくない?)


「グスッ…うちの上司、結構なクズなの…。何人もの人間に求婚して、本妻に叱られたり、不倫ふりん相手の子を本妻に育てさせようとしたり…そりゃ、怒って奥様もその子を放り出すわよ。美しい娘を見たら、見境が無いんだから…。」


(ん?どっかで聞いたことがあるような無いような…まぁ…気にしちゃ負けだな。)


「そうね…あなたたちの世界では、全知全能とか言われたりしてるわ。」


(…………。)


「このまま転生だと、あなたはあまりにも可哀想よね。と言うわけで、特別に追加特典をあげるわ。」


(あれ?さっき貰ったあれは?)


「あれは、転生者の基本特典よ。他の転生者はみんな持ってるわ。たまに、持ってない人もいるにはいるんだけどね。それは無くてもイケる!って思われた特別な人ね。」


(へぇ…ない人は苦労しそうだな。それで、追加特典って?)


「まぁ、あなたたちがよく言ってるチート能力?ってやつよ。ちなみに、他の転生者にはあげてないわ。基本特典セットがあれば、たいていは何とかなるもの。でも…あなたの場合は、転生先が特殊とくしゅだからね…謝罪の気持ちでもあるから、受け取ってほしいわ。」


(わ、分かった。ところで、特殊な転生先って…?魔族とか、魔物とか…?)


「あぁ…そうね…魔物…に分類されるわね、一応。それで、追加特典なんだけど、どんなのがいいかしら?大体は行けるわよ。あ、でも、神様を連れていくとか、異性に好かれやすくなるとか、死者を時系列じけいれつ関係なく蘇生そせいとか、神になるとかはダメよ。強すぎてバランスが崩れるもの。異性に好かれやすくなるのは…人の心を操作することは、神の法律的なので規制されているのよね。」


(へぇ…そうなんだ。なんか、アラビアンな夜の3回擦ると魔人が出てくるランプの話みたいだな…)


「き、気のせいよ。このルールは上位神が集まって決めたものだから、私は知らないわ。」


(ふーん。まぁいいや。それなら、聖剣とか神剣とかがいいかな。)


「そ、そうなの?あなたの転生先だと活用しようがないように思うけど……一応、人型の進化先もあるから、良い…のかしら…?」


(なぁ…さっきからちょくちょく不安になること言ってるが、大丈夫なのか?)


「だ、大丈夫よ!きっとうまくいくわ!他に!剣に対する要望とかはないかしら?」

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