(九)「世襲議員」と 戦国大名

「このあたりで息子に譲りたい」

前防衛大臣・岸信夫衆院議員の発言だそうな。

何を譲るの? 選挙区? 自分の城や領地じゃあるまいし。

歴史小説を書いている私には、まるで戦国時代の家督相続のように聞こえてしまう。


歴史を遡ってみると、家督相続には紛争が付きものである。

・古いところでは、672年「壬申じんしんの乱」

 天智天皇が崩御した後、弟の大海人皇子(天武天皇)と息子の大友皇子の間に起き

 た天下を二分する戦いである。

・平安時代には、1156年「保元の乱」

 鳥羽法皇が崩御すると、中継ぎとして皇位に就いていた後白河天皇と、息子の重仁

 親王を王位に就けて院政を敷きたい崇徳上皇が対立した。

戦国時代に入ると、家督争いは枚挙に暇が無い。

・1536年今川家、早世した氏輝には子が無く、出家していた弟の承芳(義元)が

 還俗して家督を継いだ時の「花蔵の乱」

・1578年上杉家、謙信の死後、共に養子となっていた景勝と景虎が争った

 「御館の乱」

あの織田信長でさえも若い頃、弟の信勝(信行)を謀殺して家督を手に入れている。


では、何故に家督相続には紛争が付きものなのだろうか。

・「壬申の乱」においては、天智天皇が病床に大海人皇子を呼び「お前に後を託す」

 と告げた。大海人はこれを承諾すれば命が危ないと察知し、固辞して吉野へと出家

 する。天智天皇を支えた中臣(鎌足)ら近江の勢力が権力を渡すまいと大友皇子を

 擁立していた。大海人は大和から東国の勢力を結集してこれを討ち破った。

・「保元の乱」では後白河天皇と崇徳上皇の争いに、藤原摂関家や源氏・平家も家中

 を二つに割っての激しい勢力争いが繰り広げられた。結果、後白河を擁する信西、

 平清盛、源義朝サイドが勝利する。

・「花蔵の乱」では正室・寿桂尼所生の五男(義元)に対し、今川家重臣・福嶋氏が

 血筋である三男を推戴して兵を挙げる。太原雪斎や北条氏綱らの支援を受けた義元

 が勝利して家督を継いだ。

・「御館の乱」では謙信の甥である景勝に対し、前の関東管領・上杉憲政が北条家か

 ら質として養子に入っていた景虎を支持した。直江兼続らが担ぐ景勝方が勝利し、

 景虎は討死してしまう。


ある大名家に二人の男子がいたとしよう。当然のこと、二人には家臣が付けられる。やがて長男が家督を相続すると、次男の家臣たちは冷や飯を食わされることになる。即ち、家督相続は当事者のみならず、それを支える家臣団にとっても一生を左右する大きな問題なのだ。故に家臣たちは主君を押し立てて家督争いに突入するのである。


さて、世襲議員の話に戻ろう。議員にはそれを支える後援会という組織がある。

もし議員が死亡、或いは何らかの理由で辞職したならば後援会は存在意義を失う。

他の議員が自らの後援会を率いて当選しようものなら、旧後援会の重職たちは飯の

食い上げとなってしまう。そこで替わりの人材を探し出し、会の組織力で当選させ、その議員を思いのままに操って引き続き甘い汁を吸おうと企むのである。

私は政治評論家ではないので間違っていたら「ごめんなさい」。以前に現職の総理が亡くなった時、当初は乗り気でなかった娘さんを後援会が無理やり引っ張り出したという記憶がある。弔い合戦とやらで当選すると後援会はやりたい放題、法に触れる問題まで起こして女性議員はしばらく表舞台から遠ざかることとなった。但し、ご本人はいたって実直な方のようで、最近ようやく名前を耳にするようになった。


当たり前のように親の地盤を引き継いで、後援会の傀儡となってもらっては困る。

世襲は感心しないが、しかし二世議員が悪いとは思わない。父親の背中を見て育ち、この国を如何に導くべきか真剣に考えている方もおられると思う。票集めに駆り出されたオニャンコ議員などより余程まともである。ならば親の地盤を引き継ぐのではなく、別の選挙区で他の候補者たちと正々堂々闘って議員になってもらいたい。


イギリスでは、子が親と同じ選挙区から出馬することはほとんど無いと聞いたことがある。さすが先進国だと感心する。残念ながら我が国は、経済は先進国(一流)だが政治は二流(後進国)なのだ。

日本でもこれらを参考にして選挙制度を改革して欲しいところだが、自分たちの不利になるようなことを議員がやるはずもないか。今こそマスコミは、特に隣国におもねる左派系マスコミには、ただ政権の足を引っ張ることに終始するのではなく、将来を

見据えた建設的な問題提起をして頂きたいものである。

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