第46話

 晴美さんからかなり離れた場所の応援席では、興田 道助は微笑んでいた。ノウハウにアップデートしたプログラムはロケット燃料を積んだドラックレースから高度なテクニックを必要とするサーキットからのデータを開発したものだった。

 人間ではどうしても勝てないのだ。

 角竹は神妙な顔をしていた。

 国が衰退するよりは、当然発展した方がこれから余生を送る身としては一番いいが。アンドロイドのノウハウに介護をされるのは、確かに孤独死と何ら変わらないのでは?

 しかし、お年寄りは最後の最後は隠居しなければならない身ではないだろうか?

 長年、人として生きていたのだし、老後の愛情の大切さは解るが。日本の将来を考えることはそれよりも重要では?何かを後世に残したいのならば、その方法にしがみつきたい。

 角竹はこっくりと頷いた。

「興田君」

 興田 守の方に首を向けた。

「絶対に勝つのだ。例えどんな手を使っても、相手を殺してでも……」

「承知しました……」


 コーナーの出口は、当然ストレートの入り口である。いかに早くスピードを全開にするのかが大切だ。

 僕はランボルギーニ・エストーケのアクセルを踏みきった。

 未だ前方を走る相手のノウハウのカナソニックスカイラインもスピードを上げる。時速360キロの世界に瞬く間に突入した。


「あっーと、山下選手。淀川選手がスピン!! 周囲のノウハウが乗った種々雑多な自動車も巻き込んだ!! 」

 竹友が応援席から立ち上がった。

「相手はノウハウが乗った全長12メートルのトレーラー三台ですね。まさか、Aチームの後ろを潰すために用意したとしか思えません」

 斉藤は身震いした。

「あー……これはまずいですね、死人がでなければいいんですが……」

 竹友は気落ちした暗い表情をした。


「藤元――!! 出番だーー!! 行ってこーい!!」

 応援席の悲鳴を聞いた美人のアナウンサーは隣の藤元に向かって吠えた。多数のテレビ局も唖然としている。

「ハイっす!!」

 藤元はそう叫ぶと、空を飛んだ。


「おっと、応援席から誰か飛んできましたね」

 竹友が不思議がった。

 空を飛ぶその人物はコーナーへと降りて、神社なんかでお祓いに使う棒を振り回している。

「何が起きているいるのでしょう?」

 竹友は斉藤に首を向けた。

「さあ……解りませんが……おや?」

「あー!! 山下選手のランボルギーニ・ソニアと淀川選手のランボルギーニ・ラプターが走り出しました!! 命の別状はなかったのですね。それにしても、なんて頑丈な車でしょうか、ピットは必要ないですね。斎藤さん」

 斉藤は首を傾げ、

「いや……確かに死んでしまうはずですが……」


 僕は再びコーナーからストレートで初速を上げた。

 先頭のノウハウは絶妙な減速をしてコーナーから出て初速を上げた。

 ストレートでは、後方からもノウハウが乗車しているトミカスカイラインターボとフェラーリ FFが迫って来た。

 スリーワイドになった。三台が横一線になることだ。


「おーっと、スリーワイド!!」

 竹友はマイクを握り、

「これは難易度が高い!!」

「ええ、これは難しいですね。私なら、様子を見るか。どちらかが先頭を走ればその車に優先権がありますが、相手はノウハウのBチームですからね」


 そうこうしているうちに、後ろを走っている流谷がコースアウトした。

 Cチームの10tトラックがぶつけてきたからだ。

 流谷は止む無く車から降りて、スカイラインGTRを押してコーナーに入ろうとする。

 その時、後方からもう一台の10tトラックが迫って来た。


「あ!! 轢かれました!!」

 竹友が悲壮感漂う言葉を残して、立ち上がった。

「死者がでてしまいましたね……この勝負。駄目でしょう……」

 斉藤は空を飛ぶ人物を目撃した。

 その人物は流谷の袂に降りると、神社なんかでお祓いに使う棒を振り回した。倒れていた流谷が何事もなく起き上がった。

「え!!」

 竹友はさっきより真っ青になって、マイクを握りしめた。

「信じられません!! 流谷選手が生き返りました!!」

 斉藤もぶるぶると震えて、

「何が起きているのでしょう……」

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