第39話

 九尾の狐が僕の隣で、

「うまくいった?」

 僕は小型の端末を大事そうに抱える九尾の狐の神業のハッキング技術に感謝し、晴美さんの周りを見た。

 夜鶴が晴美さんの背後に見えない様にしゃがんでいた。


 後はシークレットサービスのノウハウが二体とボディガードの男性が三人。同じ選挙カーの屋根にいる。選挙カーの屋根に敵がいるか、選挙カーの屋根に敵が上るか、夜鶴はそれらを警戒しているのだ。

 晴美さんは夜鶴に目で合図をすると、マイクを力強く握った。

「国民の皆さん。スリー・C・バックアップを受け入れましょう。ノウハウを人間に近づける技術は、日々のノウハウの技術開発をしてくれていましたC区のお蔭です。労働力の確保のためにも、国民のためにも、ノウハウが老人福祉には必要不可欠なのです」

 辺りの人々は、内容が興田 道助と同じなので首を傾げるもの。不安げなものが現れだした。

 晴美さんはニッコリと笑って、重大なことを言ってくれた。

「そこで、私の政策にはノウハウを一家に一体。無料で提供します。勿論、スリー・C・バックアップのデータが入った状態でです。ノウハウに関係した部品の物価は凍結しますから、どうぞ、安心して一家に一体だけノウハウを置いて下さい。それが私のマニフェストで……」

 晴美さんがそこまで言うと、

 大歓声の中、

「ふざけるなーーー!!」

 いきなり、警備の警察官の脇を掻き分けた男性が、白いロープを乗り越え、選挙カーの屋根に上って叫び散らす。


「日本が更に衰退するじゃねえかーー!!」


 その男はズボンからナイフを手にしたが、瞬間、夜鶴のコルトが火を吹いた。

 弾は男の胸に命中して選挙カーから道路へと転げ落ちていった。

 夜鶴の射撃などの手の速さは、3年前の野球の試合で僕は知っていた。

 僕は胸を撫で下ろした。

 晴美さんは身を低くしていたが、また、真っ直ぐに立ち上がり、

「一家に一台だけノウハウを人間のサポートにする。これが、私の政策です。あくまでノウハウは人間のサポートなのです。どうか、皆さん。私に。人間性を一番に尊重する私に、清き一票をお願いします」

 晴美さんは演説をしながらの選挙カーが僕の目の前を通り過ぎていった。

 僕はもう安心だと思い。晴美さんの選挙カーを見送り、家に戻った。


「どう? 暗殺は防げた?」

 34階のキッチンのテーブルで、顔を伏していた河守が開口一番その言葉を口にした。

「ああ……」

「どうしたの? 何か思わせぶりな顔ね?」

 僕は胸騒ぎをしていた。

「何か変なんだ……?」

 河守が立ち上がり、僕の顔を覗いた。

「変……?」

 九尾の狐と原田が廊下のエレベーターからやってきた。

「取り敢えずは、一安心ね……」

 九尾の狐は小型の端末を大事そうにテーブルに置いて、一息入れるために大量の砂糖を入れたコーヒーをキッチンで淹れた。

「雷蔵さん。浮かない顔だね?」

 原田はあのボディアタックのせいで、顔が上気している。

 

 多分、久々なのだろう。

「ああ……今思ったんだけど……選挙には勝つのか?」

 僕は胸騒ぎの原因が解りかけていた。

「それは……?」

 河守が首を傾げた。

 興田 道助の宣言では金がかからない。逆にA区を食い物にすれば、B区とC区。つまり、日本の将来性に金が入る政策だ。

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