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 ひどく私を嫌いになることはありませんか。

 わたしを思い出すと吐きそうになることはありませんか。

 ひどく自分がいやになることはありませんか。

 自分を思い出すと消えてしまいたくなることはありませんか。

 「鴎渚白かもめなしろ」はそうでした。

 私はそうでした。


 「鴎渚白」は内気で、臆病で、怠惰で、肥っていて、仕草が煩いぶりっ子で、図々しい顔立ちの女の子でした。「鴎渚白」はいつも余計なことばかりしてしまいます、いらない口を出してしまいます、言葉をよく理解出来ないときがあります、自分のことを嫌ってしまいます。「鴎渚白」は好きな男の子がいました。でもこんな私では絶対に釣り合わないし、私自身がこんなに最低だから絶対振り向いてくれないのです。でも見惚れてしまうのです、目が合うと赤くなってしまうのです、声を聞くと幸せになってしまうのです、こんな私なのに!「鴎渚白」はクラスメイトからよく「可愛い」と云われます。でも言葉の本意を深く読もうとしてしまうのです。折角そう言ってくれるのに。でも私は「可憐な女の子」の顔では無いからなかなか信じることはできません。でも私は「可憐な女の子」の性格では無いから否定が言えません。そしたら自分を「可愛い」と思っていると勘違いされてしまいました。本当にそうだったらこんな気持にはなっていないのに。私はなんて醜いんでしょう!「鴎渚白」は苦手な女の子がいます。アイドルにいそうな顔立ちの、言葉の一つ一つに自信のある素敵な女の子でした。顔色を伺いすぎてしまったのでしょうか、怯えすぎたのでしょうか、避けすぎたのでしょうか。なんだか冷たいものを彼女から感じるのです。「鴎渚白」は自分のことが何よりも嫌いでした。どこか不機嫌そうな私の顔立ち、いつも怯えてばかりの私、外面そとづらを良くしようと媚を売る私、つまらない失敗ばかりしている私、親に何不自由無い生活をさせて貰っているというのに胡座をかいてしまっている私。考えただけで反吐が出てきそうです。

 考えただけで反吐が出てきそうです!


 



 「あんた、自分のことを思い出して来たじゃないか。」

 ウミユリが云いました。

 「こんな自分のことなんて思い出したくないわ!」

 わたしは叫びました。

 「あんたはいつまでここに閉じ籠もるつもりだい。

 あんたはニンゲンなんだろ。外に居場所があるんだろ。

 いつもでも幻想に縋っていてはいけないよ。」

 ウミユリは澄んだ通ったこえで真っ直ぐわたしに云いました。

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