向日葵のような君へ

カイト

第1話

「あの雲の名前ってなに?」

ベンチの横に座る彼女が無垢な笑顔を僕に向けてくる。見上げるとそこには夕暮れにちらほら雲がゆっくり動きながら浮いている。

「たぶん巻雲かな」

繊維みたいな、つかむことのできなさそうな、力なさげの雲だ。

雲の特徴を説明し、彼女は納得した顔で僕を褒めてきた。


彼女の名前は彩佳。あまり身長は高くなく、特段面白い人でもないが、ひとなつっこくて、向日葵みたいな笑顔が輝いた女の子だ。僕とは小さいころからの幼馴染で今は同じ高校に進学している。

正直に言おう、僕は彼女のことが好きだ。少しあか抜けた感じ、ほかのだれも持っていない落ち着きがある。

雲の名前を聞いてくるなんてそんな青臭いことあるのかと思うかもしれないがそういう青臭いことを時々口走るのもまた彼女の特徴なのだ。


「達哉って変なこと知ってるのよね。前から思ってたんだけど、なんで?」

実は同じことを最近考えていた。これからの人生に使えそうもない、どうでもいい知識をなぜか知っている。

「わかんない。新聞とかよく読むからかな」

適当に返事をして会話を切った。僕は明日が締め切りの課題をまだやっていない。

「大事な話ってなんだよ」

はやめに帰りたいばかりに強めの口調で言ってみる。

「高松先生ってね、デキ婚なんだって!」

「それだけかよ」

言葉とは裏腹にかなり動揺している。生物をわかりにくく教えてくれる先生がデキ婚とは、世の中何が起こるかわからないものである。

気になるトピックではあったが、課題があることを彼女に説明して足早に公園を去った。

両親共働きだし、なんだかんだ彼女との時間が一番安心する気がする。


あんなことが起きるまでは。


部屋についてパソコンと向き合い、課題を終わらせ、そのまま寝てしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る