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 先輩の名前は「堀崎倫也ほりざきりんや」という名前だ。

 同学年の女の子の名は「西木綾実にしきあやみ」という名前だった。

 今は「堀崎綾実ほりざきあやみ」だ。


 倫也先輩は東京の音大に行って、綾実ちゃんは海外の音大に留学した。

 それから二人は結婚した。


 倫也先輩と綾美ちゃんの間には珠のような女の子が生まれた。

 二人はその子に「菜穂なほ」と名付けた。

 本当に幸せに満ちた家庭だった。

 その家からはいつも笑い声と音楽が響いていた。


 私は地元の音大に行って、今は声楽を教えている。

 結婚はしていない。子供もいない。


 ある日、14歳になった菜穂ちゃんが私に弟子入りした。

 菜穂ちゃんの歌声は春に咲き誇る花のように優しく、華やかだった。

 それは私よりも素質がある何よりの証拠だった。


 


 あの中2の夏の日々。

 あれは私の音楽人生で一番燦燦と輝いていた。

 それは真昼の太陽のように、まるで真夜中の月のように。

 

 私は千絵先生のように菜穂ちゃんに音楽を教えられるのだろうか。

 倫也先輩や綾実ちゃんのように名は無いけれど。

 「どうして私を選んだの」

 そればかり考えている。

 「君の歌は菜穂にきっといい影響を与えるからだよ」

 あの人はそう言ってくれた。


 「どうして私を選んでくれなかったの」

 25の春、それが私をきつく縛り付けていた。

 「お二人の幸せを、いつまでも願っております」

 私は海よりも大きな嘘をついた。


 私はあの夏だけ、生きていた。

 私はあの夏しか、音楽を知らない。

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